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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
異界へのポータル編
16/89

15節 燃える廃屋、異界への扉 (挿絵あり)

今日は連投します。

その1です。

 廊下にたちこめる霧はますます深くなる。杏助はその霧をものともせずに歩き続けた。

 その深い霧の奥、杏助が見つけたのは歪んだ襖だ。

 襖のわずかに開いた隙間から金色の霧がとめどなく流れ出る。この霧が人を覚醒させる。この霧が、人でありながら人間に許容された範囲を超える力を得るファクターとなる。


 杏助は襖に手をかけて開いた。


 ――それは直径5メートルほどの穴だった。床に半分が埋まった状態で外側の霧が渦を巻き、人の立ち入りを待っていたかのようだった。また、入口からは黒い何かが時折手のように伸びては消え、伸びては消え、を繰り返している。その様子はどこか恐怖を誘い、杏助でも見ていて面白いものではなかった。加えて穴の中から聞こえる不気味な音だ。

 杏助はそれが異界への穴、すべてを異界へと送り込むポータルであると直感的にわかってしまった。


挿絵(By みてみん)


「こんな見た目なんだな……地面に半分埋まって、すごく悍しい見た目だ。ここに入っていくなんて、俺はしたくないな。もっとかっこいいものだと思っていた……」


 杏助はつぶやいた。

 異界への穴の存在を確認したところで杏助は踵を返し、来た道を戻る。


 だが、杏哉を最初に見たあたりのところで杏助は違和感に気づく。金色のガスとは別の煙。この廃屋は燃えているらしい。出火場所がどこなのか、杏助にはわからなかった。

 ――窓もドアもない、この奥まった場所から生きて出られるのか。杏助にその自信はなかった。


 杏助は絶望するしかなかった。短い人生だった、こんなところに来るんじゃなかった、と。せっかくこの廃屋が放火される前に訪れることができたと思っていたのに。

 そんな杏助は異界へとつながる穴を思い出す。もしかすると。その希望にすがる思いは杏助をあの異界への穴の場所まで戻らせることになる。

 彼は小走りで再び異界への穴がある場所まで戻った。

 不気味な穴は、入ってくるものを拒む様子を見せなかった。ただ、黒い触手のような手のようなものを伸ばして何かを引き込もうとする。


「……異界へ行って戻ってきた者はごくわずか。俺は戻れるんだろうか。でも。俺が火事で死ぬのは絶対に嫌だ!」


 杏助は息をのみ、穴の中に足を踏み入れた。


 ――歪む。どこへ通じるかも知れたものではないその穴に命を託して。少年はその先に希望を見出した。新天地へ向かうためでも、反則的な能力を得るためでもなく、ただ生きるために。




 投げ出された場所は山林だった。落ち葉の積もる林にその身を投げ出され、杏助はあおむけに倒れた。

 木の葉の隙間から見える空は晴れている。危険な場所でもなければ、悪天候でもない。杏助はただ、自分は運が良かったと確信した。


「俺は生きている……ここがどこかわからないけど。俺は一体どこに来てしまったんだろう」




 杏助が異界へのゲートへ足を踏み入れたのと同刻。杏奈は廃屋のそばにやってきていた。彼女はどうしても杏助のことが心配だった。

 そんな彼女の目の前で屋敷の入口が炎上する。誰がやったのか知れたことではないが。だが、杏奈はある人物が脳裏に浮かぶ。放火魔。廃屋付近の建物に放火する謎の人物だ。


 彼女は走ってその炎の出どころへ向かった。



 そいつは体の周囲に金色の落ち葉のビジョンを出していた。そのビジョンがきらめくごとに、炎は爆発的に燃え広がる。

 杏奈の体は勝手に動いていた。イデアの展開を最大限にして、放火魔の首を掴んで持ち上げた。


「お前がしていたことは見ていた。お前が放火魔だな?」


 杏奈は言った。


「何……言ってる……んですか……ァー?俺……それらしきもの……持ってませんけど……」


「その必要はない。さっき出していたビジョンが何よりの証拠。そして、通常の酸素濃度ではあそこまで激しく燃えることはない」


 杏奈の手が放火魔の首を絞める。彼が死なない程度に。


「今まで放火された場所も私が調査したが、どれも可燃物とはいえないものが短時間で燃えていた。その燃え方はまるで酸素濃度が高いときのそれだ。お前は、酸素濃度を操ることができるみたいだな」


 杏奈は放火魔の男を突き飛ばし、放火魔の男は塀に激突した。

 彼の肋骨が折れる。当分動けないだろうと、杏奈は燃える家屋へと向き直った。


「この規模の異世界転移は5年ぶりだな。いけるか……?」


 杏奈は呼吸を整える。

 イデアを持つ者特有の気配は自分と放火魔の男以外にはない。つまり、この廃屋にいた杏助はここにいないということ。彼を探さねば、と杏奈も考えたが今は燃える廃屋をどうにかすることが先決だ。


 杏奈の体の周りに広がるイデアの密度が急速に濃くなった。


「転移せよ!近くに民家もない異世界の砂浜だっ!」


 炎に包まれた廃屋は一瞬にして消える。はずだった。

 だが、杏奈が見たものは3分の2ほどを失い、内部を露出させた廃屋だった。

 5年ぶりに行う建物の転移はあまりにも負荷が強く、すべて転移させるとまではいかなかった。燃えていた部分は無事に転移したが。


 そんな現状においても杏奈は落胆することなく顔を上げた。そして彼女は衝撃を受けることとなる。

 廃屋の中には異界へと通じる穴があったのだ。金色の霧が流れ出し、内部から黒いものが手のようになってうねうねと出てきている。

 杏奈の頭にとある仮説が浮かんだ。それは杏助が異界へと向かったのではないか、ということ。気配がないことからするにその可能性は非常に高い。


 少し間をおいて、杏奈は異界へ行くことを決意した。杏助を助けに行く。今の彼には異界から戻ってくる力などない。


「……杏助を追跡する。私はもう一度異界へ……」



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