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東方心操録  作者: ハヤテ
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第六話 知らぬが仏

この主人公には当てはまりそうもない言葉ですね。




「……白木白亜の傷が完治しました」


「イヤッホオー……」






「あれって言う必要ありました?」


「……言わなくてはならない脅迫観念に襲われた、何故か」


 意味が分かりませんが、とりあえず白亜の傷が完治したのは確かです。それはもう、今までの鬱憤を晴らすかの如くあっちに行っては動物を『キュッ』としたり、そっちに行っては動物を『キュッキュッ』としたりしています。白亜曰く、今まで碌に手伝えなかった分頑張りたい、だそうです。泣けてくる話ですね。

 そういう訳で、現在、私と白亜は狩りの真っ最中。先ほどの言葉は白亜が『キュッ』としながら、私が『ギュッ』としながら言った物になります。恐ろしいほどに棒読みになりましたがね。


「まあ、それは良いとして、ありがとうございます。お蔭で今日も夕飯が食べれそうです」


 私の二倍はあろうかという動物の首根っこを掴んで引き摺りつつ、普段生活をしている拠点へと戻る。白亜は私の言葉に一瞬呆けたような表情になりましたが、またいつもの無表情に戻り、どういたしまして、と返して来ました。


 余談ですが、私の料理は特に衛生面に拘っておりません。妖怪ですから。






「今日はどうします? 焼きます? 煮てみます? それとも・・・生?」


「……少なくとも、ココロの【りょうり】とやらを食べてから生で食べようとは思わない」


 褒めれれているのでしょうか? 褒められているのでしょうね。そういう事にしておきます。というか、貶されてたら私の数年か数十年か数えてないので分かりませんが、そのぐらい過ごした年数が無駄になる。


「じゃあ…焼きますか」


 生憎、もう風化寸前の料理本に書いてある様な味付けはまだ出来ない。胡椒ってなんですか、塩ってなんですかという感じなのだから、出来る筈もない。精々、サッパリする葉っぱと一緒に食べたり、山菜と一緒に食べたり、新鮮で温かい血をぶっかける程度しか出来ません。

 まあ、肉なんて焼くだけで中々の味が出るので別に良いんですけどね。山菜は別ですけど。

 ……あ、肉と盛り合わせれば良いんじゃね?


「なんてこと……」


「……どうしたの?」


「たった今、私は自分で自分の数年か数十年か分からない月日を無駄にしました」


 何故今の今までその発想に辿り着かなかった私の脳みそは一体どれだけ阿呆なのでしょう? 白痴と言われても過言ではありませんよ。

 アレか? 意欲か? 私一人なら「まあ、飢えなければいいや」と肉を焼いていましたが、今は白亜がいて、それにより私の料理に対しての意欲が増してそれで思いついたとでも言うのですか? いや、それは無い。私は自分の興味が向いた物にならいくらでも情熱を傾けられるのです。白亜がいたからとか、それは関係ない筈。


「つまり……本当に私は阿呆だった、という事でしょうか」


「……?」


 何気にその可能性が一番高いですね。ハァ……そうか、私は阿呆だったのか。


「……ココロは阿呆ではないと思う」


「え?」


 軽い絶望に襲われていた私に一筋の光明が差しました。白亜です。


「……ただ、少しぬけているだけ」


 まさかの上げてから落とすという惨い仕打ちを受けました。私の心に差した光明は消え失せ、再び暗雲が立ち込めます。


「……それよりも、飯を」


 あー、そうですね。白亜にとって見れば私が阿呆かどうかだなんて別段どうでもいい事でしたね。少なくとも目の前の肉よりも優先順位が低いのは間違いないでしょう。…クスン。


「はいはい、今やりますよー。…今日は石焼きにでもしてみましょうか?」


 熱々に熱した石の上に肉を置くという感じです。味は……変わるんですかね? まあ、油の量は変わりますね。普通にブッ刺して丸焼きにすると、どうしても焦げる部分か生焼け部分が出ますし。まあ、白亜は焦げた部分は兎も角として、生焼けは美味しいと言っていましたが。あ、私はしっかり焼いた方が好きですよ?


