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Hey Guys  作者: 鷹雪
2/2

後篇

「マジかよ、俺。生きてるのか……」


 頭と、足腰の鈍い痛みに顔をしかめながらそうもらす。

 まったく、運がいいというか。自分のしぶとさと言うかたくましさに感心してしまう。


 フォークでつきさした肉を口に運ぼうとした時、店内に悲鳴が上がると銃弾の雨が背後から突然襲ってきたのだ。

 で、ニコは行動した。他の奴等のように悲鳴をあげてハチの巣にされたくなかったから。

 彼は、カウンター席に”座ったまま”の状態でポンと体を浮かせると、思った以上に勢いよくカウンターを飛び越え、さらにキッチンの中にまで転がっていくことができた。そのおかげで、こうしてあちこちひどく床に叩きつけられてしまい、顔をしかめるどころか息もできない始末だったが、自分と同じく椅子に座ったまま銃撃の嵐にさらされ続けた連中に比べてみれば、十分運が良かったと言っていいだろう。


 それにしても、誰が、それも何を考えてこんな店を客ごと銃で穴だらけにしてやろうと考えたのかは知らない。

 痛みに呻きながら、仰向けに転がった床の上で頭を抱えた数分間の間に彼が考えたことは。弟は無事か?ということと裏切られた?ということ、そしてなんでこんなに最悪の事態になるんだと呪うことだけだった。

 とにかく、数分間の一方的な嵐の音が止むと、店内は静まり返る。

(終わりか?違うな、俺達が狙いなら。店に入ってきて確かめる、それかな……)

 その店内も静かだったのは一瞬だけで、終わったとわかったせいかあちこちから男女の区別がつかないが、弱々しいかすれたうめき声が聞こえてくる。同時に、ニコの鼻には焦げた肉とムンと立ちこめる血の匂いを探り当ててしまい顔をしかめる。


 とりあえず、体に新しい風穴が開いていないことを手早く確認すると。

 ニコはさっそく反撃の準備を始めた。

 愛用のスミス&ウェッソン社製、鈍い銀の光を放つ回転式拳銃のM29。ダーティ・ハリーで一躍有名になったそれを腹の上にまずは置く。ずしりとした重さだ、心が落ち着く。

 次に、サブのグロックを取り出す。リボルバーと違い、この自動拳銃は半分の重さしかない。ニコは、どちらかというと重い銃の方が好みだ。反撃の時を今は待ち、その時が来たら思い知らせてやるからな。自然、乾いた唇を舐め、暗い怒りの炎をたぎらせる。


 そんな彼の腕を、突然掴む他人の腕があった。

 いきなりのことに驚いて、思わずその腕の主を見る。

 ニコは武器の確認に忙しくてまったく気がついていなかったが、どうやらウェイトレスの1人が息も絶え絶えに彼の所まで這ってきたらしい。

 彼女の体には何か所も銃創が見られ、のばした右腕と違い、左のひじから先は吹き飛ばされていた。そんな彼女は真っ青に血の気を失っているのに、口からは血をダラダラと溢れさせている。どうも胃液が混じっているのだろうか、その口臭はやけに鼻についた。


 一瞬、そんな彼女の様子に驚きはしたものの。すぐにニコは気を取り直すと女の腕を冷たく振り払った。あいにくとテレビであるように優しく最期をいたわってやる趣味は持ち合わせていない。

(よし、まずは裏口だ。そこから表に出るぞ)

 方針を固めて勢いよくほふく前進を開始して、その場から移動する。

 道のりは難しくなかった。下顎から上を綺麗にフッ飛ばされた料理人の体の上をまたぐように通り、順調に目的地へ着くと裏口のドアの取っ手に手をのばす。


ガタン!


 え、まさか?!


ガタン! ガタン!!


 取っ手を掴んでも押しても、ドアはびくともしなかった。つまり、そういうことなのだ。

(やられたよ。いや当然、か。何をやったか出口を塞いだんだ。クソ、こうなったら正面から出ていくしかない)

 可愛い弟のロブはたぶん、死んだ。不意打ちだったのだ。それに、あの感じだとかなりの数がいる。その中を、自分はただ1人。ハリウッドムービーのヒーローよろしく切り抜けなければならない。


「うんざりするぜ、まったく……」


 思わず小さいが声を漏らす。

 そして、ふと気がついた。

 あの女だ。

 美人だったのがあちこちが酷いことになってしまったあのウェイトレス。なぜかこっちへ。ニコにむかってまだ這いよろうと、ゆっくりとこちらにむかって前進を続けている。裏口を開けるのを断念した所は見ていたはずだから、つまりやっぱりニコを目指して進んできているのだろう。

 何がしたいんだ、あの女?最期をみとってほしい?1人では死にたくない?だが、どれもしっくりとこない。

 あんな姿になって、一度は手ひどく振り払われたのに。なお、こっちを目指してくるあの女はなんだ?何考えてる?

