トラップ
お土産に罠入りの箱を貰った。意味がわからない。
亀を助けたモモタロウは竜宮城へ案内され大歓迎されました。
楽しい時間が過ぎ、ふと腕時計(耐水ソーラー電波時計)を確認すると、竜宮城に来て3日も経ってると気がついてそろそろお暇しますと乙姫様に告げました。
電波が入っていたので間違いなく3日間です。何百年も経っていたなんてことはありません。抜かりなしです。
「わかりました。ではお土産にこの玉手箱を差し上げます」
「ありがとうございます。大変に楽しかったです」と、玉手箱を受け取りました。
「ただし、その玉手箱は決して開けてはなりませんよ」
「え?なんで? これお土産ですよね……?」
「実は罠が仕込んであります」
「わな???」
「トラップです」
「いやいやそういうことじゃなくて、お土産ですよね? なんで罠を渡すんだよ!」
「まあまあ。開けなければ平気ですから! 亀! 亀や! モモタロウを送って行って!」
「おい、ちょっと待てよ! いらないよ! 罠とか!」
「いいから持って帰ってください! じゃないと送りませんよ!」
ここは海底です。送ってもらわなければ地上に帰ることはできません。
不承不承、モモタロウは罠入り玉手箱を持って地上に戻りました。
「なんだよもう……罠って。罠って」
すぐ捨てようと思いましたが亀がじっと見送ってます。ここで捨てたらヤバイ気がします。
とりあえず家に戻る途中で罠の入った玉手箱は捨てようと、亀に手を振って海岸を離れました。
途中に小さな泉がありました。
モモタロウは玉手箱に手頃な石を結びつけて泉の真ん中あたりに投げ入れると箱は水中に沈んでいきました。
やっかい払いが出来てホッとしていると、泉がぽこぽこと泡立ち始めました。
「ヤバい。爆発物か化学薬剤か何かか!?」
すばやく木の影に退避して伺っていると、泉の中から美しい女性が現れました。
「わたしは泉の精です。そこの隠れている人、出てきなさい」
恐る恐る泉の精の前に出たモモタロウに泉の精は言います。
「あなたが捨てたのはこの金の箱ですか?」
「いいえ、違います。すいません」
「ではこの銀の箱ですか?」
「普通の玉手箱です……」
「あなたは正直者ですから、この金と銀の玉手箱を差し上げましょう。もちろんこの罠の入った玉手箱もお返しします」
「はい……」
口調は静かですが、泉の精の目は笑ってません。どうやって罠が入ってるのか知ったのかはともかく、罠入りの玉手箱を自分の住処に捨てられたのです。怒る権利は十分にあります。
モモタロウは大人しく3つの箱を受け取りました。
「ちなみに金の箱と銀の箱にも罠が仕掛けられてます」
「なんでだよ! 罠はもういいよ!!」
思わずモモタロウは叫びました。
「同じモノを複製するシステムなんです。正直者に金銀の品を差し上げる大変にお得なシステムなんです。罠を捨てる方が悪いと思います」
ぐうの音も出ません。
「不法投棄はいけませんよ? いいですか、不法投棄は絶対にいけませんよ?」
「はい……」
泉の精に不法投棄を封じられました。
こういう超自然的存在と約束したことを守らないとロクなことになりません。破ると怖いです。
「どうすんだよ、これ」
モモタロウは3つの罠箱を持って途方に暮れました。
しかし途方に暮れていてもどうしようもないので家路を急ぐことにしました。
乙姫様がいうことを信じるなら箱を開けなければ平気なはずです。金庫にでも入れて厳重に仕舞っておけばいいだろうと考えました。
峠の中程に差し掛かった時、突然10人ほどの盗賊に囲まれてしまいました。
最近あたりを騒がしている噂の盗賊団です。
「身ぐるみ置いていきな! そしたら命だけは助けてやろう」
盗賊は特に金と銀の箱に興味があるようです。
渡りに船です。盗賊に押し付けよう。モモタロウはそう思い、大人しく箱を差し出しました。
「へっへ。物分かりがいいじゃねーか」
箱だけじゃなく、腰の刀も財布も全部取られてしまいましたが仕方ありません。厄介払いができたのでよしとモモタロウは考えました。
足早にその場を離れようとしたところ、ぎゃあああああという盗賊の叫び声が聞こえました。
さっそく罠を開けてしまったのでしょう。
振り返ると煙が立ち上り、盗賊がバタバタと倒れていきます。
「毒か。乙姫様もえげつないモノを……」
煙が晴れた後には立っている盗賊は一人も居ません。
しかし様子を伺って気が付きました。開けられたのは金と銀の箱で、普通の罠箱が残っています。
置いていくのはまずい気がします。泉の精の居たところからまだそう離れてはいません。
1時間くらい待ってもう大丈夫だろうと判断し、死んだ盗賊達から刀と財布に玉手箱と、ついでに盗賊の持っていたお金も頂いておきました。
かなりの臨時収入で数年は遊んで暮らせそうです。
開けられた金銀の箱も嫌ですが回収しておきます。このまま放置しても不法投棄になるかどうか微妙なところですが、泉の精を怒らせるわけにはいけません。
金銀の箱は盗賊が持っていた水で綺麗に洗いました。
盗賊たちは一様に皺くちゃの、まるで老人のようになって死んでおりました。モモタロウの体には今のところ異変はありませんし、たぶん大丈夫でしょう。金銀の箱はいいお金になりそうです。
しかし罠の種類は知れましたが、問題は何も解決していません。
とりあえずまた家路を急ぎます。一刻も早くこの毒箱を処分しなければなりません。
ですが峠を抜けたところで村人に呼び止められました。
「おい、あんた。峠を抜けてきたのか。盗賊に会わなかったか?」
「会いました」
「無事逃げてきたのか」
「いえ、盗賊は俺が全滅させました」
「なんだってー」
盗賊団には莫大な賞金が掛けられており、モモタロウはその賞金を受け取り、家に戻りました。開けられない玉手箱をなんとなく持ったまま。
罠を押し付けた乙姫様には少々ムカつきますが、言い付け通り開けなければ危険は特にないわけですし、結果としてお金持ちになれたので、釈然とはしませんが、罠の入った玉手箱を今もモモタロウは大事に仕舞って、その後なんとなく幸せに暮らしました。