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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
怪奇を追う霊感少年
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9節 堤咲は死んでいない

タイトルの通りです。

改めて考えてみると咲先輩って摩訶不思議な人だ。

 杏奈は杏助を前にしてため息をついた。


「どうしたんですか、杏奈さん」


 と、杏助は言う。

 彼を目の前にした杏奈はどうも杏哉の言う事が引っかかる。目の前にいる少年の苗字は秋吉であり、神守ではない。だが、どうも杏哉に似すぎている。杏助が成長すれば杏哉になるのではないか、というくらいに。


「なんでもない。ところでその紙袋の絵は何?ちょっと気になるなあ」


 杏奈は取ってつけたように言った。


「これは……先輩から預かったものです。訳あって先輩は絵から出られないんですが」


「絵から出られない人か。やれやれ、あんたたちは私たちの方に踏み込む気満々だな。まあ杏助くんならやりかねないと思うけど」


 杏奈はフウ、とため息をついた。


「その先輩だが、我々鮮血の夜明団にも心当たりがある。春月支部の遺体安置所にいる仮死状態の……ついてきてくれ」


 今度は彰が言った。

 彰は席を立ち、他の4人に「ついてこい」と言わんばかりに手招きする。向かう方向は地下へ続いている階段。

 彰に続いて杏奈も席を立ち、階段の方へ向かう。


「きっと何かあるんだろうな……フッ、楽しみだ」


 と、晴翔も言った。

 杏助たち3人も彰と杏奈に続いて地下に降りる。


 地下への階段はどぎつい装飾がなされていた。はっきり言って現代美術でもない限りかなり悪趣味なものだろう。

 やがて階段は廊下となり、廊下はまっすぐどこかへと延びていた。


 派手な色の装飾がなされた廊下は小さなドアの向こう側に続いていた。ドアには「関係者以外立ち入り禁止」と書かれている。


「兄貴。関係者以外立ち入り禁止というのは何だ?俺、入ってはいけない気がするが」


 晴翔は言った。


「何を言ってるんだ。ここから鮮血の夜明団の春月支部に行ける。言ってみれば裏口みたいなものだよ。関係者以外っていうのは鮮血の夜明団関係者以外ってことだ」


 彰は言った。

 その傍らで杏奈がドアの鍵穴に鍵を刺し、ドアを開けた。その奥に広がるのはひんやりとした暗い空間だった。そこにはベッドのような台が10個ほど置かれ、そのうちの一つに緑色のセーラー服を着た少女が寝かされていた。彼女は点滴がつながれていた。


「心拍はある。呼吸も代謝もある。植物状態ではないがなぜか起きない。これが4年ほど続いているらしい」


 寝かされた彼女の状況を杏奈が説明した。


「死んではいないんですね。この人咲先輩に似てる……?」


「似ているというか、堤咲本人だ。事情を聞こうにも起きる気配が全くなくて聞き出せない」


 杏奈は言った。

 彼女の言葉が本当であれば咲は生きているということになるのだろう。それにしても不可解な状態だった。

 杏助は寝かされた少女の顔を覗き込んだ。寝顔とはいえ、やはり綺麗だとはいいがたい咲の顔そのままだ。だが、こちらの咲は起きようともせず、寝息をたてて眠っている。


「そういうことですか。俺、ありのままのことを話してもいいですか?」


 と、杏助が言った。


「私は構わない。むしろ興味があるな。魔物ハンターとして」


 杏奈はそう言うと口角をあげた。


「咲先輩、実は自分から絵の中にとじこもってしまったみたいなんです。学校で人間関係がうまくいかなかったみたいで。どうもその大元の理由がケテルハイムで能力が発現したことなんですよ。俺、考えたんですけどそれはイデア能力じゃないかって思うんです。俺や晴翔がそうだったみたいに」


「なんだって……?それは我々が本腰を入れて調査すべき案件じゃないか」


 杏奈は言った。

 彼女はどうやら大切なことを見落としていたらしい。2日前に杏哉という男から聞いたことに気を取られていたばかりに。解決すべきことは呪いだけではない。杏奈が春月市に派遣されてきた本当の理由は呪いでも何でもなく、春月市の失踪事件と異界へのゲートの調査だ。イデア能力の発現は近くに異界へのゲートがあることを示唆している可能性がある。


「杏奈!少し落ち着いたらどうだ。最近顔色が悪いぞ。2日前から」


 杏奈の思考を遮るように彰が言った。


「そうかもしれない。それでも杏助くんが言ったことは洒落にならないことだと思う」


 隠すしかない。2日前の出来事はたとえ杏奈の恋人である彰に対しても言えなかった。どうしても彼を巻き込みたくはないのだ。だから彼女は1人で悩むことしかできなかった。仲間がいるとはいえ、心理的に杏奈は孤独だった。5年前のあの日から。


「だよな。それは俺も同意だ。けど、俺にもう少し話してくれていいだろう?」


「今はできない……もう少し待って。もう少ししたら話せるようになるから……」


 杏奈はどこか怯えているようだった。彰でさえ、このような彼女を見たことはなかった。それだけの出来事があったらしいと彰も予想した。


「俺が力になれることがあれば頼っていいからな。この町の案件は1人でどうこうできるものじゃないぞ」


 と、彰は言った。


「そうかもね。それじゃあ、3人に頼みたいことがある。堤咲と話すことができるのならまた会ってもらえるか?本体のことも話してほしい。あとは、能力の詳細も聞いてくれると助かる」


「はい。行けばいいんですね?」


 悠平が尋ねる。その傍らでは気の早い2人が咲の絵を紙袋から出していた。


「そ。初対面の私や彰が行くよりもお前たちが行った方が、効率がいいと思う」


「わかりました。やり方がちょっと変なんですけど許してください」


 杏助は出した絵の前に立った。それは人の気配もない風景画だった。


「ォホン!ラーメンを食べるのが汚い人。ズォオオオオオオオオオッ!……レロレロレ」


 杏助が渾身のギャグを言ったとき、風景画から3本の手が伸びてきた。手は杏助と晴翔と悠平を掴んで絵の中に引きずり込んだ。


「さて、頼んだよ」



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