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東方心操録  作者: ハヤテ
2/22

第二話 彼を知り己を知れば百戦殆うからず

この場合、自分とその身の回りのこと、という感じになりますね。





 生きていくのは存外大変だった。

 それが山で何日か過ごした結論。


「食欲が湧かない・・・」


 それが理由。

 腹が減れば当然何かを胃に収める必要が出てくるのですが・・・どうもその時に食べる物が駄目らしい。

 食べる物がいけないのではなく、何と言うか、適切な食べ方をしていないような気がするのです。


「生、ですからね・・・」


 噛み切り難いし、喉に通る時もどうも引っかかるし、何より臭みが半端ではない。不味くはない、ただし好きこのんで食べたいとも思わない、そんな感じ。


「かと言って、木の実というのも・・・」


 正直、腹が膨れない。味は良いし、食べやすいのだが、腹が膨れないのです。


「これは・・・うん、もうあれですね」


 何日か過ごしただけですが、この山は既に私の庭です。体力が矢鱈あった事と、空を飛べた事が幸いして、この山の内部は勿論、周辺の事まである程度は調べがついています。

 その周辺を調べていた時に、とてつもなく大きい・・・何と言うか、白い何か? それに所々透明な何かが付けられているのですが、よく分かりませんね。

 とりあえず、その様な妙な所があった。妙なものがあるという事はそこに誰かいるという事。誰かいるという事は当然食べる物がある。そして、恐らく大きさからして集団で暮らしているであろうそこに食べ物があるという事は、適切な処置をして食べ物を食している可能性が高い、と思いついたのです。


 もうあれです。行くしかない。行って、そこで学んでくるしか無い。適切な処置というものを。






 という訳で、その目的の場所に着いたのですが、どうやら様子がおかしい。様子というか、姿形がおかしい。


 何故、角が生えていない?


 一人二人が角無しならまだ分かります。そういうものなのだと。しかし、私の目に映る全ての生物には私と同じような角が存在しないのです。


(もしかして、私がおかしいのか?)


 前にも言いましたが、生まれた理由も自分が出来る事を理解していても、常識がある訳ではありません。その事は自分でもしっかり認識できます。認識できているだけで、意味はないんですけど。


 ですが、困った。てっきり私は生きとし生ける者全てとは言わずとも、ある程度の存在には角がある者と思っていたので、これは思わぬ誤算です。


(見つかったら不味そうな感じですね)


 なら見つからなければ良い、と、早々に結論付け、私は能力を行使し、この妙な集団の住むところに忍び込みました。






 人に見つからない事は容易く、私は堂々と一番大きな道を歩いていました。時々、この集団の人と目が合ったり、顔を見られたりしますが、だからどうしたという事もなく、普通に通り過ぎて行ってくれます。


 まるで、そこに居るのが普通であるかのように。


 まあ、私の能力な訳ですけど。


 大きな道を進んでいくと、他のに比べてかなり大きい住み家がありました。どの住み家の食べ物を見ようか悩みましたが、あそこにしましょう。大きいですし。


 住み家の入口らしきところに壁がありました。縦に真っ直ぐ罅が入っているので頑張れば開きそうなのですが、押しても押しても全く開く気配がありません。試しに引いてみたら、ガチャリと音を立てて今までの努力が無に帰す様に普通に開きました。


「・・・妙なところですね」


 開いたのならそれでいいのですが。


 私は鼻が良く効きます。山の中では食い意地が張っていましたから、目よりも鼻で食べ物を認識するのです。よって、クンクンと食べ物の匂いがする方を探ろうとするのですが・・・。


「・・・む」


 何故か変な匂いしかしてきません。まさか、これが適切な処理をした食べ物の成れの果て? い、いや、それは今まで私が適切な処置をした食べ物を食べた事がないからでしょう。きっとそうです。そうと決まれば、その匂いの方に行かねば。






 匂いはもはや形容しがたくなるほどキツイものになっていました。鼻が曲がるというか、もはや捥げてしまいます。これはもう食べ物から発生する匂いではありません。引き返すなら今なのですが・・・気になりだしたら止まらないのも性分なんですよね。


「うっ・・・」


 なんやかんやで着きましたが・・・匂いが酷い。というか、また壁ですか。


「ふぬぬっ・・・」


 くそ、今度の壁は押しても引いても開かぬとは・・・! もう訳分からないです。何ですかこの場所。


「あなた、此処で何をしているの?」


「何って・・・この先にある適切な処置をした食べ物を見る為に決まっているではありませんか」


「そう? だけどこの先には食べ物なんてないわよ」


 なん・・・だと・・・。


「そ、そんな・・・」


 だとしたら僕は何のためにこんな鼻が捥げるような思いをしてまで此処に・・・!

 ・・・って、あれ?


「・・・誰?」


「それはこっちの台詞よ」






「つまり、山での暮らしに限界を感じて、せめて料理だけでも学ぼうと此処に来た、という事でいいかしら?」


「はい、その『りょうり』とやらを学ぶ為に来たのです。ナマモノは噛み切り難いし、臭いのです」


「・・・妖怪らしくないわね」


 妖怪?


