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東方心操録  作者: ハヤテ
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第八話 宝の持ち腐れ



「ん~、世界は広いですね~。良いですね~楽しいですね~。こんな事ならもっと早く旅に出ておくべきでした」


「……駄目。……この時期で十分」


 思い立ったが吉日。誰が考えた言葉か知りませんけどいい言葉ですよね。私の座右の銘としましょうか。

 という訳で現在、山を出て適当な方向に飛行しております。まあ、近頃物騒でしたから丁度いいですね。私、戦いなんて別段興味ありませんから。最悪の場合の最後の手段が戦闘です。それ以外は……そうですね、脳みそクルクルパーにしたりとかですかね?


「……良かったの?」


「何がです?」


「……山」


「あー、良いんですよ。拘りなんてありませんし。私は酒虫ちゃんと白亜が居ればいいんです」


「……そう」


 因みに、それぞれの飛び方ですが、白亜は自分の能力を利用して岩の上に寝転がりながらの移動。私は瓢箪の酒虫ちゃんに飛べるか聞いてみたら快く了承してくれましたので、それに任せています。なんか、逆さにした瓢箪の口からブワーッと炎の様なものが出てます。何これ?


「……で、何処に行く?」


「さぁ、どうしましょう。ぶっちゃけ全く考えてません」


 山を出たのは良いんですが、それ以降の事はなーんにも考えてないんですよね。

 なるようになれ、と言ったところでしょうか。


「あ、そういえば、白亜の方は良かったのですか?」


「……何が?」


「たぶん、あの山ってその内人間に襲撃を受けていましたよね? なら、人間に両親を殺された白亜は敵討ちとかしたいのではと思いまして」


 無理やりにでも連れていくと言った私が言える事ではありませんけど。


「……いい。……両親は私に『生きろ』と言った。なら、私は態々死にに行くような事はしない」


 暗に「親不孝者だった私に出来る唯一の事」と言っているのでしょう。いや、実際に白亜はそう思っている。そして私は、これ以上とやかく言ってはいけない。

 だから。


「そうですか」


 そう返すしか無かった。






「おぉっ、これが海というやつですか」


「……初めて見た」


 白亜とのあの会話の後、特に話す事も無くなったので無言でひたすらに進んでみたら、目の前に巨大な水溜りを発見しました。

 水溜りというにはあまりにも大きいそれは、私が大昔、文献で読んで知った【海】というものだと気付きました。本で読んだだけではピンとこなかったのですが成程、これは馬鹿みたいに大きいですね。


「海の水は塩辛いみたいですよ? 試しに飲んでみます?」


 私はお酒を呑みますけど。

 あ、そういえば海からは塩がとれましたね。やってみましょう。

 えーっと、濾して煮て塩になったところを干すんでしたっけ? ですが、濾せるような道具が無いんですよね。紙か金網があればいんですけど……うーん。


「……何か?」


「いや、何か使える物が無いかなと。……あ、服とか使えそうですね」


 そう言うと白亜は自分の胸を隠す様に腕で覆い、キッと私の方を睨みつけてきました。


「……変態?」


「何でですか。別に白亜のを使うとは言ってないでしょう。早とちりですよ」


 まあ、衛生面ではどうか怪しいですけど私の服で代用しましょうか。生まれた頃から着ていた服ですが、何故か汚れないんですよね。血飛沫を浴びても次の日には綺麗に無くなっていますし。今まで気にして無かったのですがよく考えてみると私自身摩訶不思議な存在ですよね。能力だって二つあるっぽいんですが、その片方は謎なままですし。旅しながらその辺りを解明していくのも良いかもしれませんね。


「まあ、服は私のを使いますよ。私は数日ここに留まって塩を作りますが、白亜はどうします? 期限までどこに散歩にでも行っています?」


「……いい。ここにいる」


 どうやら白亜は此処にいるそうです。ま、居てくれた方が私としても暇しなくていいんですけどね。白亜との会話は楽しいですし。



~少年塩製作中~



―――ドパァァアアン!!


 何やらものすごい音がしたので作業を中断して顔を上げてみると、白亜が居る辺りから

それはそれはとても大きい水柱が上がっていました。何これ、異常事態?


「白亜、一体何やっているんですか? まさかいきなり水柱が上がるという不思議体験でもしました?」

「……違う、ただ水切りして遊んでただけ」


 水切り? 水切りってアレですか、石投げて何回跳ねるかを競う遊びでしたっけ。あれってこんな水柱が出来上がる様なものでしたか?