 さっきと同様、真っ青な顔だ。なくなった肘もそうだが、口からもまだ血が溢れている。そして……そこからのぞく真っ赤な血に濡れた歯が妙に気になった。


 まさか、まさかとは思うが。

 あの女の執念っていうのは、この俺を食いたいとでも思っているってことなのか?!



▼▼▼▼▼



 銃弾の嵐が過ぎ去ったあと、トムが生きて、さらに体に穴をたっぷり作らないで済んだことはまさに奇跡であったと言っていいだろう。

 それでも、何発かは身体の近くを飛んでいき、さらに数発、彼の体をひっかくようにして肉をそぎ落とし、引き裂こうとして傷口を作っていた。そのせいで耳や、首元、左腕などから出血していたが。それだけで済んだ。

 だが、店内はひどい状況であった。

 なにがひどいって、倒れているウェイトレスに重なるようにして寝ている奴等はまだいい。だが、自分のように男共に……ぶくぶく太ったブタや、なまっちろい小僧、脂ぎった爺なんかにかこまれ、押しつぶされて身動きが取れなくなっているなんて最悪だった。

 むせかえる血の匂いに吐き気を覚えるなか、店の入り口からゆっくりと中をうかがいながら入ってこようとしている連中がいることにも気がついた。どうやら、誰かを狙ってわざわざ中に入って止めを刺しに来たらしい。

(大丈夫か?このまま死んだふりで誤魔化せないとやばいかも)

 だが、トムはそんな先のことを心配をする必要はなかった。

 重なる男共の体の間から顔をのぞかせていたトムの前に、いきなり女が。ウェイトレスがババンと顔をあらわしたのだ。


「べ、ベティ?無事だったのか、大丈夫かい?」


 いきなりだったので、ちょっとちびりかけたのは内緒だ。だが、彼女は焦点定まらない目をしたまま、真っ青に血の気の失せた顔で口を半開きにしてトムを正面から見つめたまま黙っている。

 それだけだ。それだけなのに、なぜかトムは目の前のベティの口の中にチラチラと見え隠れする歯が……白くて健康的な歯が凄く気になった。




 殺しの素人どもは、ゆっくりとそれぞれが武器を構えて店内へと入ってきた。

 自分達がしでかした現場に入って、思わず吐き気を覚える。むせかえるような血の生臭さに「オエッ」「ウプッ」ともどしそうになるのを堪えるのがやっとだ。

 あのヤクザの老人が、年の割に若く見える杉下が容赦なく役立たずと断じた仲間を射殺したことで、彼等はようやく自分達がクレイジーなヤクザの、本物のヒットマン達のおもちゃにされていることを理解しはじめていた。

 彼等はいってみれば子供だった。

 金を稼ぎたい、銃を振りまわしたい、尊敬されたい、いい女を抱きたい。それが全てだった。

 普通の組織で名をあげるには、やはりそれなりにコネもいるし、競争相手も多い。その上、頭が良くてうまい事やれる奴がいると自分達のようなものはなかなか上には行けなかった。


 だから、山野に「ヒットマンになりたいか?」と聞かれて彼等はすぐにうなづいた。

 彼等の欲求の全てを満たしているのがそれだったからだ。そして、彼等は杉下という凶悪なヤクザのせいで、すでに彼等はここから戻る場所はなくなっている。


「うぐ、クソッ。たまんねぇな、この匂い」

「おい、おいっ。どうする?」

「顔を確認しないとダメだ。顔を…オォェェッ……すまねぇ、死体をどかせて捜すしかないだろう」


 床やテーブル、椅子の下に積み重なっている死体を確認してまわる。もう、それだけで正直お腹いっぱいと言っていいが、そうもいっていられない。彼等は、銃口の先でつつくようにして顔の確認作業をしていく。



▼▼▼▼▼



 黒人と白人の若者2人が、机やいすの上に倒れている奴らを中心に顔を覗き込んでいく。

 ターゲットの顔写真は確かにTVでは見たが、死んだ人の顔だとよくはわからないと感じてしまう。床に転がっているのは、後から来ているのが見てくれるだろう。


くちゃ ぴちゃ


 それが小さなうめき声や、苦痛から体をよじらせる音とは違うのはすぐにわかった。


くちゃ ぴちゃ


 それはなぜか……女の秘所をしゃぶりあげる音かと思った。


 くちゃ ぴちゃ


 だが、その音を聞いている彼等の顔は緊張にひきつって緩んだ笑顔はない。息はハアハアと荒くはくも、心臓は早鐘となって心拍数が上昇するのがわかる。同時にアドレナリンが分泌されているのか、視野がどんどん狭くなっていくのを感じる。



 店内の座席の角の向こう側にそれがあった。

 風穴を開け、なかには四肢を吹き飛ばされ、骨をえぐりだし、内臓すらむき出しにしている。

 そんな死体が、男達の死体の山脈がきずかれていて、そこにウェイトレス達が体を横たえている。彼等は全員が血まみれとなっていて、とにかく女以外は人の形をほとんど完璧にとっていないことが見て取れた。

 だが、あの音はなんであろうか?


