弟
原と彫られた表札、まわりと比べると少し小さな2階建ての我が家…鍵を開けて控えめに声を出す。
「ただいまー」
両親は既に眠っているようだが…弟の部屋は明かりがついていたので、まだ起きているのだろう。
水を求めて居間に向かうと、冷蔵庫の前には先着がいた。
「兄さん、おかえり」
「おう、ただいま」
弟の前では、普段より少しだけ態度が大きくなる。
僕は水を、弟はコーラを手に立ち話をする。
「今日はデート?」
「あぁ」
「マリさん、美人だし性格良いし…早く結婚しないと、とられちゃうんじゃない?」
悪戯な笑みを浮かべて僕を見る弟…こうして、あらためて見るとあまり似ていない兄弟だ。
まず、髪質が違う。地毛が茶色っぽくサラサラしている。
目は僕より少し大きい。背は…あれ?
「ちょ、背伸びた?」
「そうかな?たいして変わってないと思うけど」
コップに注がれたコーラをぐいっと飲み、弟はそう答えた。
…背、いつの間にか越されてる。
こういう気持ちって何とも言えないものなんだな。
嬉しいような、悔しいような…五分五分の感情。
「試験勉強どうよ?」
「順調、結構自信あるよ」
「おぉ、頼もしい。なれると良いな、警察官」
弟の名前は正しいと書いて、タダシ。その名の通り正義感が強い好青年…身内を誉めるのもどうかと思うが、本当にそうだ。
「あの時のお巡りさんに憧れて、とうとうここまで来たんだな」
「兄さん、まだ受かってもないんだから」
苦笑いを浮かべる弟を見つめながら、僕はコップの水を飲みす。
その後も、たわいのない話をして僕らは一緒に2階に上がり「おやすみ」と声を掛け合い、お互いの部屋に入った。
ベッドに横になりながら、少しスマホを見て眠りにつく。
明日も明後日も…これからも普通に過ごし、マリと会える週末を楽しみに…タダシみたいに世のため人のためってのはガラじゃない。
普通が1番、普通が…