42ページ目
大層な数の衛兵に連れられて、引きずられるように塔を下る。門のところには、同じように後ろ手で拘束された黒マントの集団がいた。彼らは屋上を見つめ、なにが起こったかを限られた視覚情報で把握しようとしていた。
僕らはその後、高い塀に囲まれた人気のない建物に連れてこられた。小さな扉をくぐり、簡素な部屋をいくつか抜けた先に牢屋があり、師匠と一緒にそこへ押し込まれた。
質素なベッドがあるだけの牢屋で、師匠は僕の行為に怒りながらも、その無事をかみしめていた。
時計もなく、日の光も入らないこの環境では、僕はあっという間に時間感覚を失った。数日とも、数週間とも分からない内に様々な衛兵が僕らを尋問しに訪れた。先の事件のことだけでなく、素性や目的、幼少期の話から現在に至るまで、事細かに詳細を聞かれた。
衛兵は、僕らが虚偽の証言をする気が無いことが分かると、人間に対する忌避のような態度は感じられたが、乱暴に扱うということは無かった。
さらにいくらかの時間が経った後、質のいい軍服を着た上官らしき人物が牢を尋ねた。
「お前らの処遇についてだが、国外追放ということになった」
彼は開口一番そう告げた。
「軽い、って思ったろ。実際、特例中の特例だ。でも連中とは無関係だし、悪意が無いことも分かってる。もちろんそれだけじゃ償いにもなりやしないが……」
彼は牢の鍵を開けながら続ける。
「元々コアは弱っていたんだ。だから俺たち政府だって、いつコアが消滅してもいいように準備してきた。その対応が若干早くなっただけだ。それに爆発のおかげで吹雪も収まって、食料や燃料の輸入も可能になったからな。目下の問題は解決できた」
「セラは、子供たちはどうなったんですか……?」
「全員無事だ。既に保護者が引き取っている。そこも感謝はしておこう。衛兵だけでは救えなかったかもしれない命だ」
牢から出され、通路を通って簡素な部屋に通される。何度か入室した取調室とは違って、ある程度の調度品が揃えられていた。玄関の木扉に嵌められたすりガラスからぼんやりとした明かりが差し込む。きっとその薄い扉の先はもう外であろう。
「国外追放と言っても、すぐに身ぐるみ剥いで追い出すわけじゃない。お前らラディウスとかいう男の家に居候してたんだろう? 彼がお礼を伝えにココまで頻繁に通ってたぞ」
外のことはほとんど聞かされていなかったので、初耳のことだった。
「彼は今どこに?」
「まあ焦るな。追放は彼の家を経由してからでも良いということになってる。そこで会えばいい。ああ、それとコレを」
一冊の本を手渡される。分厚くて革張りの、表紙に何も書かれていない本。受け取った瞬間に、かすかにペンダントが光る。
「検閲も魔力検証も行ったが異状なしだ。お前らのだろ? 返しておこう」
「……異常なし?」
てっきり、もっと重要何かかと思っていた。現に僕のペンダントは反応を示している。もしかして今回もハズレなのか……?
「おーい、アイツも釈放の準備だ。早くしろぉ」
軍服の上官は部屋の奥に向かって叫んだ。その声に反応した衛兵が、扉をガチャリと開けて入ってくる。彼の後ろには、見覚えのある人影が見えた。
「エルヴィア……!?」
「カサンドラ、ライリー!!」
3人で顔を見合わせる。エルヴィアも捕まっていたのか。あの塔を下りた後、鳥の姿は見当たらなかったので、てっきりラディウスの自宅まで戻れたものと……。
「さ、3人そろったな。ラディウス氏の家に寄ってから、みんなまとめて追放ということになってる。正直、あんな魔力暴走をまた起こされたらたまったもんじゃない。得体の知れないニンゲンなんて、早く国から出て行ってくれってのが上の判断だ。さっさと行くぞ」
上官は大きな丸帽子を僕たちにかぶせると、木扉を開けた。暖かな風が舞い込んでくる。つい最近まで感じていた、凍るような冷たさはどこにもない。
一歩、外へ踏み出す。久しぶりに浴びる陽の光がやけにまぶしい。思わず目を細める。大きく息を吸うと、かすかな草の匂いが鼻腔を駆け抜けた。
上官を先頭に石畳を歩く。久しぶりに会ったエルヴィアと話したいことは山ほどあったが、上官にあまり大っぴらに会話をすることを禁じられていた。その代わり僕らは身を寄せ合って、少し歩きにくいと感じるほどの距離感で団子のようになって歩いた。
大通りには多くのマギアンたちがいた。前は見なかったような店が開店していて、あちこちで呼び込みの声が聞こえる。コアが消滅したのだから、街はもっと悲観的になっていると思っていた。実際は、もうその事実を受け止めているのかもしれない。
大通りを過ぎて細道に入り、いくつかの階段を上り下りした所で見覚えのある建物につく。
上官はその中の一室を軽くノックした。
「ラディウスさん? 政府軍の者です。少しお話いいですかね、開けてもらえませんか」
ガチャリ、扉が開く。ラディウスはまず上官に目をやって、次にその背後にいた僕らの顔を発見する。そして、口をあんぐりと開けた。
「……ぶ、無事で……!!」
「久しぶり。この通り、皆元気だよ」
師匠が一歩前に出る。その声に反応したのか、部屋の奥から小さな少女が顔を出した。
「おねえちゃんたち!」
ぴょんぴょんと跳ねるように駆け寄ってきた少女は、エルヴィアの胸にダイブした。
「セラちゃんっ! よかった無事で!!」
「元気だよ! ご飯もいっぱい食べてる!」
セラの右手には小さな人形が握られていた。
「本当になんとお礼をしたらいいか……。さあ、早く部屋に入って」
「ああ……それがねラディウス。僕たちは国外追放の処分になってしまって、すぐに立ち去らないといけないんだ」
「国外追放!? なんで君たちが……?」
すみません、コア消滅が僕の仕業だからです。そう心の中で言って苦笑いする。そんな僕の肩を叩いたのは、上官だった。
「君たちにも感謝される権利くらいあるだろう。少しぐらいなら問題ない。立場上、私も離れるわけにはいかないが……」
それじゃあ、と様々な疑問を飲み込んだ様子のラディウスは上官を含め僕たち全員を部屋に招き入れた。