「お、おい」

「ああ、マジかよ。神よ、許したまえ」


 クソ教会のクソ神父の話を聞かなくなってもう5年以上たつというのに、彼等は思わず祈らずにはいられなかった。

 それほどに恐怖を感じ、狂気に満ちた光景であった。

 ゆっくりと、かんまんなうごきであったが、女達は男共の体の血肉をむさぼっていたのだ。

 いや、それは正しい表現とは言えない。彼女等は血肉とだけではなく、頭蓋が割れてはみ出てきてしまっている脳を、引きずり出された腸を横において、なお手を体内に入れてまさぐっている。はじけ飛んだ胸の間から心臓を引っ張り出すと、それを綺麗に2つに割って溢れる血をすすりあげながらむしゃぶりついている。

 なぜそんなことになっているのか、まるで現実感の無いひどい有様であった。


「なんだよ、これ?」

「し、知らねぇよ。俺だって、知らねぇ」


 正直言えば、パンツの中は大洪水だったし。正気を保つためにも叫んでしまいたかったが、ワルにあこがれる彼等はそれをするかわりに震えを隠しきれない声をかけあうことにしたようだ。


「これって、これは、こんなこと……」

「俺、知ってる。こういうの、ゾンビっていうんだろ?こいつら、ゾンビなのかな?」


「あら、あたし達はあんな腐ってなんかいないわよ?ひどい、言いがかりね」


 いきなり声を後ろからかけられ、2人は驚いて銃を向ける。



 いい女が立っていた。

 おっぱいは十分な大きさ、肉は多めできっとあれをついたらプルプルと弾力を楽しめるだろう。

 だが、そいつは頭の先から真っ赤な血に染まっていて、それがまた壮絶な美しさへの演出になっている。


「だ、誰だ。お前!」

「ウェイトレスよ」

「う、嘘だ」

「なぜ?この服が証拠じゃない」

「そうじゃない!お前、さっき床に倒れていた。死んでた!息をしていなかったからな。それに、傷はどうした。体に風穴がいくつも開いていたはずだ!」

「………………」


 フウー、フウーっと激しく呼吸を繰り返しながら、2人は女から目を離さない。だが、彼等はそんなことをするべきではなかった。それよりも先に、他の連中にこのおかしな女達のことについて知らせるべきだった。

 女は視線を動かさなかったが、顎を少し下げて両手を胸に置く。大きく呼吸すると、胸が強調され妖艶さが増した。


「そんなに緊張しないで。遊んであげる。こうみても”あたし達”経験してるのよ」


 熱い吐息を吐きだしながらそう宣言すると、次の瞬間女の体は宙にあった。

 同時に2人の構えたライフルが火を吹き、うわああああと声をあげる。

 女の頬肉がはじけ飛び、左肩に当たっても勢いは変わりはしなかった。白人の方に喉元に飛びつき爪を両肩にめり込ませ、グロテスクになった顔の半分を首元へとおしつける。男の体から飛び散る血と悲鳴が上がり、次の瞬間その身体はみるみるうちに引き裂かれて破壊されていく。


 それをボーゼンと見ているしかなかった黒人だった。だが、その後ろからそれまで奇怪なオブジェと化した死肉の山を堪能していた女達がむさぼるのをやめて立ち上がると、彼を目指してゆっくりと歩きだしていた。



▼▼▼▼▼


「おせーなー」

「杉下さん……」

「なーにやってんだよ、あいつら」

「……」

「こりゃ、誰も連れて帰れなくなるかなぁ」

「それ、どういう意味ですか?」

「ん?山野、そりゃお前。あのなんとかいう兄弟が生きているってことさ。

 こんなに時間がかかるってことは、死んでないか。あいつらがノソノソやっているかのどっちってことだろ?生きてりゃ、あれだ。すぐに中で大騒ぎになるはずだぞ」

(それが楽しくてしょうがないっていいたいのか!?)

 だが、山野がその怒りを口にする前に。店の中から複数の悲鳴が上がると、銃声が鳴り響く。どうなっているのかはわからないが、なにやらパニックをおこしているようであった。




 ニコは、最初。そんなおかしなはずはないと思い、裏口から身を隠したまま移動することであの変な女のことは忘れようと思っていた。

 店の中では、外から入ってきたと思わしき複数の存在を確認している。

 そいつらを、いかに労少なく全員を地獄に送るかが問題であって、チャンスを逃すわけにはいかなかった。

 だが、調理場をぐるりと一周して移動したところで待機していた彼の元に、あの女がまだ諦めないまま這いずってきたことでキレそうになる。

 薄気味悪かった、それになによりウザイと思った。殺してやりたいほどに。

 感じていた恐怖はすぐに消し飛び、苛立ちは怒りへとすりかわると、こうして自分がまだ隠れていることが馬鹿らしく思えてくる。興奮して呼吸が荒くなり、身体の奥底がムズムズしてきて脳裏にビジョンが浮かんでくる。

(まず、あのわけわからん女の頭をフッ飛ばす。次に、あいつ等をフッ飛ばす。最後に、俺をこんな目にあわそうとした奴をぶっ殺す!)

