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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
異界へのポータル編
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14節 呪われた気高き血統「神守」

杏哉、杏助、杏奈は似ているという設定があります。

杏哉が語ることは果たして……。

 生首屋敷と呼ばれる廃屋。

 杏助と杏哉はその廊下を先へと進んでいった。ある程度進んだところから、今度は金色の霧が漂うのが確認できた。この霧は。


 ――異界へとつながる穴からは時折金色のガスが流れ込む。それはイデアの素養ある者には害がないが、そうでない者には猛毒となる。


 金色の霧を見た杏助はとある可能性を考えていた。それは、この廃屋のどこかに異界へとつながる穴が存在しているのではないかということ。もしそうであれば人が行方不明になるだけではなくイデアの素養がない者が何人も死ぬことになるだろう。それだけではない。もっと悪い可能性。

 イデア使いが増えること。

 杏奈が気づいていたことに杏助も気づいてしまった。


「杏助。顔色が悪いぞ」


 考え事をしていた杏助に杏哉が尋ねた。


「なんでもありません。その、見せたいものって何ですか?」


 杏助は杏哉に尋ねた。その意図は杏哉に鎌をかけること。彼が異界への穴について何か知っていることがあるのではないか、と杏助は疑っていた。どこからともなく現れた杏哉という男はあまりにも怪しすぎる。ついてきたことは杏助の勝手であるが、杏助は少なくとも杏哉を信じてはいなかった。

 歩きながら杏助は肩から掛けていた木刀を手に取った。

 ――いつ杏哉が攻撃してきてもいいように、いつでも杏哉を攻撃できるように。


「見せたいものか。今言うのもあれだな、もうすぐ目的の場所に着くのだから」


 杏哉は回答をはぐらかす。これで杏哉への不信感はますます高まった。

 杏哉という男はあまりにも危険すぎる。




 血まみれで「封」と書かれた紙の貼られたふすまの前で杏哉は立ち止まった。どうやらここが目的の場所らしい。

 目的の場所にたどり着いた杏哉はふすまを開けた。


「見せたいものはここにある。でも、どうかこれを見て腰を抜かさないでくれ」


 ふすまが開いた瞬間あふれてきたものは悍しい気配だった。人の怨念、負の感情、立ち入れば呪われるような危険な気配。杏助は思わず身構えた。

 部屋の中。そこにはいくつものお札が貼られた木箱が並べられ、木箱からは血のような液体が漏れていた。

 呪詛の影響でもあるのか、というくらいには部屋の中の空気は悍ましかった。ケテルハイムの金色の霧とは別方向で洒落にならないものだと杏助は直感した。この空気は人を殺す力があるのではないだろうか……


「俺にこんなものを見せたかったんですか?」


 杏助は怯えながら言った。


「これじゃない。偶然これと同じ部屋に置いてあるというだけの話だ。もっとも、置いた本人は意図的だったのかもしれない」


 と、杏哉は言って部屋の奥、黒く塗られた箱が置いてある方へ進む。

 彼は床に置かれた箱を開けた。

 中身は紙ばかり。杏哉は何かが書かれた大切な書類とみられる紙を何枚か箱から出し、部屋から出て来た。


「プレゼントだ、杏助。それには俺たちの血族の情報が書かれている。見てみなよ。そこに書かれている情報はすべて真実だ」


 と、杏哉は言うと杏助に紙を差し出した。


 まず1枚目。杏助はその折りたたまれた紙を見た。

 書かれているのは家系図。神守や筑紫という苗字が書かれた血筋。その一番下には「杏奈」や「杏助」、「杏哉」という名前が書かれていた。


「これって……」


 杏助は声を漏らした。


「俺たちの家系図だ。杏哉とかかれているのは俺の名前だし、杏奈と書かれているのは鮮血の夜明団所属の『星空の戦姫』神守杏奈だ。そして杏助と書かれているのは君だよ」


 衝撃だった。杏助の今までの記憶すべてが嘘であるかのように、彼は言葉を失った。それならば、今まで杏助を育ててくれた両親は何者なのだろうか。


「俺は一体誰なんだ……?俺の家族は偽者だっていうのか?」


 と、杏助は言った。


「どうだろうな。だが、君が経験したことは紛れもない事実なんだから気にすることはない。さて、俺ももう一つ言わなければならないことがあるな。

 俺とか君とか杏奈の血族は神守家という、失われた村出身の血族。呪われた血族だ。君も呪いを解かなくてはならない。君にとっては他人事ではないんだよ、杏助。俺も5年前からそのために行動を起こしていたし、杏奈だって最近呪いについて調査しているようだ。そろそろ君も動き始めなければね」


「やっぱりそうだったんですか……腹、括らないとな」


 杏助はつぶやいた。

 彼はわかっていた。杏奈の姿を見たときから。咲や首なし幽霊から呪いを解いてくれと言われたときから。

 これからやることは、杏奈が杏助に頼んでいた情報収集だけでは足りないだろう。


「そうだね。君の活躍に期待しているよ、杏助」


 と、杏哉は言って壁の中に消えた。

 彼は杏助から見て、どこまでも無責任に見えた。彼は杏助に何を求めるのだろうか?


 杏助は戸惑いと苛立ちを押し殺して廊下に出た。

 廊下には金色の霧が漂っていた。


「そうだ。この霧の出どころも探さないと。あいつが教えてくれなかったし」


 杏助は家系図を受け取っただけで満足せず、霧が濃くなる方向を目指して歩き始めた。もし杏助の予想が正しければこの先に何かがある。

 杏助は廊下を先へと進むのだった。


 ギシギシと廊下がきしむ。

 誰かが杏助を見ている。

 杏哉とは別の誰かが、杏哉と同じくイデア能力を持つ何者かが。その者は一体何者なのだろうか。

 杏助は木刀を右手に持って、誰が来てもいいようにと備えていた。もはや彼の眼は純粋なオカルトマニアの少年のそれとはまったく違っていた。



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