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2、テーの部屋

エレベーターが一気に加速し下降する。

1階フロアに降りるとドーと莉乃を案内してくれた茅野さんが待っていた。

「お疲れ様でした」

それから一斉にまた美人女性係員達が恭しい笑顔で頭を下げた。

ドーはまたしても大いに恐縮した。そしてペコペコしながらエントランスを後にした。

うーん!

ドーはビルの前で伸びをして先程までいた40階を見上げた。

まるで夢の世界にいたようだ。ドーはぐるりとあちこちのビルをながめた。

「非処女洞窟か」

ドーはひとまず自分の部屋に戻ることにした。


「こちらに気付いたわけではないようだな」

ビルの屋上で身を潜めていた妖魔達は身体を伸ばし、再びドーの姿を追った。

「おいジーン、何をする!」

「今のうちに始末しちまうんですよ!」

「まて!まだやつがそうだと決まったわけではない!」

「疑わしきは罰せよってね!」

「バカ!またないか!」

妖魔長デニムがジーンを引き止めた。

ジーンはしかし激しく抵抗する

「離して下さい!人間の一匹や二匹が消えたって!」

「いい加減にしろ!」

うっ!」

デニムは小さな雷撃を発しジーンを制圧した。

ジーンは蹲りながらも声を絞り出す。

「シャル少佐だって、戦場で手柄を立てて出世したんだ!」

デニムはこの新兵に諭すようにいった。

「我々の任務は偵察だということを忘れるな。ここはまだ戦場ではない。対象の監視は今後も継続する。本部からの命令を待て。」

「それじゃ手遅れに……自分には本部の考えは理解できません」

「まぁ待てジーン。本部には本部の考えと情報網があるのだ。俺もやつがもし、『ルアムの欠片かけら』だとすれば早いうちに始末した方がいいと思う。しかし本部や司令部にはもっと大きな作戦があるはずなのだ」

眼下のドーは駅のホームに立って電車を待っている。

「追跡と監視を続行するぞ」

「ハッ!」

ジーンともうひとりの妖魔スレンダーはデニムに敬礼を返した。


ドーは軽くカップラーメンで夕食を済ませると東福荘へと向かった。

テーの部屋の電気は消えたままだ。

「今日も帰っていないのか」

これでもう1週間と3日目だ。

この一室がドーの相棒テーの部屋である。ドーの住む部屋と大差はない。

戦前から存在するボロアパートを強引にワンルームに改装して30年にもなる。

バブル時代、団塊ジュニア世代の大学進学を狙ったものだ。

かつてはそれでも都心へのアクセスが良好であるという、唯一利点のために借り手が殺到したものである。しかし現在の少子化によって若者の姿は失われ、テーのような無職者や謎の外国人、職業不詳の高齢男女が住み着いている。設備は寂れはて、家賃は当時の半分以下である。


ドーは階段を登ると部屋の前に立ち、ドアを何度かノックした。返事はない。気配もない。

裏側に回って壁をよじ登ると非常用の登り口がある。その柵を更に超えて壁に打ち付けてあるはしごを登った。テーの部屋のベランダに到達した。鉢植えも水をやっていないためすっかり枯れてしまっている。

「あーあ」

ドーは枯れ草を前にため息を付いた。

「大事に育てていたのに。これを棄てて行かなきゃいけないことか?」

テーが部屋を開けるときはいつもドーに鍵を渡し、水やりを頼むのである。

「泊まりの日雇い仕事に行ったわけでもないってわけだ」

ベランダからサッシを開けようとしたがやはり鍵はしっかりかかっている。

「中で死んでいるわけじゃ……?」

それはない。平手ゆり先生は危険な状況にあると言ったが死亡しているとは言わなかった。

ドーの感覚にもテーが生きている確信がある。鉢植えのひとつをその場所から移動させた。

その下にはテーの部屋の鍵があった。

ドーはそれを手にすると非常はしごを降りて柵を越えようとした。

「誰であるかっ!!」

突然大声で怒鳴られた。光が漏れている窓が一斉に開けられ住民たちがドーを睨みつける。

「俺ですよ!ドーです!」

「なぁんだ。ドーちゃんか、泥棒かと思たヨ」

声の主はアラビア人のハッサンだった。

「アッサラーム・アレイクム。タビーブ・ハッサン」

ドーが言うとハッサンも「アッサラーム・アレイクム」と返した。

「おはよう、こんにちは、こんばんは」の全てがこの挨拶には含まれる。

タビーブとは医師のことである。そしてハッサンの医院はこの部屋である。

「テーの姿は見ませんでしたか?」

ハッサンは目をパチクリさせている。

流暢に使いこなすものの案外と簡単な日本語がまだ理解できないのだ。

ドーはアラビア語で言い直した。

「アラムトゥ・シャーハズィ・マザハロム・テー?」

ハッサンは理解した。

「見ないねえ~」

住民たちは口々に言うと首をひねった。

「どこ行っちゃったんだろうね。カネもないのに」

「あっ!」

ハッサンが何かを思い出した。

「カオサンがドーちゃんに会いたがってたよ」

カオサンは町外れの廃墟にすむ中年オヤジだ。日本人とは思われるがそれ以外は不明だ。

「カオサンが……?」

わかったと頷くドーにハッサンが新しい薬を試さないか?と誘ってきたがひとまず断ったドーはテーの部屋に向かった。

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