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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
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28節 信念を愛する者

 夜も更けた頃、2つの人影が霊皇神社近くに現れた。いずれも只者ではない雰囲気を放ち、人が立ち入らぬ神社付近の異様さを体現しているようだった。

 ひとりは白髪。長い白髪をポニーテールに結わえ、和服を着こんだ青年。

 もうひとりは藍色の髪。緩く1本に結わえ、白いスーツを着込んだ青年。


「君だったか。神守杏哉。何の気を起こしたのかい?」


「聞くまでもないだろう。君と戦う(愛し合う)ためだよ♡」


 杏哉はペロリと舌を出した。

 月に照らされた杏哉は普段以上に妖しさを放っていた。人であり、人外でもありそうな杏哉は謎の余裕を見せている。


「そうか。君が死ねば確かに僕も気分がいい」


 キリオは影のイデアとまがまがしい気配――呪法を展開した。

 その瞬間、薄ら笑いを浮かべていた杏哉の顔が真剣なものとなる。彼もまたイデアを展開、刀を抜いて戦闘態勢に入った。


「いくぞ!」


 キリオは目でとらえることのできるぎりぎりの速度で杏哉に接近。呪法のこめられた手刀で杏哉の心臓を狙った。が、杏哉はそれを寸前のところで躱した。


「もっと当てておいでよ♡ そんなんだと、冷めちゃうじゃないか」


 杏哉はあと少しでキリオの攻撃が当たるところで言った。その言葉はキリオを挑発しているかのようで――


 即座にキリオは向き直る。杏哉が挑発するためにわざと隙を見せたことが「影の目」で見えた。隙があるのは後ろ。

 無防備な彼の背後に回り込むキリオ。彼との距離が近いに左手に呪法を込めて叩き込む。


 ――キリオに手ごたえはまるでなかった。たとえるならば暖簾を殴ったような感覚だ。

 そして杏哉の姿はない。彼は夜の闇に消えた。


「どこだ!君はまた僕を……」


「ここだよ」


 その声とともに、蹴りが入る。キリオは蹴りの威力で吹っ飛ばされ、近くの低木に突っ込んだ。

 その様子を涼しい顔で見るだけの杏哉。彼は追撃もせず、イデアの展開もやめてただ見ているだけだった。


 対するキリオ。引っかかった低木に呪法を流し込むことで脱出を図っていた。

 低木からは瞬く間に生命力が失われ、葉が散って枯れ木と化す。キリオは枯れた低木から抜け出した。


「恐ろしいね」


 低木が枯れる様を見て杏哉は言った。


「先代も使っていたが、君の使うその能力っていったい何なんだ?」


「見たことあるのなら教えてもいいか。これは呪法。一種の呪術みたいなもの。こうやってエネルギーを流し込めば簡単に生物を弱らせたり、殺すこともできる。別名は死の法」


 キリオは答えた。

 すると、杏哉はニヤリと口角を上げる。


「だったら良い練習台になりそうだ。すべてが終わった後、先代と戦いたくてね」


 杏哉の目は獲物を狙っているようだった。生半可な戦闘力を持つ者は逃げ出したくなるような、そんな雰囲気だ。

 杏哉は再びイデアを展開する。キリオを弄ぶためではなく、本気で彼を殺すために。


「きなよ」


 その声がキリオにかけられるとともに、キリオは杏哉に詰め寄った。生気を奪うその手を叩き込むために。

 だが、杏哉はその手を刀で受け止めた。呪法を纏っただけのキリオの手はいともたやすく傷を入れられて血を流す。


「届かない……くそっ……相性だけは覆せないのか!?」


 キリオは刃から手を離し、とびのいた。


「そうだね♡ 君がどんな奥の手を使おうが俺と君との相性は覆せない。せっかく強いのに残念なことだよ」


 と言うと、杏哉はキリオの血で汚れた刀身を舐めた。

 その姿に対してキリオは怒りを覚えた。


「言ってくれるな……春月を救うと誓った僕を邪魔する貴様は!一体何を考えているんだ!?」


 ――その言葉は杏哉には届かない。杏哉は、ただ強い信念を持つ者の心に興味があった。キリオの春月市を思う心に興味を持った杏哉は数年前、彼に近づいた。だが、キリオは彼を満足させることもなかった。

 だから杏哉は次なる「相手」を探していた。そして次なる「相手」は見つかった。その者は2人。


 杏哉は鬼のような形相で迫りくるキリオに対し、刀を向けて邪悪な笑みを浮かべた。


「別に、何も。でもね、君のことは嫌いじゃないけど、飽きちゃったかな」


 それは一瞬だった。得体の知れないイデアを刀身に纏った杏哉はその刀をキリオの手に当てた。


 ――鮮血が吹きあがる。削られた皮と肉が散る。


「あああああああああっ!?僕の腕がああああああああ!?」


 キリオはまず困惑した。それから遅れて、左腕の痛みが彼を襲う。

 杏哉によって皮と肉を削がれたキリオの腕。着物の袖は全く斬られていない様がその攻撃の異様さを物語っていた。


 杏哉は困惑するキリオに対し、さらに追撃といわんばかりに切り込んだ。その気になれば彼を両断することもできる杏哉だったが、杏哉はあえてそれをしない。狙いは顔。儚げで整っている部類に入るキリオの顔だ。

 キリオの顔が血を噴いた。


「何をした!」


 キリオは言った。


「見せるまでもないね。君が理解できないならそれまでだ」


「ならばその動きを見切れるまで弱体化させるまでだ!」


 キリオの闘志は未だに失われていない。

 彼にはまだ、右手が残っていた。キリオはその右手――手のひらに呪印が刻まれた右手で杏哉の心臓を狙った。


 ――そのとき。


 もう一つ、謎の気配が現れてキリオと杏哉の間に割って入る。


「……よりによってあんたがいるとはね!」


 その声とともに、杏哉の着ていたスーツが切り裂かれた。



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