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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
38/89

36節 生ける怪奇

 とてつもない大きさのイデアの塊が春月支部に近づいていた。

 その核は1人の自転車に乗った青年。彼は逃亡した者を追って春月支部へ向かっていた。彼のゆく手を遮る、あらゆる障害物をすり抜けて。




 やがて杏哉は目的地にたどり着く。

 彼が自転車の速度を落としていたとき、彼に何かが命中した。


「ん……まさか、まさかな?」


 杏哉はその攻撃に覚えがあるというわけではない。が、命中したものによってイデアの展開が強制解除されたことだけは認識した。

 今、彼は無敵ではない。それでも彼には余裕があった。


「成長したな、杏助」


 杏哉は自転車から降りると、攻撃が飛んできた方向へと歩き始めた。




「杏助はまずあいつにイデアを撃ち込む。すり抜けられなくなったらこちらのものだからね。基本、僕と杏助で戦うつもりだけど、一応保険はある。ローレンたちにも声をかけて、強襲してもらうつもりだ。大丈夫、きっと退けられる」


 キリオは言った。

 杏助が不安に駆られているとき。規格外のイデアの塊がこちらへ向かってきていた。

 その正体は紛れもなく杏哉。


 まだだ。

 まだ遠い。

 もっと近づいてから。

 もっと。


 規格外のイデアの塊――杏哉は杏助のスリングショットの射程圏内に入ってきた。


「今だ、杏助。君なら必ず……!」


 杏助は物陰からスリングショットで弾を撃った。離れていてもわかるような規格外のイデアに向けて。

 杏助のイデアの一部であるお札を貼り付けた弾はまっすぐに飛び、杏哉に命中した。

 杏哉のイデアは一瞬にして消滅し、彼は無敵ではなくなった。が、生身の彼もその余裕は一切崩すことなく、敵――キリオを探しているようだった。


 ――始まる。

 自転車から降りた杏哉はイデアが展開されない状態で杏助の方へ向かってきていた。


「まだだ、杏助くん。あいつは正面からやりあって勝てるような奴ではない」


 飛び出そうとする杏助を制止するキリオ。

 彼は2度も杏哉と相対したからこそ杏哉の強さを理解している。自分が杏哉と1対1で戦っても勝てないということも。

 キリオは杏哉の後ろ側にイデアを展開し、まがまがしい呪法を両手に纏った。以前杏哉に削られた左腕は未だに痛むが。


「でておいでよ、杏助にキリオ。それと、いい加減やめなよ。自分の信念を曲げたくないからって人を犠牲にするのはさぁ」


 塀の向こう側から聞こえる杏哉の声。

 杏哉は刀を抜いていた。


「君が記憶を消そうとしていたこともわかるし、犠牲になった11人の魔物ハンターも君が差し出したんだろう?そのうえ、杏助の記憶まで消してどうにかしようとした。抹消、隠蔽、揉み消しでどうにかなると思うなよ、芦原キリオ。全員味方につけたと思うなんてまだまだ早急だよ」


 杏哉は続ける。

 その声は。その言葉は、杏助の心にハンマーで叩いているような衝撃を与えた。

 ――キリオは嘘をついていたのか。キリオは杏助の記憶まで消して、都合のいいようにしていたのか。


「いくなよ、杏助!僕がいいって言うまで絶対にこちらに来るな!」


 と言って、キリオは塀の後ろから飛び出し、杏哉に詰め寄った。


「また君か。その信念と執念は評価するよ」


 杏哉は余裕を残したまま言う。が、彼は今イデアを展開できていない。

 キリオは杏哉の隙を見て彼の首筋――いや、肩に呪法を纏った手刀を叩き込んだ。

 が、杏哉は手刀を叩き込まれたと同時にキリオの脇腹に蹴りを入れた。


「ぐっ……まだだ、杏助!まだ動くな!」


 蹴りを受けて吹っ飛ばされるキリオは言う。

 ――杏助を介入させられる状態ではない。だが、それに対抗する方法はある。


 その様子を見ていた杏助は、刀を抜こうとしていた。だが、まだそのタイミングではない。キリオが良いと言うまで。


 そんな中で杏哉は倒れたキリオをさらに足で踏み、彼の目の前に刀を突き付けた。


「今度こそ、本気で殺すよ。殺さないと俺が危ないんでね……」


「殺す……か。それができるか?僕の味方は5人いる」


 と言って笑うキリオ。


 それと同時に杏哉の背中に傷を入れる戦輪。

 続いてジャックナイフを持った細身の女が左から、サーベルを2本抜刀した男が右から杏哉に襲い来る。その2人はローレン、そしてシオンだった。


 杏哉はジャックナイフを無駄のない動きで躱し、サーベルを刀の峰で受け流す。一撃必殺ともいえる2人の攻撃を受けずして、彼は言った。


「手厚い待遇じゃないか……なあ」


 そのとき、杏哉はある違和感を覚えていた。前進が痺れ、少しずつ体が動かなくなっている。それを認識したとき。


「ふっ。こちらを見たな、放火魔!」


 杏哉の視線の先には晴翔がいた。

 目玉のイデアを展開し、その紅い不気味な目は杏哉を睨んでいた。


 ――生物を石にする目。晴翔の能力は杏哉をとらえ、彼を完全に石にしてしまった。


「でかした、晴翔。これで杏哉はなんとかできたわけか」


 キリオは立ち上がり、脇腹を押えながら言った。杏哉に蹴られた部分が未だ痛むのか、キリオの表情は明るくはなかった。


「さて、そいつから聞き出すことを全部聞き出そう。何を隠してるのか、どうして僕の邪魔をするのかをね。そいつは、春月市の平和を乱す害悪でしかない。

 彰はそいつを地下に運んでくれ。晴翔と杏助は僕についてくるんだ」


 と、キリオは言う。


 杏哉の動きを完全に止めた彼らは、地下の遺体安置所へ向かった。



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