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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
43/89

41節 知っている顔

 12月26日、早朝。


 まだ日も上らない時間、春月市の道をバイクが駆け抜けていった。バイクに乗っていたのは和服の上からダウンジャケットを羽織った芦原キリオと、彼が目的の人物に引き渡す予定となっている秋吉杏助。

 2人が一言たりとも発することなくバイクは目的地――霊皇神社へと向かっていた。


 鮮血の夜明団春月支部と霊皇神社のちょうど中間くらいにある場所、とある廃屋の跡地。残骸となり、原型をとどめない廃屋は1か月半ほど前に杏奈の手で破壊された。その空き地に残されたブロック塀の影に赤髪の男がいる。彼は何者かを待っているかのように、川沿いの道を眺めていた。

 そして。2人の男を乗せたバイクが彼の目の前を通り過ぎた。

 すかさず赤髪の男――多々良雅樹は携帯電話を手に取ってある人物に電話をかけた。


「零さんか?俺だ。芦原キリオと秋吉杏助は無事に中間地点を通過。ルートは俺が見張っている方だった。今のところ何も問題はないみたいだぜ」


 電話がつながるなり、雅樹は言った。

 このとき、雅樹と電話の向こうにいる零は、すべての物事が思い通りに運んでいるかと思い込んでいた。

 ――たとえ邪魔者が現れたとしても、自分たちで排除できる。いや、そもそも邪魔者は自分たちに追いつけないだろう。2人の乗っているバイクは、キリオが呪法を流し込めば通常の速度をはるかに上回ることもできる。もっとも、それは最終手段ということになるが。


 雅樹と別の場所にいるもう1人――太一がそう考えていた矢先、エンジン音が彼らの耳に入る。


「誰だ?」




「2人いるな」


 バイクを運転していた杏哉は言った。


「さすがにバイクに乗りながら戦いたくはない。かといって迂回するのもすでに遅い。このままいけば確実に妨害されるだろう。君はどう考える?」


「飛び道具で2人を妨害、なんてできませんよね」


「あー、できないね。もし俺が遠距離でも攻撃できるならそうしていたけど。それで、俺がやるのはこうだ」


 杏哉は左手をハンドルから離して、コートのポケットから信号拳銃を取り出し、上に向けるとその引き金を引いた。どこで手に入れたかもわからない信号拳銃から打ち上げられた信号弾。それは早朝の春月市の空に、局所的な光を放った。それは、この瞬間から始まる戦いの合図となる。

 バイクは少しずつ速度を落としていた。


「準備するんだ。君は地雷原でタップダンスをするような、いつ死ぬかもわからない戦いに身を投じるんだよ」


 杏哉の言葉は1分とたたないうちに現実のものとなった。


「お前らから出てきてくれて助かったぞ!」


 声とともにブロック塀のむこう側から炎が噴射された。悠平は咄嗟にイデアを展開した。鏡の破片のビジョンはバイクの横に展開され、火炎放射を跳ね返した。


「面倒な奴を配置したな。いったん止まるよ」


 杏哉はバイクを停車し、火炎放射のあった方向を見た。

 植えられていた木に火炎放射が引火したようで、それはよく燃えていた。通常ではありえないくらいに。杏哉はこの現象が誰によって引き起こされたのか、簡単に目星がついた。


「出ておいでよ、雅樹くん。酸素濃度を高めて燃やす炎は興奮するかい?」


 杏哉は薄ら笑いを浮かべていた。


「最高だ。ペ×スに火をつけてもいいな……」


 燃える木のむこう側にあるブロック塀のかげから声がした。異常だ、狂っている、ろくでもない人間だ。それが、悠平が声からうける『雅樹くん』の第一印象だった。


「雅樹くんは酸素濃度を操る。さっきみたいに激しい火炎放射をしたり、爆発を起こしたり、あとは酸素中毒に陥らせたり。何をシてくるか分からない相手だ。気をつけなよ」


「はい」


「悠平くんは俺が合図するまでここで待っているんだ!俺が突撃する!」


 悠平が制止する間もなく、杏哉はブロック塀に突っ込んでいった。彼の体がブロック塀をすり抜ける。ゲームによくある壁抜けのバグのように。




「――現れたのが俺だったのが不幸だったね」


 多々良雅樹のすぐ後ろ。杏哉は死神のささやきのように静かで恐怖をさそう声で言った。雅樹は彼を知っている。神主を裏切ったという話までも。


「ちっ……!」


 振り向きざまに雅樹は短刀を振って杏哉に傷を入れようとした。当然のように杏哉はよけず、短刀は彼を切り裂くこともなかった。彼の前ではほとんどの攻撃が無意味なものとなる。

 しかし、雅樹は援護があるということを知っていた。


 ――それはまさに電光石火ともいうべきものだった。雅樹と杏哉が認識することなく、そいつはブロック塀の破壊された場所から廃屋の敷地内に入り込んできた。

 高宮太一。それがもう1人の名前だった。


「助かったぜ、太一ィ!」


「さんをつけろ。わかったか」


 太一は雅樹に言った後に杏哉に目を向けた。太一が初めて対面する男、杏哉。零からの事前情報では「物体をすり抜ける能力」を持っている、とのことであった。太一もそれを踏まえて杏哉への接触を試みた、が。


「君、初対面だけど多分知っている。17年前に杏奈と杏助を拾ったカップルの片割れだろう?」


 杏哉は攻撃をしようともせずに言った。すると、太一の表情筋がぴくりと動いた。

 だが杏哉が注意すべきは表情ではなかった。太一の傍らで雅樹は火炎放射器を構え――



杏哉が見たことのない顔を知っている理由とは……?

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