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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
44/89

42節 第一関門

 あれは何だ。

 バイクの傍らで杏哉の合図を待っていた悠平は、もう1人の人物らしき者をその目で見てしまった。その人物が敵であるという確証はまだない。

 1人が2人になったところで、杏哉に敵うはずはないだろう、と悠平は予測する。なぜならば杏哉は霊皇神社で2人の人物の攻撃を全く受けずに撃退したとこ話だから。物体をすり抜けることができる杏哉の能力は解除しない限り無敵だろうと、悠平は信じている。


「大丈夫ですよね……杏哉さんは強いから」


 と言いながらも、悠平はイデアを展開していた。割れた鏡のようなイデアは周囲の様子を映す。が、次の瞬間。彼が鏡を通じて見たものは火炎放射器を持った男――多々良雅樹の姿だった。

 ――危ない!

 杏哉の指示を待たずして、悠平は動いていた。


 4秒。

 雅樹の展開したイデア――金色の葉が怪しく光る。


 3秒。

 雅樹が火炎放射器を上げる。


 2秒。

 2人目の男――太一が雅樹の狙いから外れる。


 1秒。

 雅樹が火炎放射器のトリガーに指をかける。


 0秒。

 火炎放射器から炎が噴射された。炎は杏哉に向けて一直線に放たれるが――

 悠平はそのときにおそるべき範囲にイデアを展開した。その範囲、半径20メートル。その範囲内に大小の鏡の破片が現れる。炎は杏哉のすぐ近くにあった10センチほどの破片に当たり、その方向を変えた。


 避けることもできたが、雅樹はあえてその炎を浴びた。


「悠平くん!?」


 杏哉はそのときはじめて後ろを向いた。後ろから杏哉を狙っていた雅樹は何があったか――悠平の咄嗟の反撃によって火だるまになっており、明らかに興奮しているように喘いでいた。少なくとも悶えているようではない。


「すみません、迷惑なら引っ込んでいます!」


 悠平は言った。


「いや、その必要はない。君は役に立っているんだし。これで2対2だな」


 杏哉は太一の方に目線を移した。太一の体には電気のコードのようなものが絡みついており、そこからバチバチと電気が漏れていた。


 この拮抗した状態で先に動いたのは太一だった。

 太一は後ろに下がったかと思えば姿を消し、悠平と杏哉の視界から消えた。


「構えろ!どこから攻撃が現れるか――」


 このとき、杏哉は悠平の異変に気付いた。

 悠平は何もない空中をぼうっと眺めていた。口は半開きで、顔色もよくない。次の瞬間、悠平は両手を地面について胃の中身を吐いた。胃酸の臭いが辺りに広がってゆく。

 杏哉は雅樹の能力をよく理解していたつもりだが、彼の性癖ゆえに忘れていた。――雅樹は酸素濃度を高めて酸素中毒を引き起こすだけでなく、逆に酸素濃度を低下させて人を窒息させることもできる。

 杏哉は雅樹を包む炎が弱まっていくのを見て、能力を思い出した。それと同時に杏哉は動く。悠平を小脇に抱え、杏哉は雅樹からできるだけ離れようとした。


「大丈夫か!吐き気はまだするか!?」


「はい……少し」


「俺は多分大丈夫だ。とにかく、あのコンビニにいてくれ」


 杏哉は言う。彼の言うコンビニ――スクエアKは廃墟からそれほど離れていない場所にあった。建物の中なら、と杏哉は信じて悠平をスクエアKまで連れて行った。

 悠平は自動ドアを抜けてコンビニの中に入る。一方の杏哉はその様子を見届けて廃墟の方へ向き直る。

 相変わらず太一の姿はとらえられないが、雅樹の方は体についた火が消えていた。彼の着ていた服はぼろぼろに焼け、上半身裸に近い状態だった。杏哉はまず彼を相手取ることになると確信し、イデアで自身の体を包んで廃墟の方へ進んでいった。


 ――酸素濃度の低下で俺はどうやら影響を受けなかったみたいだな。正直どこまですり抜けられるか楽しみだったが。

 杏哉は雅樹にゆっくりと近づいた。




 対する雅樹も杏哉の様子を見ていた。が、彼の能力も知っていたがゆえに対処法を思いつかないでいた。


「太一さん。神守杏哉の方はどうします?」


「簡単だ。もう1人を人質にすればいい。解除させてしまえばただの人だ。噂で聞くような吸血鬼じゃないわけだし、別に問題はないだろう?」


「確かに!じゃあ、もう1人の方は頼みますよ!」


「そうだな!」


 その声とともに、太一は姿を現した。彼がいた場所は意外にも建物の残骸の影。杏哉でさえ予想できなかった場所で、太一は周囲の様子をきっちりと観察していた。太一はイデアを解除し、廃墟に隠していたニット帽とサングラスとマスクをつけ、黒いコートを羽織って悠平の入っていったコンビニへと向かった。


 それと入れ替わるように、杏哉が雅樹の方へ向かってきた。


「待ってたぜ!」


 雅樹はそう言ってライターを拾うと、火を杏哉に向けて放った。酸素濃度が高められたことでよく燃える炎は、炎の魔法のように杏哉に襲い掛かった。しかし――


「ライブのパフォーマンスみたいだな!いいぞ!俺もこういうのは大好きだ!」


 対する杏哉は当然ながら無傷。炎を抜けて雅樹に迫るとイデアを一部解除して雅樹の右手を強く握った。雅樹の右手の骨は鈍い音を立てて粉砕された。


「ぐあっ……」


「これが悠平の分」


 と、雅樹は言った。


「これが」

「いいのか?お前の連れて来たやつ、太一にやられちまうぜ。あのコンビニに向かったところだが」


 雅樹は何の意図があったのか、悠平のいるコンビニ――スクエアKを左手で指差して言った。スクエアKはどういうわけか停電しており――

 杏哉は焦る気持ちを抑えて雅樹の方へ視線を戻した。


「何を考えたのか聞くこともないな。とりあえず、寝ていてくれ。君たちは俺を怒らせた」


 杏哉は慈悲もなく雅樹の顎にアッパーを入れ、雅樹は気を失った。

 その後、杏哉は急いでスクエアKへ向かうのだった。



スクエアKはサークルKというコンビニが元ネタです。大丈夫かな、これ。

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