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19、池袋上空

「秋長先生ならわかってくれるよ」

ドーはしかし妖魔のことをどう説明したらよいのかわからなかった。

「あ、あの、ぼ、僕は土手宏というものです。」

「うん。莉乃からだいたいのことは聞いてる」

「今年で31歳。彼女いない歴年齢。無職の童貞です。土手のドーと童貞のドーでドーと呼ばれています」

そうしてドーは目を伏せた。童貞らしい、おどおどした態度を見せるドーを見る秋長康人の目はしかし優しく温かい。秋長は大きく頷いた。

「いいじゃないか。童貞は可能性の宝庫だよ!」

「えっ!」

「童貞力はクリエイティビティの源だ。心配しなくていい。ボクは君の味方だ。話してみてくれないか?妖魔というのはつまり、悪魔みたいなものか?」

「うーん。大きくジャンル分けすれば、そうなのですが、彼らから見れば僕達のほうが邪悪な存在なのです。いや、邪悪な……、というか、関わりになりたくないような……」

「ふぅむ。積極的に侵攻しようなんていう気は今のところないわけだな?」

「基本的にそういうスタンスらしいのですが、でも扱いを間違えると、今後どうなるか、ちょっと……」

「テーくんというのは?」

「そいつは僕と、それから莉乃とも幼馴染の、その、親友という奴で、数年前に東京で再会してから、なんていうか、また一緒につるんだり……」

秋長先生はドーの話を真剣に聞いている。しかしドーの話は回りくどく、たどたどしい。

莉乃が割って入った。

「この二人は無職童貞ではあるんですけども、派遣バイトいったり、近所の人達のおつかいやったりしてお小遣いもらって生活してるんです。それでときには探偵みたいなこともやってるわけです。といっても迷い猫探しとか、古本探しとか、そんなようなことですが、そこでテーは何を間違えたかヤバイ連中と関わってヤバイ依頼を受けていたらしいのです。だから警察にはいえないんです」

莉乃はドーに代わって今までのこと、そして神殿の間でゆり先生から言われたことを簡潔に説明した。

「そ、そういうことです」

「なるほど、非処女洞窟……か。面白そうじゃないか」

秋長康人の眼鏡の奥の細い目は鋭い光を放っている。興奮を隠しきれない。

「ねえ、ドーにはもうひとり仲間がいるんでしょ?」

「あ、そうだ。カオサンという……」

「元ヤクザだけど今は更生している50代くらいの男性だそうです。この人が、なんだっけ?」

「そうです、この石をくれたのです。そしてその人はぱっと見は今のところ単なるキモいオッサンなのですが……」

ほう、と言って秋長はドーの螺旋石を手のひらで確かめる。

「これもです」

莉乃は自分の懐からユリ先生に新たに託された螺旋石、そしてブレスレットを見せた。

「色が違うね」

ドーの螺旋石は青みがかった色、莉乃のは淡く赤みがかった色だ。

ふーむとうなりながら秋長は二つの螺旋石を手の平に転がし、入念に観察している。

「男の子と女の子かな?」

「この石は凄くて」

ドーが言い終わる前に石がピカリと光を発した。

「おおっ!」

秋長と、覗き込んでいたマネージャーが同時にのけぞった。機長も何度も小さく振り返る。

「意思を持っているのです」

「ほう、石だけに意思を持つか。こっちのブレスレットは?」

「私が持っていることでドーのチカラがアップするそうです」

「莉乃はドー君の守護天使ってわけか」

「そうなんです!」

ドーがあまりに勢い良く言うので秋長は頬を緩めた。

「いい目をしているね」

ドーの童貞らしい、キラキラとした瞳の輝きが螺旋石に反射していた。

国民的作詞家にして放送作家、国民的アイドルグループ総合プロデューサー秋長康人の顔は少年のように紅潮し、鼻息が荒くなっている。莉乃がドーに囁いた。

「先生はね、こうみえて熱血ロマンティック野郎なのよ」

ドーは納得した。

「そうなのか。それでいいトシをして青春ソングが書けるんだ」

秋長の手の平から螺旋石がふわりと浮き上がり、青はドーへ、赤は莉乃のもとに戻っていった。

「ふふふ、返したくないという心を読まれたようだな。なるほど、よくわかった。」

マネージャーが口を挟んだ。

「まずは遅れずに次の現場に行くことよ!」

機体は池袋を通り過ぎようとしていた。

「あっ!」

モニターに目をやった莉乃が小さな叫びをあげた。

「先生!チリポンがいますよ!?」

ヘリに備え付けてある高解像度モニターには地上の様子が映し出されている。

人々の顔がはっきりと写っている。莉乃がモニターをターンさせて秋長に見せた。

「どれどれ?うーん……。似てるけどちょっと違うぞ?」

「そうかも?でもここまで似てる人も珍しいですね」

「チリポン……?」

「あ、うちらの姉妹グループに大阪ナンサン通りを本拠地にしてるのがあって……」

「ああ、サーヤ姉、だっけ、の?」

「そうそう、その『ナニワっ子』の若手に須藤千里花って子がいるの。通称チリポン。スドーじゃなくてストーだからね」

「へえ~!」

「期待の若手でね。秋長先生も注目してる。でも今日ってあの子たち東京こっちで仕事あったっけ?」

マネージャーを見る莉乃。

「よそのチームのスケジュールまでは知りまっせ~ん」

覗き込んでいたドーが今度は小さな叫びをあげた。

「カオサン!」

「え、カオサンって例の」

秋長が身を乗り出した。その目が輝いている。

「左腕に必殺のサイコブレードを持つ、時空海賊ゼブラかっ!!」

ドーが震えている。絞り出すような声で言った。

「ま、まさか……。カオサンがナ、ナンパ!?」

カオサンがアイドルのような制服美少女に何かしら懸命に声をかけている。

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