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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
異界へのポータル編
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23節 氷使い織部零

最近寒いですね……。

 ケテルハイム屋上。中庭のすぐ上に存在するゲート。そして、ゲートを囲む3人の男。


「他は殺せなくとも、お前だけは殺さなきゃいけねえ。悪く思うんじゃねえぞ!」


 片目を隠したメッシュの男――零は氷の塊を放った。それと同時に悠平はイデアを展開し、その軌道を反転させた。


「俺たちの調査を邪魔して何になるんですか!」


 悠平は叫ぶ。


「あぁ?邪魔とかそういうのじゃあねえよ。俺が狙った相手は狩村彰だけだ。理由……を言う気はねえが、そいつだけは必ず殺す」


 彰に向けられる身に覚えのない殺意。「殺す」と宣言した零は氷のイデアを展開し、彰に迫る。

 対する彰もイデアを展開した。そして、零の攻撃と同時に、わざとケテルハイムの屋上から足を踏み外した。


「彰さん!!!」


「無駄だと思うぜ。アイツに策がない限りな」


 零はそう言うとケテルハイムの下を見た。7階建てのマンションの下に落ちていく彰。だが、彼は生身ではなかった。彼の周りに展開されたイデアはかつてない密度だった。着地した彰はケテルハイム屋上にいる零を睨む。

 零は顔色を変え、イデアを最大限に展開すると彰の後を追って屋上から飛び降りた。


「来い……!俺にとって力が制限されているような環境だが」


 彰はジャケットの裏から2本の苦無を取り出した。


 着地した零もその手に氷の剣を握り、彰に向かってきた。

 2人の刃が交わる。だが。2人の刃はそれぞれの肉体にはとどかない。この拮抗した状況を打破したのは零だった。

 零の左手にこめられた冷気のイデア。氷を形成する前のイデアを込めた手で、零は彰の右腕を掴んだ。彰の右腕は瞬く間に凍り付く。


「少なくとも右腕は封じた。このまま放置したら凍傷で切断することになるだろうな。しかも、この地域には医療系の錬金術師がほとんどいないと聞いている……」


 零の言うことは間違いではなかった。彼の殺意は薄れず、一度距離を取った彰にもう一度攻撃を入れようとしていた。

 それをケテルハイムの屋上から見る悠平。彰と零は悠平の能力の射程外で、悠平がその戦闘には介入できなかった。

 そして、傍観者がもう1人。ケテルハイムから20メートルほど離れた場所で彰と零の戦闘を目撃した杏奈。

 彼女は、考えるより前に体が動いていた。


「さて、次は――」


 零は口を開いた。が、その言葉は彼も予想だにしない人物の手で遮られた。

 零の脇腹に彼が経験したことのない衝撃が走る。次に彼は衝撃で飛ばされ、ケテルハイムの壁にぶつかった。


「彰……その手は……」


 杏奈は言った。


「あいつにやられてしまった。ゲート近くで待ち伏せをされていてな」


「そう……どんな意図があるのか知ったことではないけど、私たちの敵であることには間違いないってことか」


 そう言うと杏奈は反対側――零を突き飛ばした方に向き直った。

 零は上体を起こしながら杏奈の顔を見ると、その表情が変わる。何かを待ちわびていたかのように。


「待っていたぜ……俺の婚約者……あの変態野郎が言っていた人と同じだ……」


 零は言った。


「お前、神守杏奈っていうんだろ?違うわけないよなあ?綺麗な藍色の髪と瑠璃色の瞳をした女はそうはいねえ。そして、170センチは超えている身長。どう見ても俺が変態野郎から聞いた特徴とあてはまるんだよ」


「……待て。なんでお前が私の名前を知っているんだ。外部に名前を漏らしたつもりは――」


「お前にその気がなくても漏らしてしまった人がいるんだな!お前の兄、神守杏哉が!俺に教えてくれたってわけだ!」


 杏奈は絶句した。

 神守杏哉がいつ情報を漏らしたか。杏哉が杏奈にはじめて接触したのは2週間前だ。その間に漏らしたということになるのだが、なぜ作戦の場所にこの男がいるのだろうか。

 杏奈の脳内に最悪の可能性がよぎる。が、それだけはありえない、あってほしくないとかき消された。


「それで、あんたは誰だ?名前だけでも知っておこうとおもってね……」


 杏奈は昂る感情を抑えながら言った。


「レイ。織部零だ。お前の故郷と同じ村出身で、お前とは別ルートで村を脱出した元村民で、お前は俺の許嫁。これ以上は二人っきりで話すことになるけど……」


「待ちな。私が初めて聞くことばかりだ。お前の名前といい、その許嫁がどうのという話といい。知らない話を知っている前提でするな」


 杏奈は言った。

 彼女の体の周囲には依然として高密度のイデアが展開されていた。そして。彼女は同時に零への激しい敵意をあらわにしていた。

 その一方で零は逆にイデアの展開を解いた。無防備な様子のまま立ち上がり、彼は口を開く。


「だろうなあ。そう言うと思ったぜ。今回の目的はあくまでもそいつ、狩村彰の始末。とはいえ、お前が介入されると俺としてもやりづらいので……退かせてもらうぜ。また今度……な。俺たちは惹かれあうって話だ」


 零は隠し持った武器で杏奈や彰を殺害することもなく、その場を去った。

 そして。入れ替わるようにケテルハイムから悠平が現れた。


「あの……何が起きたんですか。杏奈さんもいるし……」


「悠平くん。あんた、運がいいよ。私がいなければ、あんたも彰も死んでいただろう。

 彰より強いイデア使いが現れた、ということだけは言える。それと、予想以上にややこしい事態だな、これは」


 と、杏奈は言った。

 零の言葉を気にしていた杏奈はどこか不安がぬぐえていない。なぜなら、杏奈が今一番怪しんでいる者が杏助とともに霊皇神社に向かったから。



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