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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
32/89

30節 はみ出し者秋吉杏助

 廃屋に杏哉が戻ってきた。とは言ったものの、彼は玄関から入ってきたのではなく壁をすり抜けて入ってきた。杏哉が着ていたスーツは真っ二つに切り裂かれ、彼の肉体が露出していた。だが、彼の体には全く傷がなかった。


「ただいま。なんとか君を守りぬけたよ」


 と、杏哉は言う。


「俺がこれを言ってもいいかわからないけど、無事でよかったです。でも、いつか俺とあなたは敵対することになるかもしれない」


「それはあり得ないよ。理由は言えないが、俺と君は目的が一致するはずだ。先代とかとも違うっていう、ね」


 フウ、と杏哉は息を吐いた。


「君をいるべき場所に連れて行く。でも、いいかい?鮮血の夜明団の連中との接触は最低限に抑えるんだ」




 杏哉が連れて来た場所は杏助の自宅。ケテルハイムからそう離れていない11階建てのマンションだ。

 杏助にとっては2日ぶりの帰宅だった。

 彼の母親・秋吉綾子はひどく心配したようで、杏助が帰ってくると泣きながら彼を抱きしめた。彼女がどれだけ杏助を思っていたのか、よくわかる。


「どこに行っていたの!いや、知ってるけど!でも生きていてよかった……!」


 綾子は言う。


「ごめんなさい、綾子さん。俺、べつに試したとかそんなんじゃないよ……」


 杏助はどこか綾子に対して遠慮していた。よそよそしく、あまりかかわることのない人と話しているように。

 綾子はその様子に気づいていたようで、杏助の顔を見た。


「ねえ、杏助。何かあったの?もしかして……なんでもいいから、言って。急によそよそしくなっちゃって」


「……なんでもない、です」


 杏助は綾子と話すのが怖かった。今まで母親だと思って接していた人が血のつながらない他人だった。話を聞いてしまった杏助はその動揺、態度を隠すことができない。

 綾子への接し方がわからなくなった杏助は自室に戻った。


「俺はここにいてはいけない……?だったらどこにいれば……」


 杏助の脳内をぐるぐると思考が巡る。鮮血の夜明団には近づけず、晴翔や悠平や杏奈とも接触はできない。おまけに、母親だと思っていた綾子とは気まずさゆえに顔を合わせられない。

 ――「いつでもおいで」という有田の言葉が脳裏をよぎる。

 有田勝。杏助と同じ、イデア使いであり、香椎のように悪い評判もない。少し変わっているが、生徒を思いやる良き教師だ。

 思考の果てに考え付いたこと。杏助が選んだのは学校だった。


 杏助はシャワーを浴びて制服に着替えると学校へ向かった。




 学校。授業のない土曜日ということもあって、学校に人はほとんどいなかった。

 杏助が向かった場所は自習室ではなく、旧美術室。


「失礼します」


「いらっしゃい。秋吉くん、でよかったかな?」


 カラフルな服を着た男、有田勝は言った。

 杏助とは直接のかかわりがないものの、彼もまたイデア使い。食堂裏にあった異界へのゲート近くに集まったうちの1人だった。


「はい。それで、先生は見ていましたよね。俺が見たものすべて」


「もちろん」


 有田は杏助の顔を見て、いや、それ以前に彼の身に起きたことをわかっていた。有田の能力によって、杏助ら5人の視界を借りていたのだ。


「学校の外にも3つのゲートがあったこと。秋吉くんが経験したこともすべて。どうやら命を狙われていたようだけど、何があったかい?」


 有田はすべての核心をついており、キリオが隠蔽したことまで知っている。だが、それには問題があった。有田はキリオや鮮血の夜明団と全く関係がない。もちろんその内部の事情など知る由もなかった。

 だから杏助は話すかどうかを迷った。が、今杏助が頼れるのも有田しかいない。鮮血の夜明団との接触を避けている現状で、杏助は有田を頼るほかはなかった。


「俺は霊皇神社で芦原キリオという人に襲われました。彼、俺を生贄に捧げたいと言っていたんです。呪いだとか、呪法だとか。俺、正直よくわかりません」


「だろうね。僕もわからない。少し情報を整理してみないか?」


 と、有田は言った。

 杏助は有田の机の前にパイプ椅子を出して座った。


「僕が見たのは白髪の青年。服装は和装。それから、秋吉くんと同じ髪色と瞳の色の男2人。片方は刀を持っていた。それから、茶髪の男が剣を持って君を助けたと思えば今度は君によく似た男が君を助けた。その一連の流れは」


「霊皇神社での出来事と同じです。あのあと何があったのかはわかりませんが」


 杏助が言うと、有田はほんの少し考え込む様子を見せた。


「そうだ。鶴田くんあたりに話しておくよ。一番話が分かる生徒だからね」


 有田は言った。


 このとき、杏助は不安だった。悠平はいくら話がわかる人だとしても、キリオを慕っている。彼を通すのか、と杏助は聞こうとしたが、その言葉を発することはなかった。が。


「不安かい?」


 と、有田は杏助に尋ねた。


「不安ですよ。でも、晴翔を頼るよりはいいです。晴翔はあの人……俺を襲った白髪の人を本気で慕っているので」


「そうかい。1人ずつ聞いていく必要があるね。まずは白水さん、鶴田くん、香椎先生と、最後に狩村くんから事情を聞いてみよう」


 有田の顔は穏やかだが、何かを考えているようだった。



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