 作戦立案は完了、あとは殺すタイミングを決めるだけだ。

 コイツ等を全員ぶっ殺すタイミング………………そりゃ、いつなんだ?


「……もういいよな、ああん?」


 瞳孔が開き切った目を、あともう少しの距離まで近づいている女に向けると。続いてM29を抜いて予定通り、這い寄ってこようとした哀れな女の頭をフッ飛ばす。

 .44マグナム弾が飛びだしていき、女はビクンと大きくのけぞると勢いをつけて床に頭部を叩きつける。


 ぐちゃ


 いやに”いい音だ”、そう思った。

 ひとつ遅れて女の頭部から床へと血が流れ出てくるが、ニコはそれを観察などしていなかった。 そこからは一気にノンストップだ。腰のグロックも引き抜くと、調理場を走り抜けながらカウンターの方へ目指しつつ、撃ち尽くすつもりでトリガーを引きつづけた!



 最初に調理場で銃声がして、素人どもの半分が注意をそちらに向けた。

 つぎに悲鳴と共にパニックを起こして銃を撃ち続ける2人が、なぜか女達に素手で生きたまま引き裂かれて食われているのを見て、凍りつき。最後に、調理場から飛び出してきたニコの前に、無防備な身体をさらしてしまう。


 突如始まった地獄の宴は、まだまだこの程度では盛り上がりに欠けていた。



▼▼▼▼▼



「はじまりましたかね?」

「なんか盛り上がっているなぁ。残っているのは5人、だったよな?」

「そうです、5人。誰が出てきますかね?」

「出てきたのがターゲットの兄弟だけ、ってこともあるかもしれんなぁ」


 外で待っているヤクザ達には、中の様子はわからない。




 裏から飛び出しながら撃ちまくっていたニコは、床に倒れるように転がるとカウンターを背にした。

 ほとんど弾は撃ち尽くしてしまった。装填しなくてはならない。それに…………あの瞬間、自分の目の端に捕えてしまった。見てしまった光景について考えなくちゃならん。


 手早くリボルバーの弾を入れ替えていると、死にぞこなって床を転がって呻いていた若造の1人が、身体を傾けてニコにしぶとくショットガンを向けようとした。


「そいついいな。もらっとくぜ」


 それだけ言うと、グロックに残った2発を頭にプレゼントしてやる。 そして、そいつが抱えていたショットガンを自分の体の方へと引き寄せると、今度はグロックのマガジンを抜いた。


「まったく、ファックなこった。なにもかもがファックだ」


 ボヤキが止まらない。撃たれたが自分の体に風穴は作られなかったし、襲ってきた馬鹿2人はやった。そして、見たものが本当だと仮定すると。さらに2人はこの店のウェイトレス達においしそうに”食べられていた”ようだ。

 いや、はっきりとは断言はできない。断言はできないが、人形を引き裂くように、勢いよく人の体を素手でビリビリに破いていた、と認識している。


「マジかよ、ここって地獄のナントカってことか?ファックだ」


 そう漏らすニコの肩に、再び何者かの手がおかれた。




「ロブ?!生きていたのかっ」


 緊張したのは一瞬で、ニコの顔がパァッと明るくなる。

 その言葉通り、カウンターにもたれるようにして崩れていた死体の奥から出てきたのは弟のロブだった。てっきり死んだと思ったが、こいつも案外しぶといようだ。さすが俺の弟だ。


「兄貴?……頭が痛いんだよ、どうなってる?」

「ああ、安心しろ。見てやる……うん、心配ない。弾がかすったんだろう、血が出てる。でも脳味噌は、はみ出てない。他はどうだ?……左腕、上腕に2発もらってる。痛むか?」

「撃たれてる?痛いか?なにいってる、痛いに決まってる……いま、なんていった?」

「?」

「撃たれたって言った?俺、撃たれたの?誰が撃った?どのスカタンだ!?」

「おいおい、落ち着けって。その通り撃たれたよ。誰かは知らん、それにまずは銃だ……ほら、ここに丁度ライフルもある。お前、使うか?」

「ライフルだ?馬鹿か、この馬鹿兄貴!俺は、俺は腕を怪我しているんだぞ?!」

「そうだな。で、ライフルはいらないのか?」

「糞ッ、信じられねぇ。この冷血漢。昔からクソ野郎だった」


 まだ視線が怪しいが、どうやら本当に大丈夫そうだった。そうなると、今度は自分達のちょっと”悩ましい”状況について説明して、理解して貰わなくてはならない。


「なぁ、ロブ。聞いてくれ、大事なことなんだ」

「ああっ?!そうさ、あの時だってあんたは俺を使って酷いことをした!あの店のおやじをおれにまかせて、自分だけチョコバーを5本食ったんだ。5本だぞ!?俺には1本、それにあのオヤジに危うくしゃぶらされかけたんだ」

