南瓜
「なんで急にジョギングを?」
雀か何かの鳴き声をバックミュージックにマリと公園を走る。
「身体、鍛えたくて」
帰宅し、弟に聞かれる。
「兄さん、何飲んでるの?」
「プロテイン、筋肉つけたくて」
仕事終わり、店長と話す。
「ワタル君、仕事終わってたらラーメン食いに行かない?」
「すいません、店長…今日は用事があって…」
「おう、新人!この荷物はそっちのトラックだぞ!」
身体を鍛えられれば何でも良かった。
足腰を鍛える為に、適当に重い物を運ぶバイトを選ぶ。
腰を悪くしたら、もとも子もない。
身体のケアもしっかりしなければ。
「…何か、あったの?」
数日後、マリが心配そうな顔で聞いてきた。
「…マリは、いざって時に頼りになる男とそうでない男なら、どっちが良い?」
「それは…頼りになる人の方が良いけど…二人の時間も大切にしたいよ」
「僕は…二人の未来を大切にしたいと思ってる。今は、僕を信じて欲しい」
納得のいく内容ではなかっただろうが、マリはそれ以上何も言わず、聞かなかった。
部屋で腕立て伏せをしていると、ノックが鳴った。
「ワタル、ちょっと話しておきたい事があるの」
「母さん?」
いつになく、不安そうな顔の母さんに寄り添うように父さんも部屋に入ってきた。
「母さん、癌になっちゃって…しばらく入院することになったの」
「病院は?」
「富士見病院よ」
富士見病院…僕があの日、運ばれた病院か。
「他に候補は無いの?」
「母さんのとは違う癌だけど、治療に成功したそうなのよ。だから、ね」
数ヶ月後、母さんは元気に退院した。
「癌が完全に治ったわけじゃないのだけれども、お薬のお陰で小さくなったのよ」
警察官になったタダシは泣いて喜んでいる。
僕は富士見病院で治療したせいか、何となく嫌な予感がしていた。
鍛える、稼ぐ、準備する。
鍛える、稼ぐ、準備する。
鍛える、稼ぐ、準備する。
鍛える、稼ぐ、準備する。
…良い感じにコイツも使えるようになってきた。
月8万もかかる地下室つきの貸し家で僕はカボチャを砕いていた。
人間の頭部はカボチャくらいの硬さらしい。
本当に人間の頭で実験できればベストなのだが、そうはいかない。
あれから、随分と経ったか…もうすぐ、三十歳の誕生日がくる。
そういえば、大学の同窓会の招待状が届いていたな。
参加したら、マリにも会えるだろうか?
「会ったところで…やり直せる訳もないし、な」
マリと別れてからは2年くらい経ったかな?
交通事故から僕の様子がおかしいと共通の友人に相談していたというのも、別れてから知った事だった。
結婚して子供をつくって…そんな未来を彼女は望んでいた。
だが、ゾンビから妊娠中のマリを守りきる自信がなかった。
出産後なら子供とマリを守らなきゃならない。
あの時は、正直難しかった。
「今なら、どうだろう?」
独り言が地下室に響く。