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10,電波よ届け!

「こりゃまいったな。オレが時空海賊ゼブラだったなんて。」

カオサンは左腕のサイコブレードを上着で覆い隠しながら走った。

「さっきは本能的に動くことができたが、完全に全てを思い出したわけじゃねえ」

(記憶が蘇りつつあるのはきっといいことなんだろうぜ。だが、こんなもの(サイコブレード)まで蘇ったら、まともな暮らしはもうできねえ)

「まともな暮らしだと!?」

昔の弟分に今ではアゴで使われ、既に戸籍上は死んだことになっているせいで、その秘密を握られているせいで、いいように使いっ走りに利用され、得体の知れないブツの運搬やら保管やらやらされる。

裏通りにまぎれて誰にも名前を知られることもなく、誰とも話すこともなく、何者かを理解されることもなく生きる。この汚れた暮らしのどこがまともだというのだ?

そう思うとカオサンはなんだか可笑しくなってきた。

「この理力の剣・サイコブレードでテメエのこめかみを貫くことだって、今ならまだできるんだぜ」

こうするのかな?なんとか工夫しているうちに元の腕に戻すことができた。

カオサンは覆っていた上着を腕から取り去って、再び羽織った。

――だけどこれが街ナカで勝手に出現したり、暴発したら?

(困ったことになった!困ったことになった!)


ドーは布団から這いずりだした。

「夢だよな。全部夢なんだよ」

バカバカしい。何が妖魔だ。何が螺旋石だ。何が6人の勇士だよ。笑っちゃうよ。

そんなことを思いながらフト部屋を見回す。何も変わらないいつも風景だ。

「ダサくて小汚ねえ暮らしにカンバーイ!!」

ドーは冷蔵庫からビールを取り出した。よく冷えている。開けずにもとに戻した。

部屋に戻った。石がある。柄もある。

「夢じゃないんだよな」

意を決して柄を握ってみた。何も起こらなかった。石は光を失って静かに床の上にあるだけだ。

「いったい、どうしろっていうんだよ?」

ドーはスマートフォンを手にした。画像フォルダを覗き込んだ。

「なぁ莉乃、どうしたらいいんだよ」

莉乃に会いたい。


「よう童貞!今日もぶらぶらしてんのかよ。おい、どうした?」

青ざめた顔で入ってきたドーをみて「いつもの店」のマスターも心配顔だ。

「なんかあったのか?」

「妖魔に追われてるんですよ」

「ヨーマ!?」

「魔物ですよ……、異世界からの。」

マスターはおかみさんと顔を見合わせた。

「いつものランチすぐ作ってやっからよ。まぁ水でも飲んでな」

厨房のマスターとおかみさんは囁きあった。

「とうとう童貞が脳に廻っちゃったのかな?」

「相当こじらせているようだな」

「マスター」

ドーが幽鬼のような顔で厨房を見ている。

「な、なんだ、いいから座ってな」

「この店のWi-Fiはどこまで届きます?」

「どういうことだ?」

「店の中だけですか?」

「どうだろうな」

マスターがおかみさんに聞いた。

「前にナナコが駐車場までは届くって言ってたよ」

「どうも」

ドーはスマートフォンを手に店を出ていった。

「僕がここにいたら迷惑になるかもしれない」

おかみさんが心配そうに目で追う。

「そんなことないよ!ドーちゃん」


ドーはネットを見ない。傷つくことが多いからだ。どこを見ても童貞の悪口が書いてある。

そしてもうひとつ、最大の理由があった。

ドーは数年ぶりに「荻原莉乃」で検索した。莉乃の記事と画像が大量に出てきた。

ドーはかつて「荻原莉乃まとめサイト」を見てしまった。

そこには莉乃に対する誹謗中傷が書き連ねてあった。そして莉乃がかつての恋人に送ったメールも掲載されていた。

「エッチまでしたのになんだよ!!」

恋人に冷たく棄てられた莉乃が送ったメールだ。ドーはショックの余り食事も喉を通らず夜も眠ることができず、とめどなく繰り返す吐き気に襲われた。それからずっとネットを見ていない。

しかし今はあの頃とは状況が違う。


ドーは莉乃の電話番号を押した。本当のプライベートの番号である。留守録だった。

ドーはメッセージを吹き込んでから店に戻った。マスターがホッとしたような顔でテーブルにランチを運んでくる。

「テレビでもみようや。ほら、莉乃ちゃんが出てるぞ」

お昼のライブバラエティでは莉乃が大物司会者との丁々発止に掛け合って大いに笑いを取っている。

ドーの顔に笑顔が戻った。


「お疲れ様でーす!」

お昼の生放送が終わった。莉乃は共演者との挨拶を済ませると楽屋に戻って一息ついた。

毎日が充実している。しかし肩も凝る。

「足もむくむっての!」

うーんと伸びをして少しふくらはぎをマッサージしているとマネージャーが入ってきた。

「莉乃ちゃーん」

「はいはーい!」

「えっと次の現場の収録なんだけど、なんか天気の影響でね、今日はバラシになったから」

バラシとは中止のことである。

「あれまーっ!天気とな!」

「台風が来ているじゃん?それでセットが組めなくなっちゃたらしいのよ」

「そっか、野外だもんね。ましかし、ってことは、今からの3時間は……」

「そう、オフってこと」

「やったー!とも言えないな。日程が押すからね。髪の色のこともあるし」

今月の下旬に控えている企画では黒髪に戻さなければならない。ロケの日程がずれ込むと髪色が戻せなくなってしまう。莉乃は思案顔になる。

「そういうことはさ、うちらに任せとけって。ゆっくり寝るといいよ、とりあえず」

マネージャーは莉乃の肩を揉んだ。

「いいよいいよ、そんなしてくれなくても」

「いやいや、あんたは大事な金づるだからね」

「ははは、まったくもお!」

莉乃はそういうと早速事務所スタッフが用意した移動用ワゴン車に向かった。

中には莉乃専用の寝台も備えてある。

テレビ局の駐車場に到着する頃には莉乃の目は半分ふさがっていた。クルマに飛び込んだ瞬間に寝る用意はできている。スタッフがクルマのドアを開けた。

「あ、ちょっと待って」

莉乃はスマートフォンを取り出した。国民的アイドルグループ関係の連絡があるかもしれない。

「ん?」

土手広とある。留守録にメッセージがある。

(ドーじゃん!テーが見つかったのかな!?」

音声メッセージを開いた。

『もしもし、あの、オレ、ドーだけど……。そんでもって、その、テーのことだけど、テーは、やっぱり、警察に任せたほうがいいと思うんだな。やっぱり、これって、なんだか、俺達の手に追える状況じゃないみたいだし。それでねオレさ、実はオレ、郷里クニに帰ろうと思う。なんか、その、わけわかんないことに巻き込んじゃってごめんね。……でっていうか。お仕事頑張ってね。じゃ』

「ちょっと莉乃ちゃん!どこいくの!!」

莉乃は駆け出していた。この地下駐車場には電波が届かない。ドーに連絡できないのだ。

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