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ゾンビ待ち  作者: 伊藤両断
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「心配しないで、ちょっと風邪を引いただけだから」


おでこに冷えるシートを貼り付けた母さんが、咳をしながら言った。



他所のお母さんたちより、僕らの母さんは若々しくて美人だ。背もスラッと高くて、ロングの黒髪がとても似合っている。


そう、自慢の母親だ。


小学校低学年の僕は、早く母さんに元気になって欲しくて何か元気が出そうなモノを買いにいこうと小銭しか入っていない財布を持って家を出た。


「お兄ちゃん、僕も連れてってよ!」


後からついてきた弟には「帰れ、ばあちゃん心配するだろ」と言ったが、うんとは言わず泣きながらついてきた。


時間を無駄にしたくなかった僕は、弟と手を繋ぎいつも買い物しているスーパーに向かう。


あのスーパーには何度も家族で行っている…しかし、車でいくのと子供が徒歩でいくのとでは大きな違いがあった。


たどり着いた時には満身創痍。


母さんに食べてもらう桃の缶詰めを買って、疲れきった様子の弟とスーパーの中にある休憩スペースで一息つく。


「お兄ちゃん、これ食べればお母さん元気になるかな?」


普段、風邪なんかひかない母親だったので僕らはとにかく心配だった。


「母さん、桃の缶詰め大好きだって言ってただろ?きっと元気になるよ」


思えば、行きは車から外の風景を見ていて道は何となく覚えていたが…帰り道は車の中でオモチャつきの菓子を開けて、弟と見せ合っていたので外はまったくと言っていいほど見ていない。


ただ、逆に進むだけのことだが…この時の僕らにはそれが難しかった。


「ねぇ、お兄ちゃん…まだお家につかないの?」


「…もう少しだから…」


この時の物凄く不安だった気持ちは、きっと一生忘れないだろう。


挙げ句、雨が降ってきて傘を持たない僕らは本屋の前で雨宿り…このまま、家に帰れなかったらどうしよう?


涙目になった、その時…自転車の急ブレーキの音と共におまわりさんが声をかけてきた。


「君たち、原さんのとこのぼっちゃんだろ?お母さんもおばあちゃんも心配してるぞ!」


僕らがいないことに気づいたばあちゃんが、探してくれと頼んでくれていた。


いつの間にか雨は止み、映画のワンシーンみたいに空には虹がかかっていたっけ…家の前には、ばあちゃんと母さんが立っていて結局は僕らのせいで母さんの風邪は長引いてしまった。


咳をしながら、僕らを抱きしめる母さん…この時、僕らは結構大きな声で泣いたと思う。


仕事から帰ってきた父さんには、初めて怒鳴られた。


父さん、怒れば怖いんだ…そんな事を思いながら弟と半べそかきながら長い説教を受ける。


「…だが、母さんを大切に思う気持ちについては…ありがとう」


最後の言葉に救われた気持ちも、きっと一生忘れないだろう。


この事がきっかけで、弟は警察官に憧れるようになった。


僕は…


スマホのアラームが響く…起きなきゃ…寝る前に弟と話をしたせいか、あの時の夢を見た。


懐かしい、大切な思い出。

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