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東方心操録  作者: ハヤテ
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第七話 聞いて極楽見て地獄




 私は、鬼と鬼との間に生まれた純正の鬼。だから、周りからは強くて、勇敢で、豪快であるように望まれて育てられた。

 だが、今の私を見ての様に、私は周りの期待に応えられるようにはならなかった。


必要最低限は戦わない。必要最低限喋らない。感情は表に出さない。


 そんな私の周りには、次第に妖怪がいなくなっていった。当然だ。唯でさえ珍しい鬼と鬼どうしの子供なのに、皆の期待を全て裏切るような成長を遂げたのだから。

 実力が無かった訳じゃない。むしろ、他の鬼よりかは強かった筈だ。だが、積極的に戦わない。例え戦って勝ったとしても表情が一つも変わらず、大して喜びもしない。

 ある鬼にこんな事を言われた。


「白木白亜は鬼としては出来損ない」


 それを聞いた私の親はその鬼を半殺しにした。でも、例え半殺しにしても私がそれを聞いてしまった事に変わりがない。

 自覚はあった。私は他の鬼とは違うという事。戦う事は好きではないし、感情を豊かではない。お酒は好きだが。

 けど、やはり直接言われるのは予想以上に辛かった。私を見る目が、全て異端を見るように見ているのではと思うようになった。

 両親は、「そんなの気にしなくて良い。お前は俺たちの子だ」と言ってくれたが、私の心境ではそんな両親でももしかしたら……と思ってしまっていた。最近知った言葉で言うと、疑心暗鬼というものだろう。兎に角、周りが信用できなくなっていた。

 そんな私は、いつの日にからか、自分の住み家から一歩も外に出なくなった。外は、嫌だ。いつも異端を見るような目で見られているような気がして気がおかしくなりそうだった。だから私は、一歩も外に出なくなった。唯、住み家の中でずっと俯いて生活していた。こんな時は食事を摂らなくてもいい妖怪の体で良かったと思う。


 そして、そんな日々を過ごしていた時に、人間が攻撃してきた。


 突然だった。いつもと同じように、住み家に閉じこもり、俯いていた私の耳に届いたのは、断末魔。一人や二人ではない、もっと大勢の断末魔が一斉に鼓膜を揺すぶった。

 いくら閉じこもっていた私も、こんな時に閉じこもるほど馬鹿じゃない。すぐさま部屋を出て、周りの状況を把握した。


 血の海。


 実際に海など見たことないが、まさにそんな言葉が当てはまる状況だった。地面を見れば、苦悶の表情を浮かべながら絶命している鬼が、木には、飛んで逃げようとしたのか、天狗の死体が、そして、周りにはもはやただの肉片と化した原形を留めていない死体が辺り一面に倒れていた。

 私は直ぐに逃げた。この状況を見て、とても一人で敵う相手ではないと思ったから。自らの能力を盾にしながら、私はがむしゃらに逃げた。

 だが、徐々に傷を負って追い詰められていった。

 私は逃げている時、木の根に足をとられて転んでしまった。


『ああ、こんなものか』と、私は思った。呆気ない生だったと。生まれて、周りから期待外れと言われ、異端として見られ、自らは疑心暗鬼に陥り己の両親まで拒絶した。碌な生き方をしていないな……そんな事を思いながら、私は諦めていた。

 

だけど、



 こんなどうしようもない私を助けてくれたのは、



 拒絶した筈の、



 私の両親だった。


「逃げろ。そして、生きろ、白亜」


「私達の分まで、ね?」






「……両親に逃がしてもらえた私は、今に至る。……これが、ココロに会う前の私」


 唐突に自らの過去の事を話し始めた白亜。決して饒舌ではありませんが、それでも自分の事を知ってもらおうという感情が能力を使わずとも感じ取れたので、私は口を挟むことなく聞いていました。


「……私は、付いていっても良いの?」


 この話を踏まえた上で本当に白亜を連れて行って良いのかどうか決めろという事でしょうか? だとしたら、私にはよく分からない質問ですね。


「え、別に良いですよ?」


「……そんなにあっさり決めて良いの?」


「ええ。いや、ぶっちゃけますけど、私、別に白亜の過去とかに興味ないんですけど」


「……え?」


「私の中ではですね、白木白亜というのは鬼無心の名付け親であり、鬼無心の初めての親友なんですよ。過去、白亜がどんな妖怪であろうと、私にはその事実だけで十分です」


 おそらく、白亜はこう言いたかったのでしょう。「両親を見捨てて逃げた私は本当に付いていって良いのか」と。

 過去の白亜がどんなであろうと、私にとってそれは所詮過去でしか無い。


「白亜の過去とかどうでもいい。私は、白亜自身が好きなんです」


「……ッ」


 ……あれ、今の言い方、聞き様によっては告白の様に聞こえませんか?


「つまり、白亜の過去がどうあれ、私は白亜と一緒に旅がしたいという事です。それでもまだ迷っているというのなら、もう強引に連れて行っちゃいますよ?」


 よし、これで誤解を招かずに済んだ筈です。


「……そういう、誤解を招く様な事を言うな」


 あ、はい。すみません。


「で、どうするんですか? 行く行かないに関わらず強制的に連行しますけど」


「……強引」


「いいえ、私の能力は知っていますよね? 白亜が少しでも私と一緒に行きたいと思っている限り、私は強引に白亜を連れて行きますよ」


「……そう」


 ここで会話は終わりました。白亜は何やら考え込んでいるようです。いや、それはさっきからですね。

 とりあえず、出発はいつにしましょう? 明日…で良いですね。何も問題ありません。

 直ぐに今後の予定も決まったことですし、今日はもう寝ましょうか。


「……ココロ」


「ん? 何か?」


「……ありがと」


「? まあ、どういたしまして?」







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