「昔話とは懐かしいな。それも救ってやったろ?とにかく聞けよ」

「俺は一本だった!」

「いいから聞けよ。俺達は撃たれた、わかるな?」

「なにがさ!わかってるよ、撃った奴がそこら辺に居るんだろ?」

「ノ―だ。少し違う、そいつらもいる。だが、それいがいもいる」

「なんだよ、それ」


「ええ、わたしもその話しには興味があるわ」


 漫才のような緊張感の無い会話に突然、女の声が割って入った。

 2人が隣を振り向くと、そこにはいつの間にかあの紫のワンピースを着た女が、最初の銃弾を頭に食らって机に叩きつけられ、床に倒れていたはずのあの女がいた。

 やけに青白い顔のまま、傷一つない綺麗な顔には極上の笑みを浮かべている。そして半開きの口、厚みのある唇の向こうから覗く白い歯が、やはり兄弟には気になった。


 チャキッ


 ニコはなんら躊躇することなく銃口を素早く女に向けると、問答無用で引金を引く。

 轟音と共に、再び女は銃弾を頭に受けて床の上へと投げ出された。


「ファック!!」

「ああ、ファックしてやったぜ。馬鹿野郎」

「違う!兄貴、彼女は俺の今夜のファックの相手だ!」

「……うるさいんだよ、このファック弟が!いいから、いくぞっ」


 そう言うと2人は体を入れ替える。

 ロブは撃たれた左腕を曲げて力こぶを見せるような形にすると、そこにライフルのマズル部分を置くようにして構える。ニコはショットガンのポンプを引いて戻した。


 エイジンガ―兄弟は立ち上がると、銃声がロックな音をがなりだした。



▼▼▼▼▼



 うぎゃあああああああああああ


 凄い声と共に、店の窓を突き破って飛び出してくるものがあった。

 杉下と山野はそれをみて、体に緊張が走ったものの、慌てたりはしなかった。いついかなる態勢からも対応できると思っていた。

 だが、こんな状況は想定していなかった。

 中に入っていった5人の中の1人。メキシコ人のそいつは、あろうことか血まみれになった”ウェイトレス”に襲いかかられ、押し倒され、馬乗りになってもまだ叫び続けている。それは英語とスペイン語の混ざった「助けて」であった。


 ヤクザ達はあまりの光景に硬直するしかなかった。


 使えない馬鹿共だとはわかっていた。でも、それだからって。

 まさか店のウェイトレスに反撃されて泣き叫びながら飛び出してくるとは……しかも、見苦しく助けを求めるその姿は見れたものではない。


「山野、やめろ。なにもするんじゃねぇ」


 バンパーに腰をかけたまま、あきらかに不機嫌になった杉下の声で、山野は自分の銃をとうろとした手を止めた。

 あの人の言いたい事はわかる。無差別に不意打ちを加えて、任務完了だったはずだったのだ。

 情けない、情けなさすぎる。

 山野にしても色々と思うところが無いわけではない。

 紹介を受け、その上で自分の目で見て選んだ連中なのだ。全員とはいかないまでも、1人くらいはものになるだろう。そう考えていたのに。

 銃を挟んで悲鳴をあげてもみ合っているこのバカは別にして。店の中からまだ聞こえる銃声から、どうやら他の4人は死んでいるのかもしれない。それとも、撃ち合っているのだろうか?

 とにかく、もうなんだか全てが嫌になってしまいそうだった。



 ヤクザ達がようやくのことこの場所でおこっている異変を察知するのは、この後のことである。


 割れた窓からもう1人、ウェイトレスが飛び出してきたのだ。

 東洋人の女、わるくない。いい女だ。ただし、鼻息は荒く、獣のような咆哮をあげ、ガニ股だった。それが杉下を確認すると、彼めがけて一直線に走りだしたのである!


 山野と杉下の行動は早かった。

 すぐさま銃を抜き放つと、冷静にトリガーを引く。


 パン パパン パン パパパパん パパン


 女の体に風穴が立て続けにできていき、肩が膝が揺れ、頭をのけ反らせる。だが、最初のダッシュに比べればいくぶんかは速度は落ちていたものの、杉下に向かう彼女を止めることはできなかった。

 ヤクザとしての習性なのだろう、それがわかると山野は思わず、杉下の前に立って、女の行く手を遮ろうとした。


 突撃してくる女に、もう銃を使う距離ではなくなっていた。

 だから山野はかわりに握り拳を作ると、それを女の顔に叩きこもうとする。いつもなら、ジャブを左で入れた後でするのだが、片手に銃を持っている今はそうもいかない。なので、いきなり左のストレートを放った。

 だが、延びた腕の先に女はいなかった。

 変わりに山野の体が半回転すると、女が後ろから噛みついてきた!

