病室
ピッピッピッピッ…
規則正しい電子音が聞こえる。
目を開き、辺りを見渡す…ここは、病室?
腕には点滴、頭には包帯が巻かれているようだ。
頭が…痛い。
僕はゾンビに襲われ、意識を失ったハズ…そう、あれはゾンビだった。
父さんがその手のホラー好きで、小さな頃に見た映画のワンシーンがちょっとしたトラウマになってる。
大切な人がゾンビになってしまい、殺さなきゃ殺されると分かっているのにできなくて、自分も結局ゾンビになってさまよい続けるという内容だった。
念のために体を調べておこう。噛まれた後とかあったら、生き残ったと思いきやアウトのパターンだ。
それにしても…点滴の機械がピッピッピッピッとうるさいな。
普通、音消さないか?弟が子供の頃に肺炎になりかけて入院した時は音消してくれてたぞ?
まぁ、良いや…後で看護婦さんに頼んで消して貰おう。
どうやら、頭以外に怪我は無いようだ。
これで、ナースコールを鳴らした後に容態が急変しゾンビ化した僕が看護婦さんを襲うパターンは無いだろう。
ナースコールを鳴らすと、直ぐに看護婦さんが来てくれた。
具合を聞かれ、ちょっと頭が痛い事を伝えて体温を計る。
体温を計りながら、僕は質問する。
「あの、僕はなぜ病院に?」
「覚えてないんですか?原さんはバイクの事故でここに運ばれてきたんですよ」
「バイクの事故?僕が?」
看護婦さんの顔を見ながら、固まってしまった。
ピピピピ、ピピピピ…体温は36,8℃「熱は無いですね。ご家族に連絡してきます」そう言って看護婦は笑顔で退室し、僕は再び1人になった。
茫然自失…しばらく、そんな状態だった思う。
僕はバイクで事故を起こして意識を失っている間にゾンビに遭遇し、襲われる夢を見ていたと?
「違う…違う、違う、違う!」
まだ、この手には生々しいアノ感触が残っている。
ヘルメットで頭を潰した、アノ感触が。
暫くすると、家族が病室にやってきた。久しぶりに母さんの泣き顔を見た…本当に心配してくれていたのだろう。
「まったく、心配かけて。ワタルは小さい頃から突然とんでもない事をしでかすから、本当に心配だわ」
涙声の母さんの言葉に父さんが頷く。
「平凡が売りみたいな顔をしてるけど、何気にやらかすよね。兄さん」
皆、言いたい放題だな。
早く帰ってくれないかなと内心思っていた最中、ノックと共にマリまでやって来た。
「ワタル、大丈夫!?」
涙を浮かべるマリを見て、あらためて愛されてる事を実感した。
僕の安否を確認し、ホッとしたマリはそれからウチの家族と小一時間ほど話をして帰っていった。
「タダシか?マリに連絡したの」
「うん、気が利きすぎて、なんかゴメン」
母さんも父さんも、だいぶ前に紹介してからすっかりマリの事がお気に入りだ。
てか、なんかファンみたいになってる。
「子供はマリちゃんに似れば良いなと、切に願う」
最近掛け始めた眼鏡のズレを中指で直しながら、父さんが言った。
何気に失礼な事を言ってません?
ようやく皆が帰り、ため息混じりでベッドに寝転がる。
日常の暖かさに触れたばかりなのに、どうしてこんなに寒さを感じるのだろう?
彼女…あの、充血した瞳…夢だったのか?
体が震え出した…ドアや窓の鍵がしっかりかかっているか確認し膝をかかえてドアを見て、窓を見てを繰り返す。
ピッピッピッピッピッピッピッピッ…
クソ、音消してもらうの忘れてた。
今夜は…眠れそうに無い。