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1消えたテー

ATGコンベンションセンターでは国民的アイドルグループの握手会が行われていた。

ドーは金網を超えると中庭に潜り込んだ。

暫く待っていると莉乃が現れた。

「待った?」

「いや、俺も来たばかりだ。ごめん、忙しいのに」

「まぁね。で、テーがどうしたって?」

「テーの奴がいなくなっちゃったんだ」

ドーの相方であるテーが失踪して1週間になる。

「行きそうなところ当たってみた?」

「ああ、でも全然テーは現れない。何か危険な目に遭ってるんじゃないかと」

ただの旅行とは思えない。嫌な胸騒ぎが収まらないのだ。

「それで私に相談ってわけか」

「ああ、莉乃ならなんかわかるんじゃないかと思ってさ」

「あんたにわからないのに私にわかるわけないじゃん!」

「べ、別にお前に会いたかったわけじゃねーよ!」

ドーはここ数ヶ月間のテーの様子を莉乃に話した。

「あいつ、童貞を捨てたいって言ってたんだ」

「いつも言ってることじゃん。とっとと捨てれば?あんたもいつまで童貞やってるつもり?」

ドーは顔を赤らめた。それを見て莉乃はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

(莉乃のやつ、俺の気持ちも知らないで……。)

「だ、大事な童貞だからな、誰でもいいってわけにはいかねえよ!」

「いい人見つかるといいね!」

「とっくに見つかってるよバーカ!」

「へー、今度紹介してよね」

「み、見つかってるだけだよ。紹介なんて、そんな」

「まぁーた見てるだけ?そんなことだから童貞なんじゃん」

「お前がグループ卒業するときまでに紹介してやるよッ!」

ドーは思わず大きい声を出してしまった。莉乃が口をへの字にする。

「話はそれだけ?私、握手会に戻らなきゃいけないんだけど。」

なによりも誰かに見つかったらますい。

「ごめん。莉乃忙しいのに……」

「いや、いいよ。テーのこと心配だね。何かわかったら連絡するよ。だけどスプリング・センテンスも張ってるから外で会ったりはできないよ?幼馴染だとか兄妹同様なんて言っても通用しないからね」

「安心安全の莉乃ちゃんってわけか」

「そういうこと。今はファンが一番大事だからね。じゃ!」

莉乃はそういうと足早に握手会場へと戻っていった。


ドーはいつもの場所へ行ってみた。やはりテーはいない。

マスターが声をかけてきた。

「テーは見つかったか?」

「それが……」

「莉乃ちゃんには会えたのかい?」

「ええ、それはなんとか。莉乃なら何か考えてくれると思ったけど……」

「でも莉乃ちゃんの顔を見て元気が出ただろ?」

ドーは顔を赤らめながら頷いた。


ドーのスマートフォンが鳴った。マスターが驚いた。

「無職童貞なのにスマホ持ってんのか!」

「白ロムだけなら2000円くらいで買えるんですよ」

Wi-Fiスポットなら無料通話ができる。

莉乃からだった。

「ゆいゆーから聞いたんだけどさ~」

ゆいゆーとは売り出し中の人気メンバー尾上有以のことである。

「すっごい当たる占い師の先生がいるんだって!恋愛診断から人探しまでしてもらえるって。偉い人からの紹介が必要だって言うから秋長先生に話したのよ。そしたら色々手を回してくれて、ソッコーで予約取れちゃったからさ。行ってみなよ」


数日後、ドーは莉乃に教えてもらった占い館へと向かった。

「えっと、このあたりかな?」

プリントアウトされた地図を見ながら歩くのだがよくわからない。

近くにWi-Fi環境がないのでスマートフォンの検索機能も使えないのだ。

「くっそー、俺が童貞のせいで!」

このままでは指定の時間に遅れてしまう。せっかく動いてくれた国民的グループ総合プロデューサーの秋長先生にも迷惑がかかってしまう。何よりも莉乃に恥をかかせてしまう。

「まいったな」

ドーは汗塗れで界隈を歩き回ったが見つからない。人見知り童貞なので街の人にも聞けない。思わずへたり込んだ。

「なにやってんの!こっちだよ!」

はっと見るとサングラスとマスク、帽子を深々とかぶっているものの、スラリとしたスレンダーなスタイルと長い足、そして特徴のある少し鼻にかかった歯切れ良い口調はドーの幼馴染である荻原莉乃だ。