「それ、なんですか?」


「妖怪の事? ・・・本当に何も知らないのね」


 すみませんね。こちとら誰とも関わらずにずっと一人だったもので。


「妖怪とは・・・そうね、分かりやすく言うなら、あなたみたいな者たちの事を指すのよ。人の恐怖によって生まれる妖怪、長年使った道具に自我が芽生え、妖怪になったもの、人の空想によって生み出された妖怪、と、種類は様々いるけどね」


「へぇー、色々いるんですねぇ」


「・・・どうでもよさそうね?」


「会った事もないですからね」


 会った事もないのだから当然興味も湧かない。というかどうでもいい。


「ところで、あなたはどんな妖怪なのかしら? というか、一体どうやって此処まで来たの? 普通、街中で妖怪なんて見たら即惨殺されるのに」


「あ、やっぱり? いや、此処に来る前に街の人の姿形があまりにも私とかけ離れ過ぎていたので能力を使って見つからない様にしたんですよ。まあ、気が緩んでいたせいか、あなたには見つかってしまいましたが」


「(成程、ただの世間知らずな馬鹿ではなく、何も知らない故に馬鹿なだけでそこそこ頭は良いようね)能力? あなた能力持ちだったの?」


「まあ、そうですね。・・・というか、さっきから馬鹿馬鹿と失礼ですね。初対面に向かって言う事ではないでしょう?」


「そうね、ごめんな・・・ちょっと待ちなさい」


「はい?」


 私、なんか変なこと言いましたかね?


「あなた、人の考えている事が分かるの?」


「まあ、そうですね。それが私の能力ですし」


「まさか、【心を読む程度の能力】ってところかしら?」


「いいえ? 違いますよ。私の能力は



【心を操る程度の能力】です」



「・・・何ですって?」


 何やら能力を公開したらものすごく驚いてますね。そんなに驚く様な事でしょうか?


「何驚いているのって顔しているけど、そもそも能力持ちという事自体が珍しい事なのよ?」


「む、そうなんですか。・・・成程、私が能力を持っている事というより、その能力自体に驚いているようですね」


「やっぱり隠し事は出来ないみたいね」


 試されたようです。


「でも、その能力なら納得だわ。どうやって此処まで侵入したのか。心を操るという事はつまり、脳を操るのと同意。脳が操れれば自分の姿を認識させないぐらい簡単な事ね。しかも、脳が操れると言う事は五感まで操れるという事。貴方の能力、間接的に【人を操る程度の能力】と言っても過言じゃないわ」


 話が難しいですね。要するに、心を操ると言う事は人の考えを操ると言う事であって、その考える為の機能は脳に依存しており、脳を操る事も出来る。そして、脳が操れれば五感を操れる事と同意なので、結果人を操る事が出来ると言いたいのでしょう。


 ぶっちゃけ、そこまで大それたことは出来ません。


 ていうか、脳を操れるとかとんでもない能力ですね。私が操るのは心ですよ。


「そこまで大それたことは出来ませんよ。ただ・・・そうですね。幻覚を見せたり多少の気紛れを起こしたりする程度ですよ」


 流石に人の行動にまで干渉できません。そもそも、能力名が【心を操る程度の能力】である以上、それ以外の副産物の効果はそこまで高くないのです。よって、五感ぐらいなら高い効果を望めますが、人の行動を操る云々はそこまで出来ないと言っても良いでしょう。

 というかですね、この能力を持った感想をズバリ言うと、『心は多種多様』だという事です。私が知らない心の有り様もあるのかもしれません。

 まあ、能力名通り能力が使えるのだとしたら、人を操れるかどうかは分かりませんが、廃人にするぐらいはできるかもですね。


「十分脅威よ。少なくとも人間にとっては」


「そうですか。知らぬ間に操られていたらたまったものではありませんよね。食べたい時に物が食べれませんし」


「あなたは食べる事にしか考えがいかないの?」


「少なくとも、その『りょうり』とやらを学ぶまでは」






 しばらくその女性と雑談していたところ、なんか刀を持った薄紫っぽい髪の人が来たので、一応断りを入れてすぐさまこの場から退去しました。幻覚を見せても良いのですが、まだ突発的に出来るほど能力に慣れてません。

 去り際に、あの女性が「ここを真っ直ぐ行って左に曲がった方に本があるから、好きなのを持って行きなさい。あと、しばらくは山で身を隠した方がいいわ」と、伝えてきました。因みの、口頭にではなく心でです。流石に言ってる暇なんてないでしょう。

 しかし、雑談の中に混じっていた妖怪についてですが、どうやら妖怪と彼女達人間は敵対関係にあるらしいのですが、何故僕を助けてくれたのでしょう? 本までくれると言っていますし。その本が何か知らないんですけど。


 言われた通りに来てみれば、何か分厚いのがズラッと並べてありました。これが本なのでしょう。しかし、何が書いてあるかさっぱり分からないので、とりあえず食べ物らしき物が書いてある本と、なんか訳の分からない文字が羅列してある本、それから適当に数冊持って行かさせていただきました。訳の分からない本には・・・えっと、再現すると【あいうえお】と書いてありました。何のことかさっぱりです。


 本を腋に抱え、私は自分の暮らす山に帰ってきました。やっぱり此処が一番落ち着きますね。帰り際に捕まえた角が生えた四足歩行の生物をどう『りょうり』しようか悩ましい限りです。

 そして、さっそく『りょうり』をしようと食べ物がたくさん書かれた本とやらを開き、中身を拝見すると、ある重大な事に気付いてしまいました。

 つまり、


「これ・・・、なんて書いてあるのでしょう?」


 字が、読めん。







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