両親
普段なら20分程度で帰れるが、既に30分以上かかっていた。
両親の無事を祈りつつ、通行の妨げになるゾンビを蹴散らす。
今のところ、2体までは安定して対処できている。
同時に何体までなら対処できるか把握しておきたいが…今はそれどころではない。
ようやく自宅が見えてきた…この辺りは駅や街の中心から少し離れているので住宅街というには、やや家も少ない。
父さんいわく、故に土地が安くマイホームを建てやすかった、とのことだった。
母さんがゴミ捨て場まで遠いとぼやいていたので、父さん、俺、タダシの順番でゴミを捨てに行っていた。
今、この状況なら人口密集地帯じゃなくて良かったと思える。
バイクから降り、玄関に向かおうとしたところでガチャっと鍵を開ける音がした。
見ると、お隣の吉田さんが外に出てきた。
危ないので、外に出ないように呼びかけようとしたが…どうやら、その必要は無さそうだ。
「ゥウゥゥゥゥゥウ…」
唸り声をあげながら、真っ赤な目で俺を見つめている。
吉田さんはウチの両親より歳上で、70歳近いおじいちゃんだ。
数年前に奥さんを亡くし、独り暮らしであまり家からも出ないライフスタイルだったと思うが…
おじいちゃんゾンビは動きも遅く、遅れをとる相手では無い。
一瞬、子供の頃にお菓子を貰った事を思い出した。
あと、タダシと自転車の2人乗りをして転んだ時に奥さんに絆創膏を貰ったっけ。
奥さんも吉田さんも優しい人達だった。
そんな回想から、ふと我に返る。
既にハンマーは吉田さんだったゾンビの頭部を捉えていた。
「…天国があるなら、きっと奥さんが待ってますよ」
辺りを見渡すが、どうやら他にゾンビはいないようだ。
吉田さんの家からも…ゾンビは現れない。
どうして吉田さんはゾンビになってしまったのだろう?
だが、今は両親を安全な場所に避難させるのが最優先だ。
考えるのは後回しにし、自宅に入る。
「母さん、父さん、無事?」
声を聞いて、父さんが姿を見せた。
「ワタル、良かった…無事だったか」
「父さんも無事で良かった…母さんは?」
「居間にいる。これから、どうする?」
真剣な眼差しの父さん…身長は俺より少し低い中肉中背、髪は白髪混じりの七三分け。
銀縁の丸眼鏡を掛けている。ちなみに、遠近両用。
口数少ないが、家族思いの良い父親だ。
しかし…鍋をヘルメットがわりにし、手にはフライパン…本人は真剣なのだろうが笑いを誘う。
「なんか、映画とかで必ず一人はいるよね。そういう格好の人」
「家の中にあるものだと、コレがベストだったんだ。笑うな」
話ながら居間に行くと、心配そうな顔をしている母さんがソファーに座っていた。
「二人とも、ここから移動しよう」
「避難所か?だが、既に避難所は人が入りきれないとかで、パニック状態らしいぞ。タダシから連絡があった」
「避難所はむしろ危険だと思う。父さんはゾンビ見た?」
「さっきまでテレビに映っていたのは見たが…ドッキリでは無いんだな?」
「父さん、それゾンビ映画だと序盤で死ぬ見解だよ。人気が少ないところに地下室つきの貸し家があるから、そこへ行こう。水も食料も準備してあるから、安心して」
家を出ると、母さんが吉田さんの死体に気づき悲鳴をあげた。
「…お隣の吉田さん?これ、まさか…」
無言で頷く俺に二人は唖然としている。
「そんな目で見ないでよ。僕だって、やりたくてやった訳じゃないんだから」
どうも、両親の前では俺って感じじゃなくなるな。
俺から僕に逆戻り…小屋から鉄スコップを取り、父さんに渡す。
「やらなきゃやられる…そうだな」
スコップを受け取った父さんは母さんと二人で吉田さんの遺体に手を合わせた。
あらためて思うが、本当に優しい両親を持った。
二人をゾンビは絶対にしない…そう心に決め、僕はバイクで父さんたちは車でマイホームを後にした。