「莉乃!」

「しーっ!」

駆け寄ってきた莉乃が慌ててドーの口を塞ぐ。

「どこにスプリング・センテンスがいるかわからないからね!」

「お仕事は?」

「撮影の合間を縫ってきた。あんた一人じゃ怪しまれて入れないでしょ!」

言われてみれば30過ぎの童貞が一人で来訪し、あの国民的アイドル荻原莉乃は妹分だとか芸能界の重鎮秋長康人の紹介だの言ったところで追い出されたり、警察を呼ばれるのがオチである。

「そ、それもそうだな。普通に考えて」

「さ、行くよ!」

「お、おい、そんなに引っ張るなって」

莉乃は自分の腕をドーの腕に絡ませている。

(周りからはカップルに見えるのかな?莉乃は何も思ってないのかな?)

ドーはふとそんなことを思った。

(いけないいけない!俺は30オーバーの童貞なんだ。莉乃は国民的スターなんだ。みんなのものなんだ。)

「り、莉乃も来るなら言ってくれればいいのに!」

「待ち合わせ場所なんてどこにあんのよっ?」

総選挙1位の国民的アイドルと待ち合わせできる場所など日本中のどこにもない。

「そりゃそーだ!」


瀟洒なビルディングだった。周囲には高級ブランドショップ。いかにもセレブ御用達だ。

『平手ゆりフォーチューンセンター』というアラビア風に装飾された看板がある。

「秋長先生の紹介で……」

莉乃が言うと、受付のアシスタントは表情を変えて何処かへ連絡を入れて立ち上がった。

「こちらへ」

特別入り口に通された。数人の女性アシスタントたちがうやうやしく出迎えた。

莉乃には勿論、ドーにも丁重に頭を下げる。

(さすが秋長先生の御威光だな。こんなきれいな女の子たちが童貞の俺に頭を下げるなんて)

いつもドーのことを気持ち悪がっているような女の子たちが恭しい笑顔を見せるのをドーは不思議に思った。

(キモいって一体なんだろう?誰がどこで決めるんだろう?どうして童貞はこんなに恥ずかしいんだろう?)

黒曜石が敷き詰められたフロアを案内係に先導されて進みエレベーターに乗せられる。

平手ゆり先生の執務室、つまり占いルームまで直行するようだ。

「なんだかドキドキするね」

「莉乃もこういうところ始めて?」

「うーん、いや、前に……、彼氏と行ったことがある。こんな豪華なところじゃないけど」

莉乃が少し遠い目をする。ドーは胸が苦しい。なんとか平静を装った。

「そっか」

案内係がすっと視線を外したのを莉乃は素早く気づいた。

「あー、もう、大昔の、話ですよ。東京に出てきたばっかの、なんもわからない研究生の頃。とっくに別れてますからね!スプリングセンテンスに売るのなしですよ。今はもうまじで安心安全の清純派ですから!」

「ご心配なく、私達には守秘義務があります」

「そういうのが怪しいんだよなあ~!前彼にも油断してたら写真売られたしぃ~」

案内係も苦笑するしかなかった。

ドーは莉乃の横顔に浮かんだ寂しさの影を感じた。

(莉乃、明るく振る舞ってるけど、まだあのことを……)

40階に到達した。

ドアが開くと360度のパノラマが広がる。東京の景色が遥か階下に見渡せる。

「わぁ―!」

莉乃が思わず声を上げた。

「ねぇドー!みてあれ隅田川だよ!あんなにちっちゃく見える!うわー、秋葉原までみえるじゃん!

