第3話 俺は女子と恋がしてぇ。
カランカラン、とカフェの扉に付いたドアベルが音を鳴らす。
「ご注文お決まりでしたらこちらにどうぞ〜」
俺と未来は一緒にレジに向かってメニューを見る。未来はじっとメニューを凝視していて、迷っているようだ。
「俺はアイスコーヒーのショートサイズで。未来は?」
「お、俺は…ホットココアの、ショートサイズで…」
小声で気恥しそうに注文をした未来の顔は、耳の先まで真っ赤になっていた。アイツ、大学卒業してもずっとコーヒー飲めなかったもんなぁ、なんて思いながら未来を見ていた。
「はい、ホットココアSとアイスコーヒーSです。お待たせ致しました。」
「ありがとうございます〜」
お礼を言って近くに空いている席を見つけて座る。つい癖で未来をソファー側に座らせると、未来は不満そうに口を膨らませた。
「女子扱いしないでくれる?名前は女っぽいけど、ちゃんと男だし」
「とは言われましても〜…俺の中の未来は、女の子なんだよ」
今の未来の髪の毛が伸びたみたいな錯覚を起こしてクラっとした。
「あぁ、そうそう…なんだっけあんたが俺のことをなんで知ってるかって件について。話してよ」
「俺は…まぁ正確に言うと未来も、なんだけど。前世の記憶があるんだ。昔の自分の記憶。
それで、未来はずっと女で俺たちずっと恋人同士だった。うん、それだけ」
未来は俺の話を熱々のココアを冷ましながら聞いた。一口飲んで、コップを机に置くと口を開いた。
「で?なに?俺は男だけどそれでも付き合いたいっていうの?」
「俺はお前が好きだ。例え男になっても。」
それは絶対に揺らがない。俺は未来が好きだ。前世も来世も、この先も。
でも…でもやっぱり……
「俺はッ…女子と恋がしてぇ…青春してぇぇ…」
ダンッと机に手を付き、俯いた。
確かに俺は未来が好きだ。それでもやっぱり女子と恋して恋愛してぇんだよ…
「…っぷ、あはははっ!!あんた馬鹿みたいっ、青春なんてこれからじゃん?先の決まってる恋愛なんて楽しくないよ」
俺を心の底から馬鹿にした笑い方、芯のある声。あぁ、俺、今世も未来と出会えたんだなって、そう感じた。
「あははっ、はぁ…んまぁ、これから華の高校生活も待ってるわけだし、人生これからじゃん?」
「まぁそうだけどさぁ?俺は未来以外と恋愛したことないわけぇ…つら…」
がくんと項垂れた俺の目の前に突然、すらっとした雪みたいに白い手が差し出された。
「あんた意外と面白いやつだ。俺は、雪白未来。よろしく。この春から桜並木高校に通うよ」
「…知ってる。俺は、夏紅かける」
よく知ったようで知らない、手をとる。今回の未来と歩む人生はどうなる事やら。
出会いから、波乱万丈な気しかしない。