「……こう、手刀で水を真っ二つに」

「違う、違ってないけど違いますよ、白亜さん」

「……?」


 分かってなさそうな白亜。確かにそれでも水切りと言えば水切りですけど、なんか納得いきませんね。


「……ココロもやる?」

「え、やだめんどくさい」

「やれ」


 なんか強制らしい。まあ、塩作りも一段落付いてますし、ちょっとぐらいやっても良いですか。

 とはいえ、私は必要以上に戦ったりしないので結果は目に見えているんですけどね。そんな事を言えば白亜だって今まで戦いは避けてきたようですが、やはり鬼同士の子は強いのか立派な水柱が高々と打ち上げられ、綺麗な虹を作っております。


「で、やるのはいいのですが如何様にして?」

「……簡単、手刀を水面に叩き付けるだけ」


 手刀をねぇ……。濡れるのは嫌ですけど、ま、減るものではありませんしやってみましょうか。


「えっと、叩き付けるだけで良いんですよね?」

「……そう、おもいっきり」


 では、やってみましょうか。


「どっせい」






「いやー、大量ですね」


 海面を叩き付けて数日後の事。塩を大量に作り終え、それを新たに作った木製瓢箪に入れました。木製瓢箪は三つ作ったのですが、それ全てに塩が入っているので結構な量だと思います。大きさは拳四つ分ぐらい。

 さて、大量と言ったのは塩だけではないのです。実は、あの海面を叩き付けた時にとんでもない物まで高々と打ち上げられましてね。うん。


どでかい魚です。


 私の身長と同じくらいの瓢箪とか、もはや笑い物というぐらいでかい魚です。

 まあ、分かりますよ。なんで浅瀬を思いっきり叩き付けただけでそんなでかい魚が打ち上げられるものかという疑問は分かります。実際、私と白亜も驚きましたしね。

 いや、だって誰も想像付かないと思いますよ? しでかした私自身一番驚いてますし。


まさかただの手刀で地形を変えてしまうなど夢にも思わないです。


 そもそも私はそんなに力がないと思ってたんですよ。ほら、白亜の話に聞く鬼とは似ても似つかない訳ですし。それなのに力だけはそれはもう申し分ないくらいあるってどういう事ですか。あの白亜でさえ口をあんぐりと開けて驚いていたんですよ。


 と、これが数日前までの話。今では「ココロ(私)だから仕方がない」という事で済ませました。私自身、どうやって生まれたかは理解しているのでその『仕方ない』で済ませられるのですが、白亜がそんな事を言ってくるとは予想外です。まあ、深いことを考えずに軽く流そうという至高の下だという事は分かりました。確かに、この件に関しては深く考えない方が良いかもしれません。


「……その魚、どうする?」

「あー、どうしましょう。干物にして旅の道中に食べるというのもありますが……白亜に質問です」

「……?」

「今この場で美味しく調理するか、後々美味しく頂くかどっちが良いですか?」

「……両方」


 そう言うだろうと思ってましたよ。まあ、でかい魚ですからそれが可能なんですよね。だから質問した訳ですが、もし小さい魚だったら質問なんかせずに有無を言わさず干物にしていました。


 はい、という訳で調理タイムです。魚が傷んでいるとか腐っているとかは気にしなくていいのです。私達、妖怪ですので。体は丈夫です。とある論文に『妖怪は豆腐精神』と言われていますけど、体は丈夫です。

 では、まず手始めにそこら辺の木を圧し折って火が付きやすい様に組み立てます。次に度数を最高に上げたお酒を口に含み、噴出する事によって火を木に付けます。燃え上がります。いい感じに火が燃えるまでに打ち上げた巨大魚を白亜に作ってもらった岩の巨大包丁で半分に切ります。切り裂くというより、ぶった切るという感じです。お世辞にもその切り口は綺麗ではありません。半分に切った魚の片方に塩を適量ぶっかけていきます。瓢箪の中の塩が半分減りました。衝撃を受けました。塩をまぶした魚の口に木を圧し折った時点で予め用意してあった木を突き刺し、丸焼きにします。もう片方は食べれる部分だけを捌いて適当に干しておきます。本当は魚一匹丸々干すのが一番なのですが、この魚はでかいので丸々干したら持ち運びに困るのでいた仕方なく捌いて干すのです。そうこうしている間に魚を一回ひっくり返します。魚を返す回数は一回で十分なのです。


「……美味しく調理と言っていたけど、やっている事はいつもと変わらない」

「知っていますか? 特別な事をせずに普段通りが一番美味しいのですよ?」


 独自の工夫をするのも良いのですが、やはり無難にやれば普通に美味しいのです。特にこの巨大魚は獲ってから時間が結構経過しているので、所謂新鮮さというものがありません。下手な事するよりそのまま焼いた方が良いのです。


「まあ、お酒も付けますからそれで勘弁して下さい」

「……一番良いお酒をお願いする」


 そういうのは私ではなく酒虫ちゃんに言ってほしいものです。お酒に関して私は全く何もしていないのですから。いやぁ、酒虫ちゃんマジ神様。もう私は酒虫ちゃんなしでは生きていけません。


「……流石、美味しい」

「当たり前です。なにせ、酒虫ちゃんの特製ですよ? ねぇ?」

『キュッ』


 瓢箪の中からそんな可愛らしい声が聞こえてきました。もし酒虫ちゃんが人型に化けて出てきたら私は正気を保っていられる自信がありません。即襲っちゃいそうです。


「……この魚、どうやって食べるの?」

「……食べ歩き?」


 焼いた方の魚を均等に半分に分け、白亜に渡します。


「じゃあ、ちょっとこの辺りを散策してきます。白亜はどうします?」

「……付いてく」


 散策と言っても、特に何かする訳ではなくこの辺りをただ歩くだけなんですけどね。こう、珍しい物とか興味を引く様な物が無いか探してみるのです。例えば……


「ミャーン」


 怪我して動けなくなった生物とか。







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