うちらの劇場ってあのへんだよ!見てみて、富士山だよ富士山!すげー!湘南まで見えるんだね」

そういっていちいちドーの袖を引っ張る。

「あ、ああ。別世界だね」

「どうぞこちらへ」

暫くぐるりと景色を見ながら回るとカーキ色の重厚なドアの前に出る。

それを開くと今度は幻想的な紫の空間。その壁には色とりどりの輝く鉱石が散りばめられている。

「うわー、すごい素敵ー!神秘的ー!」

あちらこちらに様々な不思議な石が飾ってあり、小さな光を発している。

莉乃はそのそれぞれに小走りに駆け寄ると不思議そうに見つめた。

「撮影はご遠慮ください」

写メを撮ろうとする莉乃に案内係が注意した。

「あ、ごめんなさい!」

「怒られてやんの」

「うーるーさーいー!」

莉乃がこんな無邪気な笑顔ではしゃぎまわる姿を見るのは何年ぶりだろうか。

ドーは故郷での日々を思い出した。

(あの頃はいつもこうやって、俺と莉乃、そしてテーと)

「こちらでお待ち下さい。先生は現在担当中のお客様が終わり次第こちらに来られます」

豪華な部屋だ。特別VIP用の占いルームである。各国要人と平手先生が一緒に映っている写真が飾られてある。

「うわー、すごい豪華なイス!」

莉乃はさっそくくつろいでいる。ドーは立ったままだ。

「なんだか落ち着かないよ。こんなところでよくくつろげるな」

「ドーム公演の緊張感にくらべたらどうってことないよ」

莉乃は軽口を叩くとテーブルの上にあったクッキーに手を伸ばした。

「フォーチューンクッキーだって!」

(落ち着かないのは部屋のせいだけじゃねえよ)

ドーと莉乃は今、二人っきりなのだ。

(莉乃、すごくいい匂いがする)

「ドーも食べなよ。おいしいお」

そうやって莉乃は自分がかじったクッキーをドーに差し出した。

「あ、ああ」

(まるっきり男扱いされてないな)

ドーはクッキーをかじった。甘い味だ。うーんと莉乃が伸びをする。あくびをこらえきれない。

「昨日はお仕事何時までだったの?」

「ふああ~、たいしたことないよ、ほんの3本取りで、なんだかんだで4時くらい」

「あ、朝のかよ!?」

「ふつーだよ。それから少し仮眠して、5時からまた撮影、10時までやって、それで……」

「ちょっ、それじゃ、昨日から……」

「ううーん、大丈夫だよ。大丈夫。これが、ふつーだから。プロだからね。スキを見て仮眠してるし」

ちょうど今の時間は莉乃にとってみれば真夜中にあたる。

「テーのこと、心配だね」

そう言って目を閉じた莉乃は軽い寝息を立て始めた。ファンデーションで目の下のクマを隠していることにドーは気がついた。

「こんなに疲れてるのに」

ドーはそっと莉乃の頬に手を当てた。

「俺、ずっとずっと、莉乃のこと……。俺の大事な初めては、莉乃に……って。俺のことキモいっていう女子もいっぱいいたけど、いい感じの女子もちょっとだけいたんだよ?チャンスかなって。でも、俺、いつだって莉乃のことが……」

