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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
異界へのポータル編
19/89

18節 その者たち、動き出す (挿絵あり)

ついにあの人が登場します。

 春月川沿いの廃墟に出現した異界へのゲートの話は重く受け止められていた。現にそのゲートで異界へ行くことが可能であり、ゲートから流れ出る金色のガスは適正ある人々を覚醒させた。


 11月末。春月支部に要請を受けた者たち2人が到着した。

 1人は身長185センチほどの白いスーツを着た茶髪の男。年齢は30歳にならない程度であるが、戦い慣れたような落ち着きと貫禄がある。もう1人は身長170センチ弱くらいのほっそりとした体つきでショートヘアの黒づくめの服を着た女。こちらはシオンやキリオより年下――24か25歳くらいだろう。彼女もまた戦い慣れた様子だったが、何をしでかすかわからない危険人物のような気配を持っていた。


「済まねえな。こちらに割ける人数がいなくてな。俺とローレンの2人で出向くことにした」


 茶髪の男、鮮血の夜明団の現会長シオン・ランバートは言った。


「それは仕方ないことですよ。ゲートは今や大陸中に現れているといっても過言ではありません」


 と、キリオは言う。


「だな。それにしても、一つの町に複数のゲートが現れることになるとは絶対何かあるな?少なくとも俺はそう思う」


「あ、会長もそう思いました?それで、キリオさん。ゲートの位置を教えてください」


 シオンに続いてローレンも言った。


「場所は、春月中央学院高校とケテルハイム、それと春月市の都心部。いずれも穴の存在は確認済み、ただし高校については場所の特定まではできていません」


「なるほどな。俺がケテルハイム付近を、ローレンは都心部を頼めるか?」


 シオンはローレンの方に顔を向けた。


「お任せください。人が多い場所での戦闘は私の特技でもありますからね!」


 と、ローレンは言った。


「では、念のため聞きますが会長の戦闘スタイルも知っておきたいところです。僕が聞くのも失礼ですが、どうなんでしょうか」


 ローレンの発言をうけてキリオは言った。

 すると、シオンは「待ってました」と言わんばかりに腰に差していた2本のサーベルを抜いた。その刀身は銀色に輝き、何でも断ち切ってしまいそうだった。

 銀だ。

 光の魔法をよく通し、吸血鬼討伐に用いられるとされる素材。その銀でできたサーベルをキリオは初めて見て目を丸くする。


「俺は光の魔法とイデアの両方を扱える。それで、5年前の戦いを踏まえてたどり着いた戦闘スタイルがこれだ」


挿絵(By みてみん)


 2本のサーベルを持ったシオンは鮮血の夜明団のトップという立場でありながら、未だに5年前と同じ戦士のたたずまいをしていた。

 彼の持つサーベルは光を帯び、不規則に振動する。


「いいか!離れろよ、お前ら!切れ味は実際に見た方が早いって話だぜ!」


 シオンが足を踏み込む。

 他2人が左右に躱す。

 シオンは2人の間に置かれていた石に斬りかかる。

 石はシオンの斬撃によって、バターのように切り裂かれた。


「石を断つ剣、ですか。強力な助っ人が来てくれたものです」


 キリオは言った。

 彼の目の前で石を叩き切った男は春月支部では絶対にありえない戦い方をする者だ。だからこそ、キリオは恐れおののくしかなかった。だが、その一方で彼は危機感を覚えていた。

 彼には。この春月支部の構成員には絶対にまねできることではない。


「そう思ってくれて嬉しいな。けど、お前たちも俺と同じ戦い方をしようと考えるなよ。人にはそれぞれ、向いている戦い方がある。杏奈みたいにパワーで制するタイプもいればローレンみたいに敵をかく乱するタイプだっている。それぞれにできることを磨いていけばいいだろう」


 シオンはキリオの考えを見抜いていたかのように言った。


「それは心得ているつもりです。こちらには呪法使いもいますから。とはいえ、調査に向かったきり消息がつかめませんが」


「なんだって?」


 シオンは聞き返した。


「春月支部の人員は僕を除いて11名です。しかし、その11名がポータルの調査に出たきり戻りません。連絡も取れない状況です。ので、こちらの戦力は大幅に削がれているのです」


 と、キリオは答える。

 11人。鮮血の夜明団春月支部のほとんどの人数だ。1週間ほど前、キリオは異界へのゲートの危険性についてそれほど重く受け止めてはいなかった。人数を動員して突き止め、それを杏奈や彰が解決できるだろうと考えていた。だが、彼の考えは甘かったらしい。

 キリオの顔には後悔がにじみ出ていた。

 すると、シオンも血相を変える。普段は部下に対して本気で怒ることのないシオンの形相は一瞬であるが鬼のようになった。


「なるほどな。お前の判断ミスで11人の命が失われた可能性がある。ふざけるなよ、芦原キリオ。過ぎたことについては仕方ないが、これから下手に犠牲者を増やすな。会長命令だからな」




 春月市の東部。山の麓には古びた社があった。

 人が立ち入ることがほとんどないはずの社に男が1人。杏奈や杏助と同じ色の髪に金色のメッシュを入れた180センチを超える身長の男だ。

 彼の服には血がついている。

 そして、彼の前には2人の男の死体が転がっている。


「さて、今度はこいつをオッサンのところに持っていくかな。別にこいつら男だし脚を斬っとくこたぁねえだろ」


 彼はつぶやいた。


「ふうん、やっぱり殺したのか。さすが零くんは仕事が早い」


 その声とともに深紅のスーツを着た別の男――神守杏哉が現れた。

 ねっとりとした低音の声が返り血を浴びた男、零の耳に入ると、零は眉間にしわを寄せた。


「いつまでも子ども扱いするな。俺はもう23歳だぞ」


 零は言う。


「別に子ども扱いはしていないよ。俺がしたのは弟扱い。村を出たあの日から君は俺にとって弟のようなものだがねぇ?あの日、俺は君を助けたんだぞ」


 杏哉が「村を出た」と言うと、零は何か嫌なものでも思い出したような顔になった。


「お、俺にそれを思い出させるな!怖かったんだぞ!人が正気を失って悲鳴をあげて殺しあって!それを怖がらない人間ってどういう神経してんだよ!頭いかれてんのかこの変態野郎!」


 零はもはや涙目になりかけていた。


「フフ……これだから零は可愛いんだよ……と、まあ戯れはおいといて。1人でこいつらを運ぶことはできないだろう。俺が手伝ってあげるよ。せっかく血が目立たないように赤いスーツを選んだのだから」


 杏哉は零の返事も聞かぬまま死体を背負う。


 そして、2人は「ある場所」へと向かうのだった。



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