17、群青の空間
「タイラーさん、上機嫌だったね」
「占いの結果がよかったみたいだな」
ドーと莉乃は顔を見合わせた。
「守秘義務ですか?」
莉乃がシオリに聞いた。
「おそらくですが、あくまでも私の推測ですが、タイラー氏は親友である王子の消息を調べにきたんじゃないかしら?」
「王子は生きてるってことか」
「ドーとそっくりな王子ね」
「俺ってアラブ顔なのか!?」
「うちら九州人じゃん?九州って古代からいろんな大陸の人達が船に乗って渡ってきたと言うし」
言われてみれば住吉神社、太宰府天満宮など航海の神様を祀るものが多い。
「『海の中道』って覚えてる?」
「ああ、あれ行ったのいつだっけ?志賀島」
「うちらの劇場の結構近くなんだよね」
莉乃が所属する国民的アイドルグループ・『チームめんたいっこ』劇場からバスで15分くらいの場所である。ドーはテーのアパート「東福荘」に住むペルー人のフアナのことを思い出した。
色が白くスラリとしたスタイル。切れ長の目尻がセクシーな八頭身美女である。
「ん……?」
じっと莉乃を見つめるドー。莉乃も色が白く日本人離れした脚線美の持ち主である。
「遺伝子、か」
改めて螺旋石を見つめる。
「莉乃は背の高い男って好きか?」
「なによいきなり……。嫌いではないね」
「女はみんなプロ野球やサッカーの選手が好きなんだろ?」
「それもさっきの話と同じでさ。たくましいスポーツマンが好きな女子もいれば、学者肌のインテリタイプが好きな女子もいるんだよ。筋肉が好きな女子もいれば、マッチョは苦手という女子もいる。
草食男子が好きな女子もいる。うちら国民的アイドルグループは恋愛禁止だから関係ないけどね。ファンのみなさんが恋人だよ」
ドーはなんだか安心した。
「それはいいことだな。そういうつもりで聞いたわけではないんだが」
「じゃ、どういうつもり?」
「なんかで読んだんだけど、おとなしい草食女子が好きな男は女性経験がないことをコンプレックスに思っていて自分に従順な草食女性を好むっていうんだ」
「誰が言ってるの?」
「確か、エリート大の教授、上原千鶴子とかいう偉い先生だよ。フェミニズム……?の」
「なんでそんなことわかるんだろうね?アンケートでもとったのかな?」
「そんなこと聞かれたって、経験豊富な女性に劣等感があるから……、なんて答える男はいないと思うんだな。本当は経験豊富な女性と付き合いたいけど劣等感のせいで仕方なく草食女性を好きになっている、なんて草食女性に失礼だよな」
「人を好きになることに理由なんてあるのかな?それはきっとその人の好みの問題だと思うよ」
ドーは思った。
(どうして莉乃が好きなのか?なんて考えたこともない。劣等感のカタマリの俺なのに、気がついたときには莉乃しか見えなかった)
莉乃がふっと思い出したようにドーを見上げた。
「そうだ!ドーの好きな人ってさ、何してる人なの?進展はあったの?何歳の人?」
「うあ、あっ、な、なんていうか、それは……」
ドーは顔を赤らめて俯いた。
「どっかの店員さん?もしかしてまだ何もしゃべれてないとか?」
「いや、そ、その……、なんていうか」
シオリが助け舟を出した。
「次のドアが最後ですよ」
神殿の部屋への通路は両脇にならぶ石が放つ輝きに拠って照らされている。
そこでドーが螺旋石を、シオリがブレスレットをかざすと重い扉がスーッと開かれる。
祭壇があり、平手ユリ先生が待っていた。前回とは違ってまさに正装、神秘的で重厚なドレスに身を包んでいる。そこは群青の空間だ。小さなオーラが七色の光を発しながらあちこちに渦を巻くのが見える。
「先生が本気。これは大変なことになりそうね」
シオリが思わず呟いた。そして二人に指し示す。
「どうぞ。私はここまで」
ドーと莉乃は頷くと神殿の間に足を踏み入れた。