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実はすでに終わっていた。  作者: カワハギ
1/1

始まる前から終わっている。

その日は、とても寒い日だった。

外を見れば一面白銀の世界。僕はある決意を持って登校した。


「おはよう。カズヒロ!」


「おはよう。ミナト。」


「告る準備は出来たかよ。カズヒロ。」


「うん。ちょっと緊張しちゃってるけど。」


「俺はまじでカズヒロとカナムはお似合いだと思うからよ。成功してほしいな。それに俺たち幼馴染同士、もっと絆深まると思うし。」


「何だよ急に。それに絆って、、、ふふ。」


「あっバカにしたな!俺は真剣なんだぞ。」


「はいはい、わかったから。ありがとう。」


本当にミナトはいいやつだよ。僕はいつだってミナトに助けられてた。そして今日も僕は彼の励ましを胸に幼馴染のカナムに一世一代の告白をしようと考えていた。


「おっはよー!ヒロくん。あとついでにミナト。」


「ついでなんてあまりにも俺を軽んじすぎなんじゃないか?カナム?」


「その軽んじるって言い方やめて。なんか腹たつ。」


「ひどい!?」


やはり心地いい。僕たちのいつもの風景。いつも通りの会話。二人は内気な僕をいつも温かい太陽のように照らす。それが少し眩しくて苦しい時もあるが、それでもなお一緒にいたいと思える。


「ねえ、ヒロくん今日放課後空いてるかな?話したいことがあるんだけど。」


「え?」


一瞬心臓が飛び出そうなほど驚いた。


「、、、うん。僕も丁度話したいことがあったんだよね。」


これはもしかしたら。僕は期待で胸が弾けそうになった。


「そうなの?わかったじゃあ放課後ね!またあとで。ミナトちゃんと授業聞いてなさいよ。」


「あいあい」


「じゃあね〜ヒロくん。」


カナムは鼻歌交じりに自分の教室へと入っていった。



かくして僕の告白イベントは始まろうとしていた。



放課後 屋上


屋上のドアを開けると雪は溶けたが所々濡れている状態だった。外は寒く息が白かった。


どうやらカナムはまだ来てないらしい。僕はコートのポケットに手を突っ込みスマホを握りしめた。


しばらくするとガチャという音が聞こえ振り向くとやはり彼女だった。


「遅れてごめんヒロくん。寒かったでしょう?」


「いや、今来たところだよ。」


「それならよかった。今日はちょっとヒロくんにお話があってね。」


「、、、うん。」


「相談、なんだけど。」


少し視線をずらし髪をいじりながら話すその姿はとてもいじらしくドキッとした。


「実はね、私好きな人がいるの。」


「、、、え?」


どうやら恋の相談らしい。ちらちらとこちらに目を向ける視線にどうしても期待が高まってしまう。


「ずっと前から好きでね。幼馴染なんだけど、全然私のアピールに気づいてくれなくてね。」


幼馴染。さらに高まる。


「そ、それは誰なんだい?」


一瞬の沈黙。風が頬を撫で耳がヒリヒリ痛む。1秒が長く感じる。


「、、、ミナト。」


その名前を聞いて僕は頭を石で殴られたような衝撃を受けた。目の前が真っ暗になる。

胸にぽっかり穴が空き鼻の奥が痛み出した。


「そ、そうなんだ。うん。確かに二人ともお似合いだしね。だから、、、カナムならきっと大丈夫だよ。いつも仲いいしね。うん、、、。」


「そう?えへへーお似合いかー。」


僕が大丈夫だというとカナムは嬉しそうに頬を染めはにかんだ。


「そうだよ。カナムなら大丈夫!安心して告れよ!僕も応援するよ!」


「ありがとう。そう言われて何だか勇気が湧いてきたよ。早速来週にでもしてみるよ。見ててください上官!」


そう言うとカナムは僕にビシッと敬礼をしてきた。どうやら決心がついたらしい。


僕も敬礼を返そうと思ったが寒さからなのか体は鉛のように重く腕はピクリとも動かなかった。


終わった。始まる前に終わってしまった。

カナムは僕を選んではくれなかったんだね。

僕は選ばれなかったんだね。



@




「それでヒロくんの話って何?」


「いや、考えてみたらくだらないことだったしそれはもういいよ。」


「そうなの?困ったことがあったらいつでも言うんだよ。私たち友達なんだから。」


「うん。」


カナムはとても優しい。いつもミナトと一緒に僕に手を貸してくれる。でも今はその優しさが、言葉が凶器となって僕の心を引き裂いていく。


「じゃ、じゃあ僕もう帰るね。ちょっと用事思い出したから。」


「うん!じゃあまたね!」


とにかく一刻も早くここから逃げ出したかった。恥ずかしい。何を期待していたんだ僕は。誰だってミナトを選ぶに決まっている。そんなのわかっていたじゃないか?


でも、それでも僕は希望を持っていたかった。僕であって欲しかった。


「はぁはぁ」


僕は全速力で走りいつの間にか外は暗くなり街灯がつき始めた。空を見上げると白い綿が降っていてその1つが僕の頬に落ちてきた。

雪はすぐに溶け雫となり流れていった。


カナムが幸せならそれでいいじゃないか。

僕は僕にそう言い聞かせ家に向けゆっくりと歩き出した。寂しさと一緒に。不思議と涙は流れなかった。



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