莉乃の唇が蠢いた。

「俺、キスもまだなんだ」

ドーは自分の唇をそっと近づけた。ハッとして、首を何度か振って、自分の頬を自分で何度か殴ったのち、ジャケットを莉乃にかけてやった。


それからドーは目をぎゅっと閉じていた。

ガチャリと奥のドアが開いて平手ゆり先生が入ってきた。

現れた平手ゆり先生は品の良い初老の女性だった。

ドーは立ち上がった。莉乃は眠ったままだ。

「おい、莉乃っ!先生がお見えになったぞ。莉乃ったら!」

声をかけるが莉乃は眠ったままだ。

「寝かせておきなさい」

ゆり先生はニッコリ笑うと言った。

「その彼女との未来を知りたいんだっけ?」

「違います!違います!違い……ま、す」

「いいのよ。隠さなくても、私にはわかります」

ドーが顔を赤らめてうつむいた。

「大好きなんでしょ!?」

有無を言わせぬ目ヂカラだ。

「いつも彼女を想って一人でしてるんだ!?」

ゆり先生はドーが顔を更に赤らめる姿を楽しそうに見ている。

「あの、実は今日はこいつの」

「こいつ?」

「い、いや彼女の……」

依頼人は莉乃なのだ。莉乃から事情を説明してもらわねばならない。

「あなたはこの子の恋人?」

「ち、ち、ち、違います!!」

「じゃぁ何?」

「と、友達、です」

「友達がどうして?」

「今日に限ってはマネージャーみたいなものです。おい、莉乃、起きろよ!用件はお前から言ってもらわないと……」

「莉乃、お前、ですって?」

「り、莉乃さんってば!」

「『うちの莉乃を頼む』っていう秋長先生からのお話だったけど、本当の依頼人はあなたってわけだ。」

「実は、その……」

「人探しね?」

「は、はい!俺の友達が……」

「その友達は、彼女にとっても大事な友達ってわけだ。まぁお座りなさい。」

ドーは莉乃を見た。莉乃もテーのことを大事に思っていることを知った。

「その、僕の友達の行方を……。とてもイヤな予感がするのです」

「そうね。随分と危ない道に進もうとしている」

そういうとゆり先生は水晶に向かった。

「キエエええイッ!!」

気合を発すると莉乃が目を覚ました。

「きゃっ!え?え?平手ゆり先生!?あ、わ、私……」

ゆり先生は水晶を見つめたまま頷く。気迫とともに呪文を唱えた。

「てちーっ!!」

水晶から激しい光が放たれる。莉乃は思わずドーにしがみつく。

ゆり先生が更に激しく気合を撃ち込む。

「ねるーっ!!」

部屋が不思議な光で満たされる。

「ぐくっ!その場所は、強い霊気に包まれているわ」

ゆり先生の額に汗が滲む。


力を使い果たしたゆり先生がふうっと気を失いかけた。

先生!ドーが駆け寄るとゆり先生は首を振って正気を取り戻し、

肘掛けにすがって身体を起こした。

「大丈夫、大丈夫。ふーっ!それにしても手ごわかった。だけどわかったわよ。あなた方のお友達がいるところ。危険な場所よ。悪い意識で満ちている。早く救い出さなきゃ!」


「ありがとうございました」

そう言って執務室を後にしようとする二人にゆり先生が声をかけた。

「莉乃さん」

「はい?」

「あなたのことはいいの?色々知りたいんじゃないの?」

「いえ、私は……、今日は友達のことで……」

ゆり先生は言った。

「最良の卒業の時期は、あなたが決断したときよ」

莉乃は深々と頭を下げた。


ゆり先生の占いルームから出てまた紫の空間を抜ける。そして再びパノラマの通路に出た。壮大な景色が眩しく広がる。しかし莉乃の表情は戻らない。ドーは沈黙に耐えられず思わず口にした。

「本当に卒業するのかよ?」

「私はもう25歳だからね」

25歳はアイドルの定年である。20歳をすぎるとどんなアイドルでも人気が低下する。若手に道を譲るために転身先を模索しなければならない。そして卒業後こそがそれぞれの道での本当のスタートである。

しかし莉乃ほどの売れっ子スターになるとその進退がグループの存続を左右する。発表のタイミングは極めてシビアにならざるをえない。


莉乃は去年末の「国民的歌合戦」での特別企画として行われた実人気選挙では姉妹グループ「大阪なにわっ子」のエース山本沙耶子に1位を譲ったものの、恒例の国民的グループ総選挙では史上初の2連覇を達成していた。まだ人気、実力ともに衰えを見せない。しかし女性アイドルの25歳はこの先の芸能人生を左右する大事な時期である。


「俺なんて31歳だよ!25歳なんてまだまだ若いじゃん!」

「世間一般ではね。だけどアイドルの世界の1年は一般世間の10年に相当するの」

「ま、まじかよ!25歳ったらじゃぁ、100歳みたいなもんかよ!」

莉乃がチロッとドーを見上げる。

「お、お前が言ったことだぞ!」

ドーは慌てて話題を変えようとした。

「ったく非処女め!性病撒き散らしやがって!テーまで汚染しようってんだからな!!ほんと駆除するしかないよな!」

「そうね」

莉乃はそれだけいうとそれからはずっと外の景色を眺めてドーとは話そうとしなかった。何を言っても生返事である。

(あれ、俺、変なこと言っちゃったかな)

