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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
異界へのポータル編
26/89

25節 化け物、集う (挿絵あり)

 杏助は構えていたスリングショットを撃つこともできず、現れた2人を見つめることしかできなかった。

 キリオに裏切られ、満足な救援も期待できない中で。杏助は己の力でこの状況から抜け出さなくてはならない。彼の目の前には戦わずともわかる、圧倒的強者がいるにもかかわらず。

 絶体絶命だった。


「ひ、人違いですよ……きっと。俺、連れ去られたり襲われるようなことをする筋合いはありませんし……」


 杏助の口からはその言葉が出た。それが、今彼にできる最大の抵抗だった。逃げることも迎え撃つことも、2人の男の威圧感が許さなかった。


「間違ってはおらぬ。貴様は間違いなく神守杏助……鳥亡村の長の直接の子孫。だからこそ贄となる必要がある」


 年をとっている方の男――筑紫光太郎が言った。


「その日まで変に扱うことはない。お前の兄にも会わせてやる。おとなしく我々についていく方がメリットはあるのではないか?」


 もう1人の男――蘇我清映も言った。


「それは……」


 犠牲になりたくないことは弱さか。力はあっても戦えないことは弱さか。杏助は息がつまる思いだった。

 そして。杏助のイデアがとんでもない範囲に展開される。神々しく輝く緑色のオーラと、それに包まれた妖しいお札。

 清映は身構え、光太郎は目を丸くする。2人は杏助のような「村民」を知っていた。だからこそ彼の強さには期待していた。が、その一方で清映と光太郎は杏助の潜在能力を引き出してしまっていた。


 展開されたイデアからひしひしと自らの強さを感じ取る杏助。今ならどうにかできるかもしれない、と彼は考える。そして彼は口を開いた。


「絶対にお前たちについていかない。俺は、絶対にあいつらのところに帰る! 」


 杏助は木刀を手に取り、2人の男の方へ向き直った。


「先代。ここはお下がりください。私がこいつをダルマにしましょう」


 清映が前に出ると、彼を白銀のオーラが包む。やがてそれは清映の右手に集まり、刀の形を成した。

 妖刀。彼の刀はそう呼ぶにふさわしいほどのまがまがしさを持っていた。キリオの使っていた能力――呪法とはまた違う。清映本人、または彼の精神の一部が怨霊となったようだった。


挿絵(By みてみん)


 清映と杏助は足を踏み出す。

 ――真剣と木刀がぶつかる。その強度の差は明白で、清映の刀が杏助の木刀をいとも簡単に両断した。

 武器を失った杏助はすぐさま逃走に入る。イデアを展開したまま、神社のさらに奥を目指して走り始めた。




 神社の鳥居付近。たたずむキリオと、彼の前に現れた白スーツの男。彼は帯刀していた2振りのサーベルを抜いた。

 静かににらみ合う2人であるが、それはお互いがある程度の力を持った者であるからこそのこと。鮮血の夜明団の誇る最強の呪法使いキリオと、かつて魔族や吸血鬼を屠った「白い鬼人」シオン。


「これはどういうことですか、シオン会長。あなたも、血迷ったのですか? 」


 キリオは平静を崩さずに言った。


「その言葉をそっくり返すぜ。お前、正気か?春月支部に盗聴器みてえなものをしかけて。何がしたかったんだ?返答次第では……」


「さすがお見通しですね、シオン会長。ですが、僕はあくまでも春月市を守るために行動しているにすぎません。春月の人口に比べたら1人や2人くらいどうということはない。そうでしょう、シ……」


 キリオの頬を何かが切り裂いた。彼の目の前にいたシオンは消えた。

 キリオが振り向いたところにシオンはいた。彼はいつの間にかサーベルを鞘に納めていた。キリオはそれを認識できず、一瞬であるが目を白黒させた。

 この速さでは勝てない、とキリオがその対処法を考えたときにシオンは言った。


「悪いな、お前と戦うのはあとだ!絶対に追いかけてくるんじゃねえぞ」


 彼にはキリオと正面から戦うつもりなどなかった。彼にはまだ目的があった。キリオを諫めることではない目的が。

 キリオの呪法を浴びることなく後ろに回り込んだシオンは神社の奥へ走ってゆく。杏助を助けるために。

 キリオはあえてシオンを追おうとはしなかった。自分自身の能力を信じるがゆえに。


「そうか。でも、君がどこへ行こうと僕は見えているよ……」


 キリオは薄ら笑いを浮かべた。




 ――頭ではわかってしまった。もはや杏助は逃げられない。

 杏助は彼を追ってくる清映に向けてスリングショットを撃った。弾は矢のようにまっすぐに飛ぶ。が、清映はそれを刀で叩き切った。

 この小細工の通用しない化け物は、確実に杏助に迫っていた。まがまがしい気配を放ち、妖刀ともいうべき刀を右手に握りしめて。

 清映と杏助の距離は縮められてゆく。杏助はもう一発、スリングショットを撃とうと構えた。弾にはイデア――お札を張り付けた。狙いは刀。斬られるが先か、この弾を撃ち込むのが先か。


 化け物蘇我清映に加え、もう一つ強大な何かがこの場所に迫る。

 まず、特筆すべきは『彼』が呪法とは全くことなる力、レムリア大陸東部では非常に珍しい魔法を扱う者であること。

 そして。『彼』を目にした清映は驚愕する。

 ――それは白い影だった。その影が手にした剣の切っ先が白銀に光る。


「なぜあいつがいる……!非公認魔物ハンターでさえ恐れる『白い鬼人』……シオン・ランバート! 」


 シオンの存在に気づいたのは清映が先だった。が、杏助もじきに気づく。

 そして、シオンは抜刀し、清映に斬りかかった。


「ちっ……並の刀であれば確実に折れていた……化け物め! 」


「心外だな。俺は本来化け物を狩る方なんだが」


 ギン、と音を立てて2振りの剣がぶつかり合った。光と怨念のエネルギーが相殺し合い、シオンも清映ものけぞった。

 だが、シオンの顔には余裕がにじみ出ていた。



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