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ゾンビ待ち  作者: 伊藤両断
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今、通り魔に襲われたら目撃者もいない。


完全犯罪が成立しそうな瞬間が、ちょっした中都市なら思いの外あるものだ。


今がまさに、それ!


小雨のせい?それとも、この通りは普段から人通りが少ないのか?


住宅街なのに灯りがついている家が1件も無い。


助けを求めて叫んでも住人の誰かが「今、なんか聞こえた?」なんて会話の後に電気をつけて外を見るコロには時既に遅しって感じだろう。


そんな事を考えている最中、彼女が僕に気付き振り返る。


血塗れセーラー服姿の彼女は充血した瞳で僕をとらえた。


なんだ、この状況?


数時間前…お得意様が事故で足を負傷したから、眼鏡を取りに来れないと電話が入った。


「じゃあ、僕が帰りに届けてきますよ」


今日のスタッフは皆、電車やバス通勤なので僕はバイクでお客様の自宅へと向かった。


スマホのナビを頼りに無事にたどり着き、お礼を言われて帰る途中。


「げ、雨…」


今日の天気は曇りのち雨…そういえば、どこかで見たっけ。


そんなに強い雨じゃないし、雨宿りするほどじゃない。


早く帰ろう…そう思いながら、やけに街灯が少ない通りを走る。


雨がフルフェイスのヘルメットに反射して、大して強くもない雨音がやけに耳障りだ。


そんな中、どこからか男の声が聞こえた。


思えば、これに気づかなければ良かったのだろう。


声がした方へバイクを走らせ、脇道へ入ると…抱きあっているように見える男女の姿があった。


あれは確か、この近くにある女子高のセーラー服…男性はスーツ姿だ。


生徒と教師の逢い引き?いや、それにしては様子がおかしい。


何かの見間違いかと思い、ヘルメットを外して何度か瞬きをする。


制服姿の少女の後ろ姿に隠れた小柄な男は彼女の抱擁から、どうにか逃れようともがいているが…首から噴水みたいに血を噴き出して動かなくなった。


3日は食事してません。みたいな勢いで、彼女は倒れた男の喉あたりまで食を進める。


そんな彼女と、目と目があった。


そんな彼女…そう、映画や漫画、アニメにラノベ…etc.


十中八九、ゾンビ…そう、僕はゾンビと遭遇したのだ。


こういう時のリアクションは、僕の知る限りざっと2パターンある。


悲鳴をあげるか、恐怖で体がすくんで動けないか。


どうやら僕は後者らしく、色々と考えを巡らせる割には立ち尽くしてしまっていた。


今から逃げれば逃げきれる?


そう思うより早く、彼女は僕の方へ走り出した。


キャラ的に誰がどう見ても、僕はゾンビ映画に登場したなら画面の端の方で目立たなく食われてる人の類いだと思う。


だが、実際にこんな状況に陥った場合…モブだとかどうとかは関係ない。


やるしか、ないのだ。


「っっっ!」


唸り声みたいなのをあげたのは彼女では無く僕の方で、飛びかかってきたところを手にしたヘルメットで殴りつけた。


カウンター気味に入った一撃で、彼女はダウン。


馬乗りになり、何度も何度もヘルメットで彼女の頭部を殴った。


やがて、彼女は動かなくなり…いつの間にか強くなった雨に打たれながら、僕は頭部がぐちゃぐちゃになったソレを茫然と見つめていた。


「…まだ、生きてる」


何だろう…この感覚?凄く、心臓が高鳴っている。


恐怖からか、単に激しく体を動かしたからか…いや、違う。


とにかく初めて体感した「この感じ」名付けられない感覚に戸惑いながら、一先ず、この場を乗りきったんだと安堵して顔を上げた…瞬間!


首がカクッと曲がった小柄な男性が僕を見つめている。


あ、あの人…ゾンビになったんだ。


完全に油断していた僕は、スーツ姿の男性が振り下ろした拳を食らってしまった。

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