(なんだよ、こいつ!?)

 首元に噛みついただけではない。肩に置かれた左手が、脇腹に置かれた右手が、凄い力で山野の皮膚をいとも簡単に裂いて身体の中に指が侵入してくる。

 凄い力で組みつかれ、体を引き裂かれる痛みでもがく山野を杉下は眉を一つも動かさずに見ていたが、おもむろに車から降りるとトボトボと自分の方を向いて助けを求めないまま女に食われている山野に近づき声をかける。


「山野、痛そうだな」

「……」

「山野、悪いんだけどよ。俺、このまま調子のって撃ってたら、弾なくなっちまうよ。ほら、バッグ。あいつ等の車に積んだままだしな。だからさ、お前の銃。貸してくんねーかな?」

(他に言うことはないのかよ、このクソ野郎!!)

 心の中ではそう思ったが、ヤクザの習性は変えられなかった。罵声をあげることなく、山野は無言のまま、手の中に握られていた自分の愛銃を唯一自由に動かせる手首の力だけで杉下に向けて放り投げる。


 バン ババン


 飛んできた銃をキャッチしそこないそうになり、腹で抱えるように受け取った杉下は、素早く銃のグリップを握ると山野に取りついている女に発砲する。特に狙いをつけたわけでもないのに弾丸は女の眉間を撃ち抜いていた。

 女は倒れ、同時に山野も崩れ落ちる。


「山野-、ありがとな。助かったよ」


 飄々と礼を述べる杉下だったが、倒れたままの山野は、もう返事をしなかった。

 2度と返事をすることはないだろう。



 ▼▼▼▼▼



 「死んだか、山野」


 自分を守って死んだ若者に対して、この男はまったく感情をあらわさなかった。

 すでに撃ち尽くしてしまった彼の愛銃を見ると、ぽいとその亡骸の上に放り投げる。

(そうだ。さっき取り上げたライフルがあったよな)

 杉下は思い出すと、山野が置いたと思った場所にいってみる。

 あった、FALとかいう古い銃。それを手に取ると、そこでようやく思い出した。そうだ、女にのしかかられて悲鳴をあげていたっけ。

 まさか、ウェイトレスがあんなに化物だとは思わなかったから呆れてしまったが。山野がこんなに簡単にヤられてしまうとなると、ちょっと考えなおしてやってもいいだろう。


 だが、杉下が見たのは。青空の下、馬乗りになった血まみれの女に抵抗することなく。自分の腹の中のものを引きずり出されては食われている、そんな哀れなメキシコ男の姿だった。


「すげーな。ナマいけるのかよ」


 なんの感動もなくそれだけ言うと、杉下はおもむろにライフルで狙いを定める。

 一定のリズムを刻み、発射された弾は、マガジンの中に残った20発すべてが撃ち尽くされるまで続いた。

 男の上で、うまそうにその内臓を食していた女は、腕がもげ、耳が吹き飛ばされ、指が粉々になり、腹にも大きな穴をあけ続け、最終的には首から上がなくなってようやく倒れることが許された。


 仇打ちが終わり、いよいよ杉下は仕事にかからねばならないと思った。

 ライフルを地面に置くとズボンに挟んでいた銃を引き抜く。

 コルトM1911、杉下が長らく愛用している銃だ。

 こいつにはさらに色々と手を加えている。部品のクオリティにだけこだわり、スコープをつけ、反動を抑えるためのマズルブレーキと多弾装に力を入れた。

 今日、この銃で20人目の命を奪うことになる。


 マガジンを入れ替えると、未だにワ―キャー騒がしくしているカフェ・プッシーキャットにむけて歩きだす。

 山野の横を抜け、車の間を行き、死んだメキシコ人の若造の横も通り過ぎた。


 が、ここで杉下の足が止まる。


 見下ろすと、自分の腹から先程山野に返したはずの銃が、なぜか杉下の腹の中からゆっくりと血に染まって顔をのぞかせ、ゆっくりと地面に落ちていくのが見えた。なんで俺の腹の中から、置いてきたあいつの銃がこぼれ落ちるんだ?

 振り向くと、確かに頭を撃ち抜いたと思ったあの東洋人のウェイトレスが立っている。どうやら、背中を見せていた杉下に向けて山野の銃を投げつけたようだ。それがまさか、杉下の腹をブチ抜く結果になるとは思わなかったが。

(下手うったなー。この俺が仕損じるなんてなぁ。無精しないで、自分の銃で済ましておくんだったわ)

 力強い銃声が2回響く。そして、女は倒れた。

 杉下は重たくなっていく腕を下ろすと、ゆっくりと地面に膝をついた。




 ニコは床に転がり、勢いを利用して血でヌメッている床の上を滑りながらM29の3発をブッ放す。

 ようやく止まったところで、素早くシリンダーを……そこで、カウンターに飛び乗ったウェイトレス女がダイブして襲ってきた!