盛り上げようとしてドーは言った。

「恋愛運も見てもらえばよかったのに~」

莉乃はドーのほうを見ることもなく「うん」と小さく言っただけだった。

エレベーターに乗り込もうとするドーを莉乃が遮った。

「クルマを呼んであるんだ。スプリングセンテンスも見張ってるかもしれないから」

「え、ああ、そうなのか。」

スターである莉乃が男性と一緒にエントランスを出るわけにはいかない。「地元の幼馴染」などという言い訳は誰にも通用しないのだ。莉乃はまた帽子を目深にかぶり、サングラスとマスク、その上からスカーフをまいた。

「じゃ」

ドアが閉まるとエレベーターが静かに降下を始める音が残された。ドーは窓の外を見た。遥か下に見えるエントランス前に莉乃を迎えに来たクルマらしき物体が見える。行き交う人々の粒が小さく見える。

(莉乃、どうしちゃったんだろう)

ドーは振り返って自分の発言を整理した。ゆり先生が「非処女洞窟」と言った時、莉乃はドーにしがみついていた手を離した。そしてドーが非処女と言う言葉を口にした途端、莉乃は黙り込んでしまった。

「ああっ!しまった!!」

ドーは悔恨でガラスを殴りつけた。強化ガラスの反発はドーの拳を傷つけただけだった。

「俺は、なんてことを!!」


莉乃がスプリングセンテンスに「スプセン」(すっぱ抜かれる)されたのは今から5年前のことだ。

国民的アイドル総選挙で4位に大躍進した日、莉乃もファンも大いに盛り上がり、歓喜の涙を流しあった次の日に悲劇は訪れた。


『総選挙4位!大躍進の若手エース・莪原莉乃(19歳)は超肉食系だった!!』

莉乃が交際していた男性(元ファン)が写真を売り込んだのだ。そこには莉乃が男性への恋心を綴ったメール、そして下着姿の莉乃の画像が掲載されていた。


『本誌はもっとヤバイ画像を入手済み!!』


アイドルの掟「恋愛禁止」。そしてなにより「国民的アイドルグループ」は総合プロデューサー秋長康人が「制服女子のグループを作りたい」との強い構想のもとに満を持してスタートした「清純派」グループであった。


莉乃は激しいバッシングに晒された。ファンそしてスタッフからも厳しい声が莉乃に突きつけられた。熱心なファンほど「アンチ化」し、連日連夜ネット上には激しい罵声が叩き込まれ、溢れかえった。


「莉乃は嘘つき!」

「にゃんにゃん画像もあるらしい」

「最低のゲロブス女!」

「非処女は出て行け!!」


男性とは5年も前に別れていることや、当時14歳の研究生だった莉乃が弄ばれ、裸体の画像を撮られて一方的に棄てられたことなど誰も考えようとしなかった。


「非処女!非処女!非処女!!」

「汚らわしい非処女!!」

「くせえんだよ非処女!」


それらの言葉がどれほど莉乃の心を深く傷つけたことだろう。


「ごめん莉乃。俺こんなことだからいつまでも童貞なんだ。」

窓の外、遥か下の地上、エントランスから小さな粒が走り出てクルマに向かう。

「莉乃!莉乃!」

ドーは窓にへばりついて叫んだ。小さな粒の動きが止まった。

「莉乃は恋愛のことなんてまだ考えられないんだ」

ドーのスマートフォンが鳴った。ここはWi-Fi環境が完備されているのだ。

莉乃からの送信メッセージだった。

「スプセンいるからも知れないからメッセージで送るね。」


「テーのこと心配だね。でもドーなら必ず助け出せると思う。テーが帰ってきたら3人でゆり先生にお礼に行こう。それで今度は3人で空からの素敵な景色を観よう。」


「こんなこと言ったらなんだけど……、今日は楽しかったよ。テーのこと頼むね。何かわかったらまた連絡するよ。何かあればまた連絡して。私にできることがあればなんでも協力する。秋長先生も力になってくれると思う」


「私のことなら大丈夫。全然気にしてないから」


サングラスをずらしてウインクする莉乃の画像が添えられていた。


ドーは涙を拭った。

「まってろよ莉乃。必ずテーを助け出して素敵な景色を見せてやるからな!」

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