⑤補足
「・・・ということで、犯人は興戸って生徒だった」
占い部部室。俺は神藤に事件の顛末を報告した。今や神藤は探偵部の上司的存在なので、一々報告しなければならない。まったく嘆かわしい限りである。
「ふーんそっか。お疲れ六郎君」
今回の事件の犯人は興戸だった。一方、神藤が示した犯人は高槻勇天。彼の言葉は間違っていたのだが、やはりいつも通り、動じる気配はない。
「僕は占い部だからね。神様じゃないから、はずれてもしかたないだろう」
はずれた時のいつもの言い訳。ただはじめの頃は、ただの言い訳、強がり、自虐と馬鹿にしていたのだが、どうやらそうでもないらしい。
本当に、「占いだからはずれてもしかたない」と達観しているらしいのだ。
「また言い訳か」
俺はあえて嫌味を言ってやる。
「そういう君も、西大路君にずいぶんやり込められたそうじゃないか。
仮にも探偵部なんだし、たまには自分が探偵役になろうと思わないの」
「・・・・・・思っても出来ないんだよ」
神藤は八割の確率で真実を言い当てる。そしてはずれた二割は探偵部が補う・・・のだが、探偵部というより、毎回毎回、西大路により補われている。俺が真実を言い当てたことなど一度もない。
「にしても、せめて助手役になってあげたら?君の報告を聞く限り、君自身はいつも途中で推理合戦からフェードアウトしてるじゃないか。せめて最後まで合いの手ぐらい入れてあげなよ」
そう言われても、最後の方はついていくのがやっとだからどうしようもない。探偵役は勿論、助手役にだって技術がいる。
「いいんだよ。俺は探偵の推理を聞くのが楽しいんだから」
これは強がりではなく、俺の本心だ。
「ふーん。じゃあ、僕の占いが当たるのはあまり嬉しくない?西大路君の推理が聞けなくなっちゃうから」
「関係ないな。別に犯人当てだけが推理じゃないからな」
神藤はあまりミステリを読まないのだろう。何も犯人当てだけがミステリじゃない。倒叙ミステリといって最初から犯人の名前が分かっているジャンルもある。
ミステリのメインは、謎解きの過程なのだ。『答えは丸分かりでも面白い』なんてミステリはたくさんある。
そう伝えると、神藤は目を丸くした。
「面白そうだね、ミステリって・・・僕も書いてみようかな」
占い師がミステリに興味を持ってどうする・・・いや、ミステリは神秘の物語でもあるから、意外と相性が良いのかもしれない。
「占いに活きるのか、ミステリって」
「ふふっどうだろう。分からないね」
神藤は珍しく微笑んだ。どうやら、今日の彼はご機嫌らしい。
「そうだ。こんなアイデアはどうかな。最初の一文に犯人の名前が書いてあるミステリ。楽しそうだろ?」
俺は鼻で笑った。これだから素人は困る。「最初の一文で犯人の名前が分かる」だって?良いアイデアだと思ったのだろうが甘い甘い。その趣向でミステリ界隈の話題を掻っ攫った傑作が、既に存在している。
「そのテーマで、意外な犯人を書いてやる。君程度には当てられないように上手くね」
と、神藤は得意気に言うが、残念ながら先にあげた傑作も・・・いや、ここで全否定してやっても面白くない。ここはあえて乗っかり、出来上がってきた愚作を思い切り馬鹿にしてやろう。
「面白そうだな。
でも、最初の一文で犯人の名前が分かるなら、意外な犯人にならないだろ?」
「いいや。例えば、『最初の一文』が何を指しているのか分からないように書けばいい」
神藤の言っている意味は良く分からなかったが、なんにしても楽しみだ。玄人の洗礼を浴びせてやろう。
そこでふと我に返った。俺たちは今小学六年生。後一年しない内に中学生だ。
確か神藤は私立中学に入学するらしい。ならばそこでさよならだ。高校、大学なんて人それぞれだから、以後、再会することはないかもしれない。
今はこうやってじゃれあっているが、この関係もあと数ヶ月。俺たちは中学になり、大人の階段を一歩上る。
そう考えると、今この時間が愛しく・・・
・・・なるわけもなく。
別れが来たら、心底嬉しいだろう。その時が来たら、清々しいまでの大声で、こう叫んでやる。
グッバイ、神藤。
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タイトル:グッバイ『神藤』 ~犯人は最初の一文~(桂川の推理) 作者:『六時六郎』(桂川の推理)
本文最初の一行:「犯人は『高槻勇天』だ」(六時六郎の推理)
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コード
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興戸
最初=一番初め。
文=文字で書かれたもの。
文字=平仮名、片仮名、漢字、英数字。