夏の青い日に
その日はうだるような暑さの一日だった。
通り過ぎたばかりの台風の湿気と、雲ひとつない空からの日差し、そしてアスファルトなどが帯びた熱によって、街の体感温度はサウナのようだった。
「と、溶ける……」
俺、京極 高人 (きょうごく たかと)は、この辺じゃ有名な私立高校に通う高校2年生。自身の通う高校で夏休みの補修授業を受け終わり、自宅に帰っていた。
バカってわけじゃないはず。ただ、部活のサッカーに没頭しすぎ感は否めない。
今まではテスト直前の付け焼き刃でどうにかなったが、2年生になって問題の難易度が跳ね上がり、今まで通りにはいかなくなったわけだ。
「そろそろ限界だなー」
空に向かって呟いた。
どこかのタイミングで今の授業レベルに追いつかないといけない。補修期間中、全体にしておよそ2週間の部活動停止が言い渡されるのは流石にキツイ。
両端をハンドルにのせ、ダラダラと自転車をこぐ。
外気温と部活ができない状態を作り出してしまった自身への落胆で、ペダルをこぐ脚に力が入らなかった。
「こらー!制服がだらしないぞー!」
後ろから女の元気に叫ぶ声が聞こえた。
少しだけ後ろを振り返ると、立ちながら自転車をこいで近づいてくるクラスメイトの長岡千夏の姿。
タカトは少しだけ体温が上がったのを感じた。
「制服がだらしない!」
チナツは横にくるなり、捲り上げた裾とシャツのボタンを全開にしたタカトの制服を指差した。
「わかってますー」
下唇を突き出す形でチナツにむけて言った。
「シャツぐらいは閉じようよ」
「家に着いたらね」
「それじゃ意味ないでしょ」
語気を強めてチナツは言ったが、顔は特に怒っていない。むしろ笑っている。
長岡チナツは今通っている高校のクラスメイト。去年同じクラスになり、高校に入学してから初めてできた女の友達だ。