 とっさに、頭の上で間抜けな面をさらして絶命していた男の襟首をつかむと、自分の股間にまで引きずり下ろさんと引っぱった。

 間一髪、女の腕がニコに覆いかぶさる男の体を貫いて、つきだした手は彼の体を求めてまさぐりはじめる。


「くそっ、まったくいい女だぜ。お前等よオッ!!」


 女好きでもない男の、心の奥底からの真実の言葉だ。

 同時に、男の体をコントロールしている左手の指を器用に使って袖から一発の弾を取り出すと、リボルバーの中に押し込んだ。


「うわああああああああ」


 邪魔な死体にいらついたのだろうか、怒りの金切り声をあげると、男の体を貫いた腕がまさぐるのをやめ。凄い力で振り抜くと、死体はカウンターの向こうへと放り出された。

 その瞬間を、ニコは待っていた。

 体を思いっきり縮め、力一杯両足を仁王立ちする女の体を叩きつけて蹴りあげる。

 いくら力が強い化物とは言え、その身体は女の体重のそれである。ニコの蹴りをもろに受けた女は当然のように宙を舞った。


「ガッチャ!!」


 こういう時は決めの台詞は忘れない。ニコの美学だ。

 時が止まり、世界の全てがスローモーションになったようにゆっくりと動いていく。愛するマグナムは火を吹き、そこから放たれた鉛の弾丸は、驚愕の表情を浮かべる食人女の胸へと一直線に突進した。


 女の胸、心臓のあたりに赤い花が咲き鈍い音とともに大きな穴が穿たれた。


 そこから世界は速さを取り戻し、ニコは立ち上がる。クソビッチが、思い知ったか!



「へーイ、兄貴。凄いじゃないか、今の。ハリウッドムービーのラストシーンみたいだったぜ」

「ウルセーよ、死ぬかと思った」

「でも死んでない……いや、待て。それどころか傷一つないじゃねーか!俺ばっかり、不公平だぞ!!」


 兄のグロックをカウンターに叩きつけ、感想を口にしたロブだったがすぐに面倒なことを口にしはじめた。

 わずか1時間にも満たない間に、美女のウェイトレスで名高いプッシーキャットは、人の死肉をぶちまける悪趣味なブッチャ―達の宴のあと、といっていい具合となり果てていた。

 人間、だいたいが客の男。俺達以外、生存者ナシ。

 女、だいたいが化物。生存者……たぶん、きっと、そうだと思うけど。ナシ。

 そして……。


「ああ、そうだった」

「なんだい、兄貴?」

「すっかり忘れてたよ。大事なことを」





 自分の体の中から、命が大地に流れ落ちていくのを杉下は感じていた。

 そんな、膝をついたまま力なく肩を落として動けないでいた彼の前に、誰かが立つのを感じた。すこし大変ではあったが、目を開けて顔をあげてみる。


「よぉ、ヤクザ。お元気?」


 太陽を背に、スーツ姿のエイジンガ―兄弟が自分を見下ろしていた。


「お前以外は、みんな死んだみたいだな。ヤクザ」


 ロブはそういうと、外で死んでいる3人の方を見る。


「………………」

「それでな、お前達。いい車に乗ってきたみたいじゃねーか。俺達のはちょっと穴だらけでダサイんだよ。貰ってもいいよな?」

「鍵、どこだよ。ヤクザ」

「…………うるせーな、好きにしろよ。山野が鍵、もってるよ」

「ヤマノ?ヤマノってなんだ?」

「ふむ、兄貴。あっちの死んでるヤクザじゃねーか?あれっぽい」

「そうか、まぁしらべてみるさ。他にもたくさんあるしな。よりどりみどりだ」

「……………………」

「と、いうことは。残るは最後のエンドマークというわけだ」


 ニコはリボルバーを、ロブは自動拳銃をとりだし、銃口を杉下のこめかみにつきつけた。


「さぁ、最期の言葉は何にする?」

「アディオ―ス、ヤクーザー」


 杉下はフンと、鼻を鳴らす。

 どちらも同じ犯罪者、どちらも同じ殺人者。そして、顔を合わせればどちらかが片方を殺していた。

 この悪夢をくぐり抜けた先で戻った現実の中で、お互いが交わす言葉はなかった。片や日本語で、片やスペイン語で言いたい事を口にしている。

 それは結局、そういう最後しかないということなのだろう。


「お前らな、ひでぇ匂いだ。臭くて地獄に行けねーよ」


 2度の銃声の後。

 杉下の世界は、彼の後方2メートル79センチにバラバラになりながら吹っ飛んでいった。




 エイジンガ―兄弟はヤクザの死体を漁り、貰うモノをもらうと、自分達の車にあった金をヤクザの乗ってきた車へと乗せ換えた。

 次に、外に転がっている死体をわざわざ2人して店内へと運んでいく。

 この頃になると余裕も生まれて、お互いに笑って冗談など言い合ってみせたりもしていた。


(お、あったあった)

