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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
33/89

31節 杏助か、キリオか

悠平くん回です。

 悠平は学校で杏助を見かけた。だが、彼は今までどおりに声をかけることもなく、悠平を避けているようだった。

 せっかく仲良くなれたのに、と悠平は考え込んだ。そんな中、彼に予想外の人物が話しかけてきた。


「ねえ。有田先生が呼んでた。行ってきたら?」


 黒髪のロングヘアで、内側は赤く染めている女子生徒。白水帆乃花だった。

 めったに男子生徒に話しかけることのない彼女がなぜ悠平に話しかけてきたのか、彼の知ったことではなかった。が、急な用事か、はたまた有田が帆乃花にしか頼めなかったことだろうということは悠平にも察しがついた。


「行ってくる。一応聞いておくけど、授業とは関係あるか?」


「ない。それでも大切な話だから」


 帆乃花はそっけなく返すと、彼女の席に戻った。

 悠平は「授業とは関係なくとも大切な話」という言葉に覚えがあった。帆乃花も有田も悠平も、あの日にゲートを見ている。そして、帆乃花と悠平は有田からその視界を覗かれている状態だった。


「あの話かな?」


 悠平は身に覚えのあることを思い出しながら旧美術室へ向かった。




 旧美術室。美術科所属の悠平にも全く無関係ではないこの場所。全体の構造をそれとなく把握していた悠平は迷うことなく奥の部屋まで到着する。

 悠平は彼を呼んだ人物、有田のいる部屋の白いドアをノックした。


「どうぞー」


 部屋の中から有田のゆるゆるとした声が聞こえてきた。

 悠平はドアを開けて部屋の中に入った。


 未完成の作品が置かれている場所とは打って変わって、有田のいる部屋はコーヒーの匂いが染みついていた。

 この部屋は美術教師が会議などで使うこともあるが、もっぱら有田が占有していた。なぜなら、美術の教師は悠平の通う学校に3人しかいないからだ。


「来てくれたね。べつに君を咎めたりするつもりはない。ただね、秋吉くんの視界から見ていたものがちょっと気になった。

 君は、芦原キリオという人物を知っているかい?」


 有田の声と口調は穏やかだった。が、悠平は何か心の中でも覗かれたような気分になった。

 穏やかではあるが、抜け目はない。有田はそのような事物だ。


「知っています。白髪で、人の印象に残りにくいけれど、信頼されている人です。あの、有田先生はどうして彼を知っているんですか」


「秋吉くんに聞いたんだよ。2日前、霊皇神社で彼に襲われた。生贄がどうとか、って話だったよ」


 と、有田は言った。

 2日前。悠平の思い出すその日は、鮮血の夜明団を挙げての調査の日。都心部とケテルハイムと霊皇神社。それぞれの場所で観測された異界へのゲートを調査する、ということだった。

 その日、悠平は霊皇神社での出来事を見ていなければキリオから伝えられることもなかった。

 その日、3か所での調査が終わった後のキリオは杏助について「行方不明」と言っていた。それ以上杏助に触れることは避けていたようにも見えた。


「すみません、先生。これは本当のことなんでしょうか……生贄なんて、土着信仰じゃあるまいし……」


 そのことを信じられないでいる悠平は言った。

 彼はキリオへの信頼を捨てたくはなかった。たとえ深入りする気がないとしても。


「生贄については本当なのか分からないが、芦原キリオが秋吉くんを襲ったのは事実。その後、秋吉くんは彼に似た人物と一緒に芦原キリオの前から消えた」


「そう……ですか」


 有田の能力は、他人の目を使って神の視点でものを見ることだ。それは自分が直接経験しないことであるからこそ客観的にその場を見ることができる。キリオが杏助を襲った、ということも有田の主観ではなく、彼が見た事実なのだ。

 しかし、悠平はどうにも割り切ることができなかった。


「そう。君は、どちらが嘘をついていると思うのかい?」


 有田は悠平に尋ねた。

 それは、悠平の本心を聞き出す最良の質問だった。


 友達か。それなりに地位のある目上の人か。


「わかりませんよ。先生はどう思うんですか?」


 悠平は言った。


「僕の中で答えは既に出ているよ。どちらが正しいとか、そういうのは抜きで秋吉くんは本当のことを言った。まあ、見たものを偽るなんて僕の前では絶対にできないよ」


「確かにそうでしたね……」


「それを考えたうえで、付き合う人を決めた方がいい。何せ、君は損な男だからね」


 これまで真剣な顔をしていた有田がふと笑みを浮かべた。


「損……まあそうかもしれませんね。この件も好きで巻き込まれたわけではありませんし」


 悠平の緊張も少しほぐれていた。

 だからといって今の問題が解決していなければ、悠平がどちらにつくのかを考えたわけでもない。依然として悠平はどっちつかずの立場だった。


「だろうね。これでひとまずの話は終わり。あとは狩村くんだけだね」


「呼んできましょうか?」


 と、悠平は言う。


「いや、いいよ。君はただでさえ巻き込まれやすいんだから」


 有田は言った。


 彼に見送られ、悠平は旧美術室を後にする。




 悠平が教室に戻る途中。

 普段は滅多に悠平に話しかけることのない帆乃花が待ち伏せをしていた。


「白水さん……」


「今から有田先生のところに行くだけ。でも、あんたもこれから平穏だとか考えないことだね。私は当分あの……鮮血の夜明団に接触する気はないから」


 と言うと、帆乃花は旧美術室の方へ向かっていった。



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