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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
異界へのポータル編
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19節 現れたもの、消えた者

前回から引き続き新展開です。廃墟とかケテルハイム以外のゲートにも触れていきます。みんな頑張れ……()

 春月中央学院高校。そこは杏助や晴翔の通う高校である。

 その高校の朝礼で。決して杏助たちに無関係ではないことが話される。


「えー、昨日の夕方に3年4組の長住圭太くんが食堂裏で消えています。目撃した人の話によりますと、食堂裏に正体不明の穴があいてその中に引きずり込まれたとの話でした。食堂裏は本来立ち入り禁止にしていたはずなのですが」


 一部の生徒はこの話を聞いてピンときた。ケテルハイムに住む者、杏助のような鮮血の夜明団にかかわっている者など、正体不明の穴――異界へのゲートを知ったルートは様々だ。

 辺りがざわめく中で杏助は今までの出来事を頭の中で整理していた。


 ケテルハイムのものも、あの廃墟のものも、異界に通じていた。ひょっとして高校の食堂裏に現れた正体不明の穴も。

 次に杏助は異界へのゲートによる影響を考えた。異界へのゲートは金色のガスを垂れ流す。そのガスはイデア能力に覚醒する鍵だ。そして、彰の話によれば、能力に適性がなければ中毒死する。

 つまり。いくら立ち入り禁止にしたところで金色の霧を防ぐことができなければ死者も出る可能性がある。

 ――そういえば、クラスメイトが何人か学校に来なくなっている。

 杏助は最悪の可能性を想定してしまった。




 朝礼が終わった後、杏助は授業も頭に入らなかった。

 いつもは聞き逃さないはずの地理の授業でさえ、頭に入らない。杏助の頭は8割が食堂裏に現れたゲートのことで占められていた。

 授業中だけではない。休み時間も。


 ふと、杏助が気になった晴翔が杏助の前にやってきた。


「やっぱり今朝の話が気になっているのか?」


「そうなんだよ。人が消える穴っていうと廃墟で見かけたあの穴を思い出してよ」


 机に突っ伏しながら杏助は言った。


「不穏な臭いがするな。また見てみようぜ。俺たちは特別だ」


 と、晴翔は言う。

 2人が特別な人間であることは否定できるわけでもないが、杏助はどうしても気乗りしなかった。

 それでも食堂裏に行く価値はある、と杏助は判断した。彼はすでに、戻れないところにまで足を踏み入れてしまっている。


「行くか。あわよくば写真にでも納めたいな」


「よし、そうと決まれば放課後だな。杏奈さんに頼まれてるのはなにもお前だけじゃないんだぜ」




 放課後。

 杏助と晴翔は食堂裏へと急いだ。異界へと通じるゲートを確認するために。


 食堂裏に向かうところには三角コーンが置いてあり、「立ち入り禁止」との張り紙が貼られていた。だが、杏助と晴翔はそれを無視して進む。

 2人が進む先からは金色のガスが漂ってきていた。間違いなくある。異界へのゲートはこの向こう側に――


「あ……」


 杏助は思わず声を漏らした。

 やはりイデアを扱える者は考えることが同じというべきだろう。異界へのゲートが開いたところには4人の男女が勢揃いしていた。香椎孝之、鶴田悠平、白水帆乃花、もう1人は派手な色使いの服を着た見慣れない教師――美術教師の有田勝。


「やっぱり2人も来たんだね。ここにいる人たちはみんなイデアを扱えるんだ」


 杏助と晴翔が到着するなり悠平は言った。


「鶴田くん。この2人と何か関係でも?」


「はい。仲良くしている普通科の秋吉杏助と狩村晴翔です」


 悠平が言うと、有田は杏助と晴翔をまじまじと見た。


「本当にイデアを扱えるのか。それで、みんなはどう思うかい?この穴について」


 と、有田は言った。

 この場所に集まった6人の目的は生徒が消えた謎の穴――異界へのゲートを見るためだった。オカルトが好きな男子生徒から、評判の悪い教師まで。全員の目的は一致していたのだ。


「すみません、生徒のたわごとだと思ってほしいんですけど。私、この穴から出てきた金色の霧を吸い込んでからイデアを扱えるようになったんです。どうせ信じてくれないんでしょうけど」


 まず答えたのは帆乃花だった。旧美術室にいたときの姿を思わせないおとなしさであるが、彼女は有田以外の人物に一切目を合わせていない。


「香椎先生もそうでしたよね?」


 と、杏助は言う。


「そうです。4年も前になりますが。他はどうなんですかね?この場所で金色の霧を吸い込んだ人は」


 香椎は言った。

 すると、有田と悠平が手を挙げた。手を挙げない2人、杏助と晴翔を見た香椎は目を細めた。


「ふむ、それで君たちはどうなんですか」


「俺たちは……別の場所で、でした。ケテルハイムというところです」


 杏助は答えた。


「あのマンションですか。それはこの学校にはあまり関係ないようですね。とにかく、この穴は人が消えるだけで済むことではないはずです。あなたたちも気づいているんでしょう」


 香椎は再び言った。

 彼もまた、この謎の穴のことを知っているようだった。


「はい。間違いなく関係ない生徒に影響があるかと。最悪死人が出ますよ。ほかの穴付近で死人がすでに出ているように。

 俺、知ってしまったんです。イデアに適性が全くない人がこの金色の霧を吸うと死ぬんですよ」


 杏助の発言で6人の間に流れる空気が張り詰めた。

 杏助、晴翔、悠平以外の認識では死人が出ることなど考えてもいなかった。


「なるほどねえ。これ、ひょっとしなくても休校にするしかないんじゃないか?1人この穴から消えているし死人が出る可能性だってある。立ち入り禁止にして済むことじゃないね」


 と、有田は言った。


「生徒の安全を考えているつもりだろうが、会議で通るのですか?ほかの人にはまともな知識もない、非現実的な事象です。自分が当事者でなければ絶対に信じませんが」


「1人生徒が消えているんだよ。5日前から高熱で学校に来なくなった生徒もいる。また誰か消えることがなかったとしても、僕としては感染症か何かと処理される可能性があるって信じているよ。感染症で休校になった学校があったじゃないか」


 有田の反応に香椎はその表情を変えた。

 美術教師ということであまり知られているわけではないが、有田はかなりの知恵者だ。


「さてさて、他の人に見つからないうちにここを離れよう。ついでに、君たちの『目』をちょっと借りるよ」


 と、有田は言うと彼の周りにイデア――赤い絵の具と筆のビジョンが展開された。

 有田は他5人に確認を取らず、筆に絵具をつけると5人の手に印をつけた。


「これは……」


「先生、何のつもりですか!?」


 晴翔と悠平が口々に言った。


「大丈夫、害はないよ。特に秋吉くんと狩村くんは、別の場所で似たようなものを見ているという話だからね。情報共有は旧美術室でしよう。いつでもおいで、僕は歓迎するよ」



 こうして杏助たち6人は異界へのゲートを見たのだった。

 そして、杏助と晴翔と悠平が次に向かうのは鮮血の夜明団春月支部。



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