 そして、ニコは改めて店内を探して回り目当てのものを見つけ、笑顔を浮かべた。そいつを回収してから体を起こすと、ロブの声が聞こえてきた。


「兄貴、カウンターの金はとったから先に出てるぜ」

「わかった、こっちも準備したらいくー」


 兄弟にとっては散々な店だったという感想しかない。

 なにより、この後。どうやって自分達は逃げたらいいのかという問題は依然として残っているのだ。


「トッド、馬鹿をしたな。地の果てのあばら家に隠れても、見つけだしてじっくりと話を聞いてやるからな」


 未来に行われるであろう復讐劇に向け、壮絶な笑みを浮かべながらニコは調理場のガスタンクのバルブを緩めた。

 シューッという音と共に、ムァッと床から匂い立つ死臭にガスの匂いが混ざるのがわかる。

 「ほい、ほい、ほいっ」などと口にしつつ、ニコは床に積まれた死体の間を抜けて外に出た。



 凄まじいエンジン音の合唱がそこに待ち構えていた。

 バイカーの集団である。そろいもそろってハーレーに跨り、無駄に音高くエンジン音をさせながら駐車場へと入ってこようとしている。


「兄貴どうする……?」

「ロブ、お前はエンジンかけてろ。俺が相手をする」


 ニコがそう言うと弟は素早くその場を離れる。ニコはその間にさっきまで他人のものだった煙草を一本取り出すと、これまた先程まで他人のものだったライターで火をつける。


「おい、兄ちゃん!?」


 20台ほどの群れの尖塔にいる奴に声をかけられ、それを聞いて初めてお前達の存在に気がつきましたよ、というふりをしてニコは顔をあげた。煙を吐く、心休まるひと時だ。


「なにがあった?!」

「なにがあったって?そりゃ、あんた見ればわかるだろうよ。砂漠の中のオアシス、男共を燃え上がらせる女達、それがあるプッシーキャットは……」


 そこで言葉を止めると、ニッコリと満面の笑みを浮かべて見せる。


「なくなっちまった」

「なんだと!?」


 次の瞬間、ニコは店内で見つけた信号弾をダイナーの中めがけて撃ちこんでみせた。

 光弾は、スゥと流れるように店の中へ、調理場の中へと飛び込んでいく。


 爆発音が荒野に響きわたり、内側から破裂するように店は吹っ飛んだ。


 わずかな爆風とガラスの粉がとんでくる。バイクの男達は、いきなりのことで驚いているのだろう。誰も動こうとはしない。

 ニコはもうどうでもいいということらしく、煙草の煙をたのしみながら弟の待つ車べと歩き出していた。


「おい、兄ちゃん!。おいっ、おいっって言ってるだろ。兄ちゃん!!」

「なんだよ?!」

「……どういうことなんだ。説明してくれ」

「説明?説明しろって、そりゃお前……後ろを見てみろよ。それが全てだ。店は無くなった。吹っ飛んじまったからな!」


 なぜかこの受け答えがやたらツボに入ってしまったようで、ニコは少しばかりわざとらしく嫌らしい言い方をしてみせると、弟に『かましてやったぜ』のハンドサインを送る。

 車の運転席で待っていた弟のロブはそれをみて苦笑を浮かべていたが、なぜかその目が驚愕のものへと変わると、焦った声で「兄貴!」とだけ叫んだ。


 なんだ?


 弟が何を見て驚いているのかがわからず。つい、もう2度と振り向くまいと思っていた店の方へと頭を向ける。

 そこには、あのバイカーの男達が無言でいた。

 パチパチと強くなっていく火につつまれている店をバックに、男達の目だけが真っ赤にらんらんと輝いているのがわかる。

 そして彼等は、一様に間抜けにも口をあけて…………いや、待て。なぜ、皆口を開けている?


 なぜか嫌な予感がして、ニコはバイカー達の顔をじっくりと見てしまった。

 いかついガタイで、いかにもな服装をした頭もひげもボウボウの男達。その彼等のあいた口から覗く白い歯が、これほど遠目であるのにもかかわらず。くっきりと見えていた。


「あぁクソ。こりゃまたなんてファックなんだ」


 ロブが重いっきりアクセルを踏みこみ、ニコは愛用の回転式拳銃を腰から抜き放つ。

 エイジンガ―兄弟の不幸にまだ終わりはないようだ。

最後までお付き合い、ありがとうございます。

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