#0 -prologue-
地球、そして世界。
この空間は、人間が思うより果てしなく広い。
そんな世界の中には、人知れず生きていく者たちもいる。
特殊な仕事をしている者たちも含まれている。
"ヴァイオメント"
そう呼ばれる特殊な人間もこの世界で暮らしている。
初見で聞いても何のことかさっぱりだが、彼らの生き様は壮絶だ。
そんな彼らに、ある出来事が起きる。
これは、彼らの波瀾万丈な1年間の日々を記録した物語である……。
201X年1月22日――
ここは日本の大都市・東京。
行き交う人々が大名行列かのように、あっちこっちへ進行していく。
その中に、俺はいる。
俺の名前は、村田千尋。17歳。
都立素條学園に通う高校2年生だ。誕生日は8月25日。
以上。
無難な自己紹介としてはこれぐらいでいいだろう。
さて、正月も空けて、すっかりお休みモードから解放されたわけだが……。
学校が始まってからすでに2週間ほど経ったが、未だに俺は正月気分だ。
俺は何より勉強が嫌いだ。
運動神経もないし勉強もできない。
夢もなければ未来も求めてない。
一体、社会はこんな無能を求めているのか。
普通に考えりゃ、ないだろうな。
人間ってのは何かしらの意味をもって生きている。
平社員であろうが、組織の一番下でも社会に貢献すれば立派な人間だ。
俺はあともう少しで3年生になるわけだが、正直就職か進学も全く決まってない。
多分このままいけばニートと言う名の道筋が待ってるんだろうな。
しかし、そんな人間を必要とする者たちもいる。
そう彼らは俺みたいな人材を求めて人知れず動いている。
その彼らが今ここに……。
「貴様、ちょっと来い」
「はい?」
登校途中で若干急いでいるというのに、唐突に全身黒衣装の女性は俺の背後からやってきた。
そして、彼女は俺の手をつかみ人気のない路地裏へ早々と連れ込んだ。
「あ、あの……な、なんでしょうか?」
狭い路地裏に連れ込まれ、黒衣装の女性は俺を壁に追い詰めて、さらに手を付いて逃げられなくなるようにしている。これが噂の壁ドンというヤツか。
「貴様、名は何と言う」
冷静的な彼女の口から発せられた言葉。
正直惚れてしまいそうだが、彼女の顔がかなり恐い。
サングラスをつけてるが、その奥から本気で睨むような瞳が見えた。
「え、えっと……、山本信吾です」
誰だよ。俺はとっさに嘘をついてしまった。
そもそもこういう個人情報に俺は敏感なんだ。そう簡単に人に教えるか。
「嘘をつくな!」
威勢ある声に、情けない声を出し俺はすばやく
「村田千尋です!」
答えた。
何でおれが嘘をついたのを知っているんだ。俺の眼の動きとかで察知したんだろうか。すごい観察力だ。
「よし、今から君を誘拐する」
はぃ?
見事なアホ声だ。なんのこっちゃかさっぱりだ。