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「日没だ」
彼は窓の外をチラリとだけ見やった。
「やはり逃げたな、あの小僧」
逃げた……のだろうか。もともと私の我儘で連れてきた旅だ。ライリーの命まで奪うことにならなくて、本当に良かった。
ただ………。
小さなベッドを横目で見る。辛そうに息を吐くオルグの子供。
この子を助けてあげられなかったのが、少し残念だ。
「じゃあな、女。お前の肉でも食わせてやれば、少しは回復するだろう」
彼はナイフを私の首に近づける。薄皮が切れて、血が垂れる。
「……治るといいな」
自分でも驚くほど冷たく、そう言い放った。
死を前にして、なおも取り乱さない私の様子に驚いたのか、彼は目を見開いた。でもそれも一瞬で、すぐに冷徹な獣の目に戻ると、ナイフを握りなおした。
───バンッッ。
勢いよく扉が開く。
「師匠………」
倒れこむ青年。服は破れ、土にまみれ、至る所で血がにじんでいる。しかし彼の手には力強く、薬草の束が握られていた。
「ライリーッ!」
思わず駆け寄る。か細い体を抱きしめると、氷のように冷たくて、小刻みに震えているのが分かった。
「……ほう、戻ってきたか。いいだろう、女、薬を作れ」
「ライリーの手当が先だ」
「ふざけるな。今ここで2人とも殺してやろうか」
「薬には繊細な配合が必要だ。私を殺してしまっては、望みはかなえられないぞ」
嘘だ。細かい配合など必要ない。
オルグは自分の子供へチラリと目線を移す。
「はぁ……さっさとその小僧を治せ」
その言葉が言い切られるよりも早く、呪文を唱える。私の力では、傷を塞ぐのが関の山。それでも、一命はとりとめられる。
両手から、金色に輝く光があふれ出る。それをそっと、ライリーの体を包むようにまとわせた。
「それが治癒の魔法か……」
オルグがまじまじと見つめる。
苦しく歪んだライリーの表情が、次第に柔らかくなっていく。そうしてすぐに、青年は眠るように気を失った。