「……生焼け択一」


 それほどまでに生焼けが好きですかこの白い娘は。アレですよ、生焼けでは体力があまり回復しないんですよ? こんがり焼いた方が良いに決まっているというのに。


「……妖怪はそんなの気にしない。味が良ければいい」


「ま、確かにそうですね」


 確か人間には料理人と呼ばれる様な人がいて、なんらかの誇りを持っていたような気がしますが、生憎、私にそんな物は無いのです。私が料理を学んだのは私自身の為であって、決して誰かの為ではない。なので、例え私がこうした方が良いと思った事が否定されようと、本人がそっちの方が美味しいというのならそれでいいのです。


「じゃあ、早速焼きますか。ああ、生焼けの具合は言わなくても良いですよ。分かってます」


「……その能力、とても便利。……会話要らず」


「それだと……いや、何でもありません」


 それだと私が寂しいと言おうとしたのですが、少なくとも数十年は一人でいた私がそんなこと言っても説得力の欠片も無いので止めておきました。実際、会話要らずなのは本当ですしね。

 私の能力は【心を操る程度の能力】。操るという事は当然、読む事も出来るのは周知の事実ですが、実はこの能力、相手に自分が何を考えているのか、というのも伝える事が出来るのです。実に会話要らず。唯私がいるだけで会話というものが必要なくなるのです。


「……でも、私が困るから会話はする」


「そうですか」


 何が困るのか分かりませんが、白亜がそういうのなら何か困る事情でもあるのでしょう。声の出し方を忘れるとか。…よく考えてみると、私って長年声を出さずに生活してきましたけど、ぶっつけ本番で声出せましたね。個人差でもあるのでしょうか?


「あ、生焼け出来ました」


「……御苦労」


 血と脂が滴り良い感じに焼けました。それを木の枝で作った串に刺して渡します。


「はいどうぞ」


「……ん。……ところで、ココロはこれが何の肉なのか知ってる?」


「え? いや全く。何なのでしょうね、この肉」


 いやー、実は今回の獲物、今までの動物と少し違ったのですよね。基本の形は『熊』と呼ばれている動物と変わらないのですが、腕に棘があったり、頭に角があったりしていたのですよ。まあ、姿形が変わっていないので普通に狩って食べてしまいましたけど。


「……ココロ、こういう『妖怪』を見たのは初めて?」


「妖怪? え、これ妖怪なんですか?」


 妖怪って人の形をとっていないものもいるのですね。初めて知りました。…この場合って共食いになるのですかね? いや、確かに大きい括りではそうなるのでしょうけど、私は【鬼】で今現在焼かれている肉片と化したこの妖怪は明らかに鬼ではないでしょう。つまり、共食いではない。


「……この妖怪は【鬼熊】と言われている。……至って凶暴で得物を見つけたらなりふり構わず襲ってくる。……が、鬼(私達)の敵ではない。……腕の一振りで終わる」


 確かにそうですね。『キュッ』として終わりました。力も大した事ありませんし。んー、これは私達が出鱈目なのか、はたまた鬼熊とやらが弱過ぎなのか。


「……まさか鬼熊を食べることになるとは思わなかった」


「初めてなんですか? 私は、あのように他の動物と少し形が違うやつは稀に食べますけど……」


「……私が食べていたのは自分で獲った動物か人間。……私に共食いの気は無い」


 どうやら私は共食いをしていたようです。だからどうしたと言う事なのですけどね。別に共食いだろうと私は生きていければそれでいいのです。……あ、そういえば。


「話が変わりますが、私にはこの世に生まれ落ちてからの目標みたいなものがあるのです」


「……生きる事?」


「それは第一目標」


 それに、生きる事というのはあらゆる生物の第一目標でしょう。私だけの目標ではありません。


「この世界を巡り歩いて、第二目標を探す事。それが私の今の目標です」


 第二目標を決めるのが今の目標。なんだか本末転倒な話ですよね。目標を決めるのが目標。うん、滑稽な話ですね。


「……馬鹿みたい」


「あ、やっぱりそう思います? 私も薄らそう思っているんですよ」


「……でも、良いと思う」


 そう言ってこちらに穏やかな笑顔を向ける白亜。普段無表情な彼女がこうして表情を変える事はとても珍しいので少し驚きました。ですが、悪い事ではない。私もはにかむ様にして笑いました。


