7,ルート
「カオサンは俺を探していたわけだよな?」
「まぁそうだな」
「テーの居場所を教えてくれるんじゃねえのかよ?」
「いや、いつもの店に行ってみたらテーがいなくなったって、お前が言ってたって、いつもの店のオヤジがいうからよ」
「あんたそういや、待ち伏せしてたらしいな?」
「そ、そんなことしてねえよ。なんだよあのオヤジ」
「オヤジってか、あんたのほうが年上じゃないの?」
カオサンは少し顔を赤らめた。
「な、なんだよ。用事がなけりゃ会いに行っちゃいけないのかよ!?」
ドーも少し顔を赤らめた。
「ま、まさか……カオサン……」
カオサンは汗をにじませる。
「そ、そういう意味じゃねえよ。何の用事がなくても会いにいってバカな話ができるのがダチってもんだろーがよ!」
ドーも実は同じ気持ちであった。
「だからこうやってわざわざ来てるんじゃん。ところでカオサンはさ、まだ組を抜けてないの?」
カオサンは肩を落とした。
「抜けたはずなんだけどよ、なんだかんだでしがらみがあってな。だけど俺は危ないクスリなんて手がけてねえからな」
「その『夢売り屋』はどこにあるんだよ?それからその謎の若い衆、そいつ、何か知ってるかもしれないぜ。手が光らなかったのはカオサンが完全に覚醒してないからじゃないか?」
「ふーむ。俺が左腕にサイコブレードを持つ身長190センチのハードボイルドヒーローねえ……」
小男のカオサンは自分のやせ細った左腕をさすって見た。
「そういや、そんな映画やマンガを見たことがあるな。戦いの日々に嫌気がさしただとか、巨大組織の秘密を隠すために顔や記憶を消して、ふとしたきっかけに記憶が蘇ってヒーローの道を歩むってやつ」
カオサンも満更ではなさそうだ。
「そしたら嫁も帰ってくるかな」
ドーが顔をあげた。
「カオサン結婚してたのかよ!?」
その目には童貞じゃなかったのかよ!?という非難が浮かんでいる。
「いやもう、逃げられて20年にもなるからよ。」
「そうなのか。だったら童貞みたいなもんだな」
「姿形も変わっちゃってるんだろうな。俺だって若い頃はいい男だったんだぜ。羽振りもよかったし」
「再婚してるかもな?」
カオサンはそれを聞くと俯いて黙り込んでしまった。ドーは慌てていった。
「いや、きっと待っててくれてるよ。どこかでさ」
「転生っていうのは死ななきゃ無理なのかな?」
カオサンがしんみりというのでドーは少し心配になる。
「いや、あれは不慮の事故で死んでしまった人が、その記憶を持ったまま王子や勇者に生まれ変わってしまうだけでさ。別に狙って死んでるわけじゃないし。普通は記憶が消えているのに何らかのバグで残ってしまっているだけでさ、勇者になろうと思って死んだって、もっと悲惨なレイプ魔なんかに生まれ変わってしまうかもしれない。王子で生まれてきたのに事故で死んでレイプ魔に転生なんて悲惨すぎるだろ」
「元王子のレイプ魔はいやだな」
「だったら元ヤクザのヒーローのほうがいいじゃん」
「いや、ってことは俺は元ヒーローなのにヤクザになって、ヤクザで落ちぶれて元ヤクザのわけのわからないオッサンってことになるぜ」
「記憶が消えてるんだからつらくないだろ?」
「いや、記憶を消すってことは今の生活のほうがヒーローとしての生活よりつらくないってことだ」
今度はカオサンが身を乗り出してきた。
「ドーだってさ、もしかしたら何かの元ヒーローとか王子かもしれないぜ?俺はお前にはそういう気配ってか、なんか雰囲気的なものを感じるな」
「童貞なのにかよ!?」
「いや、なにかしら、つらいことや悲しいことがあって、こんなにつらいなら童貞のほうがマシだという思いがあって、それで童貞なのかもしれないぜ?何事も比較なわけでさ。ミジメさの比較で、マシなミジメさを選択したってことだ」
ドーも考え込んでしまった。
「このまま、今の暮らしを続けることも俺たちにはできる。だけど俺達は今、不思議な力に導かれて
行動を起こそうとしている。だけど踏みとどまることもできる。この螺旋石を叩き壊す……のはまずいから、誰にも見つかれない所に埋めてしまって。なかったことにして、このつまらない暮らしを続けることもできる。だけど今から『夢売り屋』に行って、首尾よく物事が転がって、謎の若い衆にも出会ってしまって、余計な秘密を色々聞いてしまって、本格的に覚醒してしまったら……。」
「俺が時空海賊ならよ、おめーはもっととんでもない、なんかその、得体の知れない勇士なのかもしれないぜ?」
勇者には勇者としての責任と苦難が生涯つきまとうのだ。
「テーを見棄てることもできるってわけか」
「ああ、莉乃ちゃんにはよ、警察に届けを出しといた、で済ましてもいいわけだよ。」
ドーの頭のなかにひとつの閃きが浮かんだ。
「莉乃は……、俺の青春だったけど、ってことはテーもそれは知ってたはずだし、言うまでもないことだからな。ってことはテーも莉乃のこと……。テーが戻ってきて、また3人で会うようになったら万が一、万が一、莉乃がテーと……。そんなことになったら、俺はそれを祝福しなきゃいけなくなる」
カオサンが鋭い目になって聞く。
「どうする?」
激しい雷鳴が轟いた。続けざまにサッシのガラスが砕け散る。
「うわっ」
「こ、これは……」
「妖魔ってやつか!?」
「こっちだ!」
カオサンが洗面所に向かうとマットを蹴飛ばし、現れた回転式の留め具を外した。
そのままその正方形の分厚いタイルをひっぱりあげた。その下に続く地下空洞が現れた。
「逃走用地下道ってやつだ」
二人は床下の通路に潜り込んだ。
「あんたやっぱヤバイもの扱ってんだろ?」
「グレーなものはあるかもな。あっちが新宿方面、こっちが浜松町方面だ。とりあえず二手にわかれよう」
「あのさ、カオサン」
「なんだ?」
「なんだかんだで友情を取るのが男だと思うし、それにさ、あんな妖魔みたいな奴らの好き勝手させられないよな」
暗闇の中で表情はよく見えないがカオサンはニヤリと笑ったようだ。
「ああ、テーもしっかり助けるし、あの妖魔達もブチのめしてやる。明日の朝、新宿公園で合流だ」
ドーとカオサンはガッチリと手を組み合った。
「やっぱり光らねえな」
ドーのポケットの螺旋石が強い光を放った。
「うおっ!」
「ルート自体は間違ってないようだぜ」
「いてっ」
「頭打つなよ」
「おせーよ!」
ドーとカオサンはそれぞれの方向に身をかがめながら駆け出した。




