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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
怪奇を追う霊感少年
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4節 幽霊、晴翔を乗っ取る

さて、ヒロイン二人目です。

え?早すぎるって?

 杏助の周囲にお札のビジョンが現れた。この能力が発現して日は浅いが、能力の詳細は教えてもらった。だから、晴翔をもとに戻せると確信している。

 杏助の能力は「かけられた能力や呪いを取り除くこと」、つまり「イタコや霊能力者のような能力」。霊感少年らしい能力だ。


「そのファイルを貸してください。俺も元に戻せるので」


「駄目です。生徒の情報が入っているので。さすがに個人情報が漏れることは……」


 香椎は頑なにファイルを渡そうとしなかった。

 さすがの杏助も香椎と交渉することをやめた。無理やり晴翔を解放するのだ。


 杏助は現れたお札をファイルに叩き込んだ。

 お札を叩き込まれたファイルは香椎の手の中で強く光り輝く。自分自身の能力を昨日知ったばかりの杏助も香椎も驚きを隠せなかった。

 やがて光がファイルの中から外に解き放たれ、晴翔は戻ってきた。

 とはいえ、戻ってきたのは晴翔だけではなかった。生徒から没収した物品の数々。返すと言っておきながら返さなかったものは、どうやらファイルの中に入っていたらしい。売ったわけではなく、ということだ。


「先生……」


 あきれたように杏助は言った。


「何か問題でもありますか?」


「俺、絶対に忘れませんからね。今日の出来事も約束も。それと、今の能力はどこで手に入れたんですか?」


 やれやれ、と言いたげな杏助は言った。


「これか?ああ、食堂の裏に立ち入り禁止の区画があるだろう。あの近くで金色の霧を吸い込んでから使えるようになったのだ。今からだいたい……4年前か」


 と、香椎は答えた。

 この答えを杏助は見逃さずにいられなかった。この学校にもイデア能力が目覚める鍵、異界への穴があるのだろうか。


「よく聞きましたよ、先生。今度俺にその話を詳しく聞かせてください」


 杏助は言った。


「やれやれ、機会があればね」


 なんとも言えない空気の中、生徒と教師は別れた。




 香椎から見送られ、杏助と晴翔は学校を出た。時刻は7時35分。香椎との話で時間をとってしまい、辺りはすっかり夜になっていた。

 学校から家へ自転車で帰る2人は別に機嫌が悪い様子でもなかった。だが、確実に疲れていた。絵の中に入り、イデアを使える教師につかまって。


「帰りは平和だといいなー。さすがの俺でも立て続けに巻き込まれるとこたえるぜ」


 と、杏助は本音を漏らした。が、その巻き込まれたという出来事は杏助自ら足を突っ込んだ結果だ。自分の行動に対しては責任を取らなければならないと杏助は考えていた。


「そうか、杏助。不穏な空気が漂っているようだが?」


 杏助を茶化すように晴翔は言った。


「やめてくれよー!明日ならまだしもさ。俺もう疲れたぞ」


 杏助は言った。

 彼の前で自転車を漕いでいた晴翔は何も言わなかった。ただ花の添えられた電柱の方に顔を向けて。

 ――彼の視線の先には何がある?彼は何を見ている?

 それは――


 ――私が見えるの?


 そいつには首がなかった。首のない巫女だろう。小袖と緋袴を纏った細身の巫女であると杏助は認識した。

 人ではない何かが電柱のそばにたたずみ、こちらを見ている。目がなくとも、そいつの意識は杏助たちの方に向いている。

 ふと晴翔は自転車を止めた。


「晴翔……?」


 杏助が呼び掛けても晴翔は反応しない。普段の晴翔とは明らかに違う様子を見て杏助も焦っていた。

 当の晴翔は口だけをパクパクと動かし、何かを話しているようだった。が、肝心の声は出ていない。まるで金縛りに遭ったかのように。


「しっかりしろよ!?こんなところで死んでも洒落にならないぞ!」


 杏助は必死に声をかけた。そのとき、彼はそいつに魅入られる。悪霊に憑りつかれたように。


「たすけて」


 晴翔の口から晴翔でない者の声が出た。それは完全に女性の声で、晴翔のものではない。頭がおかしくなりそうなこの状況だが、杏助は逆に冷静になった。怒りも度を越えると冷静になるように。自分が助からないと知ると、逆に冷静になるように。


「何を助けたらいいんだ?」


 杏助は言った。


「町にかけられた呪いを解いてほしいの。呪いを放っておけば春月市が因縁に飲まれて消えてしまう。17年前に消えたあの村のように」


「呪いだって……?」


 杏助はその言葉を疑った。

 呪い。文字媒体で目にするとき、杏助はこれほど興味をそそられるものはないと思っていた。だが、それに直接かかわるとなると話は別だ。呪いはいとも簡単に人を殺す。非科学的、非現実的だと言われようとも、杏助は呪いをタブー視していた節があったのだ。だからこれまで肝試ししたときも呪いと関係のある場所だけには行かないようにしていた。自分が呪われることは洒落にならないから。


 悩む杏助だが、彼は鮮血の夜明団の存在を思い出した。

 鮮血の夜明団は警察などが手に負えない超常存在に対処する組織。それに所属する者たちであればひょっとすると――


「調べてみますよ。でも、解決できるとは言ってません。俺だって死にたくないですから」


 杏助は言った。いつも晴翔と話すときの口調とは違う、敬語であるがどこか勇者のような口調だった。


「ありがとう。あなたが頼りだからね」


 そいつは言葉を残して消えた。そして入れ替わるように、晴翔はふっと息を吸い込んだ。中性的で整った顔はゆがみ、気が動転したように晴翔は口を開いた。


「俺、今何をやってたんだ!?よくわからねえけど、夢を見ていたと思ったら俺の声が俺じゃなくなって、喋ろうとしたら勝手に変なことを喋りだしてたよな!?俺、頭おかしくなったのか!?」


「大丈夫だ!元……じゃなくて、別に祟られたわけじゃねえよ。ただ、幽霊みたいなのがお前の口を借りただけみたいだ」


 と、杏助は答えた。


「なるほどな。やっぱり不穏だっただろう?」


 得意げな晴翔に対し、杏助は苦笑いを返した。運が悪ければ洒落にならないことであったが、晴翔の体を乗っ取った幽霊は悪いものではなかった。これは不幸中の幸いだった。

 2人は自転車でまっすぐ家に帰っていった。



 ――この出来事はこれから起きる事件の序章にすぎない。彼らはいずれ「特異点」へ向かうだろう。まるで運命を操る糸に導かれるように。



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