「……ココロらしい」


「それ、褒めてます?」


 と、聞いてみたのですが、白亜は肉を黙々と食べ始めました。食事中に喋らないのは私と白亜の暗黙の了解。

 まあ、褒めれらていようとそうじゃなかろうと大して問題がある訳でもないので追及はしません。

 さて、私も食べましょうか。良い具合に焼けました。






「ご馳走様でした」


「……ご馳走様」


 うん、綺麗に食べられましたね。お蔭さまで【鬼熊】は見事に骨になりました。と言っても、流石に全て食べた訳ではなく、残った肉は干しましたけど。


「……それで」


「うん?」


「ココロは、どうするの?」


 いきなりの白亜の問いに少し面喰ってしまった。今この質問をするという事は、おそらくさっきの私のお話の事でしょうが……どうって一体どういう事でしょう?


「どう…とは?」


「……目標を探すと言った。……ココロは、これからどうするの?」


 ああ、これからの事ですか。

 うーん、そうですね。そういえば、生まれ落ちた時に世界を巡り歩くのも良いかもと言った割に状況に流されて何百年も山篭りしてますしね。いい加減行動に移しても良い頃合いでしょう。


「そうですね……そういえば、この辺りって最近物騒な事になっているんですよね? なら、そろそろこの山を出て旅してみるのも良いかもしれませんね」


 第一目標である生きる事、その生きる術は手に入れました。何より酒虫ちゃんがいる事が大きい。私は酒虫ちゃんがいれば千年は戦えます。というか、酒虫ちゃんマジ可愛いです。最近は私の言葉が少しだけ分かってきたのか会話も出来るようになってきました(酒虫ちゃんの言いたい事は分かるので会話成立です)。もしこれで酒虫ちゃんが人の形を取ろうものなら私は一日中抱き付き、頭を撫でていられる自身があります。いえ、もう一日中と言わずに二日でも三日でもオールナイトフィーバーですよ!!


 ……オールナイトフィーバーってなんでしょう? なんかこう、頭に浮かびあがったのでつい言ってしまいましたが。


「……どうしたの?」


「ハッ、いえ、大丈夫です。ちょっと酒虫ちゃんへの愛が爆発しただけです」


「……それなら問題ない。……私も偶にある」


 ほほう、白亜とはいつまでも美味しい酒が呑めそうですね。無論、酒虫ちゃんが出したお酒ですが。


「……話が逸れた。……ココロは、旅に出るの?」


「そうですね。出ようと思ってます」


 まだ見た事がない物がこの世界には溢れている筈ですから。


「……そう」


 何やら白亜がそわそわし始めましたよ。そわそわと言っても顔は相変わらず無表情ですが。白亜のそわそわというのは、手の指を小さくツンツンさせる事を言います。少し俯きながらこちらを窺いつつ指をツンツンさせる白亜。……なんか、無性に頭を撫でたくなってくるんですけど。


「……白亜はどうするのですか?」


「……私、私は」


 そんな衝動を理性で抑えつつ白亜にこれからの事を聞いてみると、どうするか考え込んでしまった。いや、これは考えていると言うより……何か待っている感情でしょうか? ……ふむ。


「一応聞いてみますが……私と一緒に行きますか?」


 白亜の感情を読み取った上での質問。

 一緒に行きたいが、何かしらの不安があり、迷っている。それが今の白亜の感情。

 私には理解し難い感情。いや、私だからこそ、理解し難い。

 私が特殊なのかもしれないが、私は今まで自分の行動に迷った事など無い。アレがしたいなら勝手にやる。これが私である。即断即決とでも言おうか。考えた事はある。どうやればこれが作れるのか、とか。だが、迷った事がない。だから、私には白亜が何故迷っているのか分からなかった。迷う『理由』は分かる筈もない。妖怪それぞれにあるだろう。が、私が分からないのはその迷うという事自体。

 だから、私は何故迷っているのか白亜に聞く他出来る事がない。


「何を……迷っているのです?」


「……私が、付いていって良いの?」


「私が誘ったのですから、そこは気にしなくても良いですよ。……何か、負い目があるのですか?」


「……聞いてくれる? 私の話」


 勿論、話を聞くのは得意です。





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