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矢野未可子の顔は黒く塗りつぶすしかない

江間弘海は顔を曇らせるしかない

作者: さいだー

 矢野未可子のスマホが震えたのは、新年を迎えてすぐのことだった。


 普段は早く眠りにつく未可子だったけれど、大晦日と言うことで、この日ばかりはテレビを見ながらボーッと過ごしていた。


 誰もいない広いリビングで50型のテレビがお笑い番組を映し出している


 未可子はテーブルの上に置いてあったスマホを手に取るとすぐに開く。


 送り主は江間弘海だった。



『良かったらでいいんだけど、初詣にでもいかない?』



 弘海から誘ってくるなんて珍しいと未可子は思ったけれど、思わず頬を綻ばせた。


 それは孤独だったせいかもしれないし、暇つぶしになると思ったからかもしれない。

はたまた、弘海に会えるのが嬉しかったのかもしれない。


 なんで微笑んでしまったのかは未可子にもわからなかった。


 でも答えは決まっていた。


『準備するから一時間貰える?』




─────────────────────


 鳥居の亀腹の前に立つ弘海は、一生懸命に両手に息を吹きかけて温めていた。

 服装も普段より厚着で、ダッフルコートを羽織っている。


 この辺りでは珍しく雪が積もっているせいか、いつもより余計に寒く感じさせる。


 未可子はマフラーを持ち上げて、顔の半分を覆うようにしてから弘海の方へ近づいていく。


「ごめん。待たせちゃった?」


 未可子が声をかけると弘海が曖昧な笑みを浮かべ顔を上げる。



「そんなに待ってないよ。ここなら、俺の家から近いしね」



「それならいいんだけど」



「とりあえずさっさと済ましちゃおうよ」


「うん」



 弘海に誘われて鳥居をくぐり境内に入ると、すでに初詣に訪れている人の姿がちらほらと見えた。


 少ないけど、屋台も2軒。

 焼きそばと、甘酒。


 りんご飴を食べたかったなと未可子は嘆息するが、それを見て弘海が苦笑いを浮かべる。


「縁日じゃないんだから」


「……それもそうだね」


 ふらりと屋台のほうへ足が向く未可子だったけれど、弘海に注意をされ、茅の輪のほうへ軌道修正をした。



 歩いていく途中、向こうから歩いてくる家族連れに声を掛けられた。


 「未可子じゃん。あけましておめでとう」


 話しかけてきたのは佐々木さんだった。

 同じクラスで、それなりには話す相手。でも友達かと言われれば首を縦に振ることはできない相手。


「佐々木さん。あけましておめでとうございます。今年もよろしくね」


 未可子がそう返事をすると、佐々木は未可子の首根っこを掴み、屋台の横。人影がない方へ運んでいく。


「ちょ、ちょっとどうしたの?」



「やっぱり二人って付き合ってたんだ!みんなそう噂をしていたし、仲いいよなって思ってたけど、私はお似合いだと思う」


 キラキラとした瞳で佐々木が言うが、それを未可子はすぐに否定する。


「違うよ。たまたまタイミングがあったから一緒に来ただけで、デートをしているわけじゃないから」


「えー……本当に?」


 ニヤリと笑い、完全に未可子を信用していない声色だ。


 未可子はどう答えたもんかと思案するけれど、良い言い訳が思い浮かばない。



「矢野さん。どうかしたの?」



 そんな未可子とさ佐々木の背後を取るようにして声をかけてきたのは弘海だった。


 こういうことに普段は首を突っ込んでくることはない弘海だから、未可子は不思議に思いながら答える。


「あー、弘海くん。ちょうどよかった。なんか、私と弘海くんが付き合っているんじゃないかって問い詰められていたの。弘海くんからも否定してよ」



 弘海が未可子の言葉を聞いた瞬間、目に宿していた光が消えたように見えた。


「……そんなことか。俺と矢野さんはそんな関係じゃないよ。そうだね。俺たちの関係を正しく表すのなら……共犯関係と言ったほうがいいだろうね」


「そ、そうなんだ」


 佐々木と弘海が話しているところを未可子は初めて見たかもしれないことに気がついた。


 むしろ、同級生と話しているのを見たのも先の事件の大野くらいのもの。


 弘海が興味を引かれたこと以外で、こうもはっきりと言い返しているのは初めてのことかもしれない。


 それと同時に共犯という言葉に落胆してしまっていることにも気がついた。



「期待に添えなくて、なんか悪いね」


「べ、別にそんなわけじゃ……」


 佐々木は気まずそうに、未可子たちから距離を取る。


「……あっ、私、お父さんたち待たせてるから、もう行くね」


 そう言うと、佐々木は逃げるように家族の元へ戻っていく。


「佐々木さん。また新学期ね!」


「うん。また」


 未可子はそんなやりとりをみれたことがとても嬉しく思えた。


 なんでそんな風に思ったのかもわからなかった。


 でも振り返って、弘海のことを見た時、なんとも言えない気持ちになった。


 少し悲しいような、嬉しいような。


 どうしてなのか未可子には、わからなかった。


 興味がなさそうな目つきで弘海が口を開く。


「屋台のほうに来てしまったし、せっかくだから初詣のまえに甘酒でも飲んで行こうか」


 それにどう答えたらいいのか分からなくて、未可子は曖昧な笑みを浮かべて頷く。


 すると、弘海は心底嬉しそうに顔を歪ませた。


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