柊子の想い
大正短編シリーズの第1弾、『大正十年のメリークリスマス』(全6話)。
今年のクリスマスは許嫁で大好きな柚兄様に想いを告げたい……。
14歳の女学生・柊子は、そう願いながら、手作りのプレゼントを柚希に贈ろうとマフラーをこつこつと編んでいた。
でも、三歳年上の柚希は柊子を子供扱いばかりして……。
今も昔も恋する女の子の純愛は美しい。大正10年のクリスマス・ラブストーリー。
先日まで続いていた試験期間の勉強疲れのせいだろうか。最近は少し夜更かしをしようと思ってもすぐに眠たくなってしまう。
「ふぁ……。いけない、いけない。寝ちゃってたわ」
うつらうつらと舟を漕いでいた柊子は、冬の強い夜風で硝子戸がガタガタと鳴る音によって目を覚ました。眠たそうに目をこすり、膝の上の作りかけのマフラーを見つめながら「あともうちょっとね」と呟く。
「でも、急がないと。クリスマスまで時間が無いのだから」
柊子は両の手でペチペチと頬を叩いて気合いを入れると、机の置きランプの灯りを頼りにして編み物を再開した。
大正十年(一九二一)十二月二十二日。
日本でクリスマスがすっかりお馴染みの世間行事となっていて、子供たちがサンタクロースのおじさんにクリスマスプレゼントをもらえることを楽しみにしていたこの時期。
ミッション・スクールのメイデン友愛女学校に通う十四歳の女の子・風花柊子は、生まれて初めて手作りのプレゼントを人に贈るべくせっせと編み物をがんばっていた。
「私だって、もうすぐ大人ですもの。いつまでもサンタクロースのお爺様にプレゼントをいただいている子供ではないわ。私の真心をこめたマフラーを柚兄様にプレゼントして喜んでもらうんだもの」
柊子がマフラーを贈りたい大切な人。
それは、三歳年上のはとこの柚兄様――千鳥柚希だった。
柊子は、親戚のお兄さんの柚希のことを幼い頃から「柚兄様、柚兄様」と呼んで慕っていたのである。柚希も柊子のことを可愛がってくれて、実の兄妹だと他人から間違われるほど仲が良かった。
「でも、いつまでも兄妹だなんて嫌。もっと柚兄様に近づきたい。だって私たちは許嫁なのですもの……」
柊子の風花家、柚希の千鳥家、それに柊子と親しかった撫子姉様の実家である鹿野家は、毎年、帝国ホテルで開催されるクリスマス・パーティーに親族そろって出かけて、ダンスや豪華な食事を楽しんでいた。
ある理由から今は疎遠になってしまっている鹿野家は誘われないだろうが、今年も風花家と千鳥家はクリスマスの夜に帝国ホテルへ出かけるだろう。婚約を交わして日が浅い柊子と柚希の親睦を深めるためにも、両家の親はそうするはずだ。
大人たちの思惑に乗るかたちになって少し面白くないが、クリスマスの夜を柚兄様と過ごすことができるのは嬉しい。
いくら許嫁だからといって、何の名目も無しに男の人と夜遅くまで一緒にいたら「恋愛にうつつを抜かす堕落女学生」などと世間の人たちから後ろ指をさされてしまう。柚希も不良学生呼ばわりされて困るだろう。
小説の世界で恋愛の素晴らしさが叫ばれ、それを読む柊子ら乙女たちが殿方との夢のごとき逢瀬に憧れても、大人たちの価値観はいまだに十九世紀。恋愛なんて不良がやる軽薄な火遊びだとしか思われず、逢瀬をしているところを学校の先生にでも見つかったら、大目玉を食らうだけでなく閻魔帳(通知表)に大いに響くはず。
でも、親戚の付き合いで一緒にいるのなら問題は無い。柊子は、クリスマス・パーティーで親たちがダンスを楽しんでいる隙に、柚希にマフラーをこっそり手渡そうと考えていた。
(サンタクロースのお爺様。柊子は大人ですからお人形はもういりません。その代わり、柚兄様が柊子のことを一人の女の子として見てくれるようになりますよう、どうかお見守りください)
柊子は心の中でそう祈りながら、ひと編みひと編み心を込めてマフラーを編んでいくのだった。
そう、柊子はもうすぐ大人。来年には結婚できる年齢になるのだ。いつまでも、許嫁に子供扱いなんてされたくない……。
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