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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
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39節 神社の密会

「一つ聞いてもいいかい?」


 車の運転席に座った有田が言った。


「なんですか?」


「霊皇神社は人の出入りもほとんどない。そんなところで待て、と言われて信用できるのかい?」


「正直、信用はしていません。だから白水さんについてきてもらったわけですし」


 悠平は言った。


 ――ことの始まりは、ローレンが悠平に接触したことだった。

 ローレンはキリオの呪法――忘却法を受けず、これから会う人物と悠平に接触し、間を取り持っていた。それが本当かどうか、悠平には確かめる余地もない。それに加え、ローレンはその人物のことを頑なに話そうとしなかった。何を警戒したのか、もしくは何をたくらんでいたのかは彼女しか知らないだろう。

 ローレンの接触を受け、悠平はすぐさま有田に相談し、帆乃花を加えた3人で霊皇神社へ行くことになったのだ。保守的な考えの香椎に話を持ち掛けなかったことが功を奏したのだろう。


「私は単純に戦力ってことで同行することになったわけね。これではっきりした」


 車の後部座席で帆乃花が言った。


「そうだよ……ごめん、白水さん。女性にそんなことさせるのもなって思ったけど」


「あ?」


 悠平の気づかいは帆乃花には届かなかったらしく、彼女はドスのきいた声を発した。やはり帆乃花はまだ、悠平に心を開いていないのだ。

 彼女が感情に任せて想定外の行動を取らないか。それが悠平にとって一番の心配事だった。


 やがて車は斜面をのぼり、赤く塗られた鳥居の前に停車した。


「念のため3人で行こう。相手がわからない以上、鶴田くん1人で行かせるのも得策ではない」


 3人は車を降り、鳥居をくぐる。


 鳥居をくぐったその先は、まさに異世界ともいうべき空気が漂っていた。この世のようでこの世でない、神聖なものと邪悪なものが入り混じった気配が3人を包み込んだ。

 その気配だけではない。神社には金色のガスがたちこめ、どこかに異界へのゲートがあることを暗示していた。

 ――願わくは、巻き込まれませんように。

 無宗教である悠平も、今は祈ることしかできなかった。祈る神が存在するのか、未だ確認できていなくても。


 鳥居の奥の参道には、2人の男女がいた。うち1人は悠平に接触した女ローレン。もう1人は杏助によく似た青年――杏助があと10歳ほど年を取れば彼のようになるのだろう。


「来てくれなかったらどうしようかと思ったよ。君たちは知らないから自己紹介。俺は神守杏哉」


 悠平たちの姿を確認した男――杏哉は言った。

 彼の姿は有田が杏助らの視界を通じて見たものと同じ。少なくとも動作の癖と容姿は一致していた。


「行かないことも考えましたよ。でも、ほんの少しの可能性でも信じたかったんです。

 あ、名前を言っていませんでしたね。鶴田悠平です」


「悠平くん……ああ、春月支部に最近顔を出していない人だったか。それで、一緒に来たお2人は何者なのかい?」


「名乗っていなかったね。有田勝、彼女は白水帆乃花」


 杏哉が尋ね、有田は答えた。


「OK……

 ローレンが君たちをここに呼んだ理由はひとつ。俺と一緒に芦原キリオと戦ってくれないか?」


 杏哉は言った。


「キリオさんを知っている理由」

「いいだろう。僕もあなたを探していたからね」


 悠平の言葉を遮り、有田は言った。

 この場にいる杏哉という男は、有田が探していた人物に間違いなかった。有田はこのときを待っていた。


「先生!信じていいんですか!?この人、危険ですよ!」


 有田の後ろで帆乃花が言う。それは無理もない。杏哉は帆乃花に初めて会ったときに、セクハラまがいのことをした。加えて、有田以外の男性を信用しない帆乃花。彼女は神社で杏哉を目にしたそのときから、彼をいかにして退けるかのみを考えていた。


「大丈夫だ。あなたは秋吉くんを助けたんだろう?」


「秋吉……杏助のことか。助けたよ。死なれたくない人なんでね」


「だから信用する。ただし、一蓮托生というわけにはいかない。あなたもきっとわかるはずだ」


「利害の一致、だろう?一蓮托生じゃないのはこちらも同じ。当分はギブアンドテイクで」


 有田のおかげで話は上手く進んだ。だが、その中にも不安はあった。それは芦原キリオの目。いかなる場所であろうとも、陰の存在が彼の目を呼び寄せる。

 特に、ローレンにとって致命的なことであった。が、彼女はまだ気づいていない。


「よし。これで我々は孤立した状況じゃなくなった。情報のやり取りはどうしようか」


 と、ローレンが言う。


「とある能力者がその空間を提供できますよ。しかも、外からのいかなる攻撃も受け付けません」


 悠平が話題にした今は亡きその能力者であるが、彼女はイレギュラーな状態でこの世にとどまっていた。このなかで唯一事情を知る悠平が語る。彼だけが記憶を保持し、真実を知っている。


「それはいいね。ちょくちょくその中で話をしてみようか……」




 12月20日。

 ローレンは件の4人との話を終え、呼び出されていた場所へ向かう。ローレンが普段は入ることのない場所、資料室。彼女が慣れない手つきでドアを開けると、そのむこうにはキリオが待っていた。青を基調とした和服の上から羽織を肩にかけた彼は、いつになく真面目そうな顔でローレンを見ていた。


「お疲れ様。悪いね、急に呼び出してしまって」


 キリオは淡々とした声で言う。

 この相手はれっきとしたローレンの敵。杏助をはじめとする関係者たちの記憶を消去して、自分の都合のいいように人を動かしている。彼がいなければこれほど混乱する事態にはならなかっただろう。

 ローレンは心の奥底にある怒りを抑えるために深呼吸をした。――本当は今すぐに顔を殴ってやりたいところだったが。


「何の用ですか?ゲート近くなら警察組織が動いているようですけどねえ。話によると」

「そんな用じゃないよ」


 キリオはローレンの言葉を遮った。


「君には煮え湯を飲まされたよ。まさか、君を信じて野放しにしていたらこうなったとは。本当に会長も抜け目がない」


「あっはっはっは!信じたお前が悪いんだろうが!これまで私のしてきたことに気づかなかったお前の目はどうやら節穴みたいだなあ!」


 ローレンは自身の秘密を洩らさない程度に、キリオを罵倒した。そして彼女の目論見どおり、キリオはまがまがしい気配を纏う。

 それから5秒とたたないうちにキリオの突きがローレンをかすめる。ローレンはやろうと思えばもっと距離をとれた。だが、彼女はあえてそれをしなかった。ローレンはキリオの攻撃を躱すと、彼が向き直った瞬間に中指を立てた。


「とりあえず、てめえみたいな偵察要員がいるのも無駄だしなああああ!これは私の選択だし処分も覚悟だ!てめえの血液も沸騰させてどこぞの都市伝説に出て来たような人肉シチューにしてやるよ!!!」



「人肉シチュー」という都市伝説は本当にあります。興味があればぜひ調べてみてください。ただし、グロ&死体注意です。

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