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15,ラブ・イン・エレベーター

エレベーターのドアが開いた。

「どうぞ」

中にいた美人係員に招かれるままドーと莉乃は乗り込んだ。

「お久しぶり、でもないですね」

「茅野さん!」

茅野しおりは二人が初めて「フォーチューンセンター」を訪れた際に案内してくれた係員だ。

30代後半の妖艶でスタイル抜群の豊満美女である。係員の中でも最上級のランクであり、平手ユリ先生の愛弟子でもある。しおりは並んだドーと莉乃を観て微笑んだ。

「よくお似合いですよ」

莉乃が照れくさそうに言った。

「いやあ、そう言っていただけると嬉しいなあ~~。私こんな素敵なドレス、ステージでも着たことなくって、なんだかもう今すっごいヤバイ状況であるはずなんですが妙にウキウキしちゃってます!ね?ドー聞いた?似合うって、似合うって!」

「お、おい、よせよ。そんな引っ張んなよな。エレベーター停まったらどうすんだ」

「なーに言ってんの!いつもどんなエレベーター乗ってんのよ!このエレベーターなら100人乗っても大丈ブイ!ほらほら、雨の東京上空もなかなかいいよ」

「あ、ああ」

そんな二人を見てしおりはまた微笑んだ。

「本当によくお似合いです」

チューブの中を高速エレベーターは40階を目指す。

「見える?」

「さすがにわからない」

暗い雲の向こうにドーは目を凝らす。

「妖魔はここには近づけません」

「えっ!?」

二人はしほりのほうを振り返った。妖魔のことはまだ話していない。

「この建物の半径数百メートルには結界が張り巡らせてあります。いかなる邪悪なものも近づくことはできません」

そういってしほりは袖をめくるとブレスレットを見せた。

「あっ!それは!」

ブレスレットに輝く小さな石の列が埋め込まれている。ドーはポケットから螺旋石を取り出した。

「僕らは螺旋石と呼んでいます」

「螺旋石、素敵なニックネームですね。正式にはアッダーラ・ストーンといいます」

「アッダーラ……。正義の石ってことか」

「そのとおり」

「え、ドー、意味わかんの?」

「アラビア語だよ」

「アラビア語わかるんだ!?」

「話すと長くなるんだが友達にだな……」

「へー、ドーには色んな友達がいるんだね」

「ロクな人間は一人もいないけどな。それはそうと茅野さん……」

しおりは頷いた。

「聖なる力を高め、魔を打ち払う精霊の石。ピュアな心と清らかな身体を持つ者の意思にだけ反応します」

「ドー、ピュアなんだ!」

ドーは顔を赤らめた。

「ドドド、童貞だからな。それだけが取り柄だよ」

ドーが俯くとしおりが言った。

「自信持って下さい。童貞は凄く人気ありますよ」

「あ、いや、さっきも実はそんなふうに言ってもらって……。だけど……」

ドーには猜疑心が芽生えていた。童貞暮らしが長いせいで温かい言葉を素直に信じることができないのだ。何かの罠なのではないか?身構えてしまうのだ。

「ほんとだよ!うちのメンバーにも童貞ファンの子いっぱいいるよ」

「ま、まじかよ?国民的アイドルグループで!?」

「そうだよ」

莉乃はこともなげに言う。

「自分も処女だから童貞がいいって言う子もいっぱいいるし、ファンの人にも童貞いっぱいいるもん。ほんと真剣に応援してくれるから私達もすっごいパワーもらってる」

ドーは莉乃としおりに背を向けてまた雨に薫る東京の街を見下ろした。

「不思議だよ。みんな俺のことをキモいと言ってるのに、ここではどうして……」

「私はドーをキモいなんて思ったことは一度もないよ?」

莉乃がそっと寄り添ってドーを見上げている。

「一緒にお風呂も入ってたし」

「そ、それは子供の頃だろ」

「私が初めてハダカみせたのドーだよ」

「……。」

幼女時代の莉乃の白い身体が記憶の中によみがえる。

「あ、あまり覚えてない」

「ぺったんこだったけどね」

ドーは顔を赤らめるだけで何も言えなくなってしまった。

「あ!ってことはドーのを初めて見たのも私ってことか!」

ドーは激しく振り返った。

「茅野さん!お、俺、童貞だけじゃなくて!」

「だけじゃなくて?」

「包茎なんです!」

「ホーケー!?」

莉乃としおりは顔を見合わせた。

「ドー、ホーケーなんだ!?」

莉乃がまじまじとドーを見つめる。

「そ、そんな目で見るんじゃねえよ。あー!もう、俺、何言ってんだろっ!」

しおりが諭すように言った。

「ドーさん、こっちを向いてください。そして私の目をしっかり見て下さい」

「は、はい……」

ドーはしおりの目を見た。しおりはドーの目をまっすぐに見て真剣な表情で言った。

「うちの彼氏もホーケーです。日本人男性の7~8割は包茎なのです。何も恥ずかしいことではありません」

「そうなんだあ~!!」

これには莉乃も驚いた顔だ。

「引っ張れば剥けますよね?」

「は、はい。いわゆる仮性というものなので……」

しおりは柔らかい笑みを浮かべて頷いた。

「だったら完全に大丈夫です。真正包茎でないかぎり手術する必要はありません。それに真正であれば保険証が使えるから美容外科で高額な自費手術をする必要はありません。包茎が病気とされたのは『高○クリニック』の高○院長がドイツに留学していた頃、ユダヤ人の友達が多くて……」

「『高○クリニック』ってあの、よくテレビや雑誌て宣伝している?」

「タカ○ーッ!クリニイィーク!ってビヨーンと飛行機が飛んでくあれですよね?」

「そうです。それでユダヤ人には割礼の習慣があるから……」

「ははあん、それを日本に輸入したら儲かると思ったわけね!」

「さすがですね。莉乃さん」

「えへへ~、察しの良さゆえに『サッシー』なんて呼ばれることもありますからね」

「で、でも包茎はモテナイとか病気になるとか……」

「それも全部高○院長がおカネを出して若者向け雑誌に広告を出すことで広めたニセ常識なのです」

下着姿の女子大生風美女が「包茎はイヤ!」と背中を向けるイラストである。昭和50年代半ばに高○クリニック院長が金儲けのために捏造した常識なのである。

「そ、そうだったのか―っ!」

「自信持ちましょう!」

「そうだよ。自分で自分を傷つけちゃ、つまんないよ。そんなことで男の人の価値が決まったりしないよ。ほら見て!」

莉乃は東京の空を指差した。雲の上に到達していた。太陽が輝いている。

「暗く濁った雨雲の上にだって、いつも太陽が輝いているんだよ」

チャイムが鳴った。40階に到着したのだ。

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