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魔界旅行記  作者: ひろたかずや
5章
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40ページ目

 何もない屋上広場のちょうど真ん中に巨大な炎球が浮いている。直でみると目がやられそうなほどに輝き、マグマのような熱さを放っている。


 そのコアを中心としてちょうど三角形の頂点の位置に、手足を縄で縛られた子供が寝かせられていた。短髪の子供が2人、そしてもう1人は……。


「セラ!!」


 反応は無い。よく見ると、子供たちが寝かせられている床には白いキズで魔法陣のような紋様が描かれている。


 ──パヒュン。


 背後からの光弾が帽子の淵に当たり、光もろとも飛んでいく。首を傾けなければ頭が飛んでいた。


「視界の端で捕えたか。貴様、衛兵じゃないな。何者だ?」


 振り返ると、幾度となく見て来た同じ黒マントに身を包んだ男がいた。額から伸びる角は異様に長く、途中で曲がって渦を巻いていて、幼いころ絵本で見た悪魔を想起させる。


 地上の黒マントたちは覚悟の決まりきった目をしていたが、彼は違う。覚悟ではなく、使命。自分がやって当然といわんばかりの使命感が全身にみなぎっている。


 そしてこの落ち着き様。仮にも目の前に侵入者がいるのに身じろぎ一つしていない。初撃でやられなかったのは幸運かもしれない。一人で相手できるような奴でないことは一目見ただけでわかる。衛兵が下を突破するのに賭けるか……?いや、相手の援軍が来るのが先だ。


「セラを取り戻しに来た」


「角がない……。それにその顔立ち。俺らと似通っているが、もしかしてニンゲンか?」


 男は瞳孔の開いた眼で、何も隠すものが無くなった僕の額を凝視した。


「そうだ、人間だ。理由あって魔界を旅していた。そしてこの国で、そこの少女が誘拐される現場を見た。何をするつもりなのか知らないが、セラを返してもらおう」


「侵入者、加えて部外者であるニンゲンに話すことなどない。……いや、部外者だからこそ伝えるべきか……?」


 彼は独りでに迷いを生じさせた。彼のこの落ち着きっぷりは、油断ではない。自分の力に自信を持っている故の証だろう。


 この場からどうやってセラを救出するか。強敵を目の前にした僕は思考をまとめられずにいた。


「まあいい、教えてやろう。このコアはあと数年で完全に消滅する。コアはこの国の起源であり、本来もっと丁重に扱われるべきものだ。それが戦時中の無能共がコアの魔力を使い倒してしまったから、今こうしてそのツケが回ってきている」


 コアの力が弱まっている、それはラディウスから聞いた話と一致することだ。


「そこで我々は、嘆くばかりで何の対策も講じようとしない国に代わってコアを管理することに決めた。まずはコアの出力を復活させるために贄を食わせる」


「……だからといって子供を使うのか」


「別に心が痛まないわけじゃない。だがコアが無くなれば国中が氷河で包まれる。彼らの尊い犠牲で、我々は国を救う」


 彼は淡々と言った。彼の言い分を聞く気などなかったが、その落ち着いた口調はいやに耳に残った。そしてその言い分をまるっきり間違いだとは思えないでいた。


 もしこの場にいるのが師匠だったら、それでも食い下がって国を救う方法を模索しようと持ち掛けたのかもしれない。でも彼の言う通り、僕らは部外者だ。それがこの国のことに口出しをするの自体、正しいか分からない。

 僕に確固たる信念があればこんなことで悩まずにすむだろうに。未熟な心が恨めしい。


「さて、ここまで丁寧に話したんだ。分かったらさっさと消えてくれ。何なら下で衛兵を食い止める手伝いをして欲しいぐらいだ。国を救った英雄になれるぞ。元はと言えばお前らニンゲンとの戦争でこうなってるんだがな」


 彼は嘲笑しながら言った。


 ……難しいことを考えるのはやめだ。僕が心に迷いを生じさせたとき、いつも従ってるものに従えばいい。それは今までもこれからも師匠に変わりない。


「僕は確かに部外者だ。でも見過ごすことはできない。子供たちを、セラの帰りを待ってる人がいる。彼らを悲しませることはできない」


「……そうか。やはり時間の無駄だったな」


 彼はマントの内側から素早く杖を取り出して振ると、黄色の光弾が発射された。何度か見た、手下たちも使っていた魔法。でも彼らのより圧倒的に速い!


 かろうじて避けきると、光弾は空のかなたへと消えていく。


 僕の目的は彼を倒すことではない。セラ、そしてできれば他の子どもたちをここから連れ戻す事。勝てない相手に正面から挑むことはしない。


 素早く後方に飛んで距離を取る。目線は男の杖に固定したまま、セラの元へ駆け寄る。


「無駄なことを……」


 男の杖から、今度は赤色の閃光がほとばしる。閃光は僕の靴ほんの少し先端をかすめて地面に直撃する。爆発と共に床がえぐれる。後ほんの少しを止まるのが遅れていたら、足が消えていただろう。


 再び彼が杖を振ると、今度は青い閃光が走る。雷のように折れ曲がったそれは、僕の右腕に直撃した。熱く、しびれるような電撃が駆け巡る。


 ひるんでいる暇はない。無事な方の腕でさっきえぐれて砕けた小石を掴み取り、ヤツに向かって素早く投げつける。男はまた軽く杖を振って、それを難なく撃墜する。粉々になった石が砂となって霧散する。


 だが男の意識を一瞬だけ小石に向けることに成功する。その隙にセラの元へと近寄る。


 他の子どもは……無理だ! せめてセラだけでも逃がす。塔から飛び降りてでも……!


 彼女を持ち上げようとした瞬間、背中に鉄球がぶつかったような衝撃を受ける。鈍い音が体中に響き渡る。何が起こったか分からぬまま弾き飛ばされて、男の方向へ転がり込む。


 死角からの攻撃……。他の仲間がいた……?いや、こんな上空に仲間を待機させる場所などないはず。光弾が飛んできた方向……!


 そうか……最初に躱した光弾か。上空で待機させて背後から再度打ち込んだんだ。男の杖に全意識を向けていたのがあだとなった。


「あっけない。こんな実力でどうやって下を抜けて来たのか……」


 男は腰のポケットから黒く小さなゴムのようなものを1つ取り出すと、それに向かって息を吹きかけた。黒いゴムはみるみると膨らんで、ついにはあの禍々しい黒人形の姿となった。


「コアの再生、それはすなわち国の再建だ。そんなに首を突っ込みたいなら、お望み通り見せてやろう」


 黒人形は倒れこんだ僕の背後にぬるりと回り込み、羽交い絞めにして拘束した。そのまま塔の淵まで連れていかれる。とてつもない腕力で、僕の腕がミシミシと音を立てる。


 男はついに儀式を開始する。寝ている子供の下に書かれた魔法陣が光を帯び始める。彼が指揮棒のように杖を上下に動かすたびに光は増して、いくつもの魔法陣が花の咲くように産まれていく。


「くそっ……やめろ……!」


 こんな場面をむざむざと見せつけられるのは、何かの罰なのだろうか。僕が一瞬でも、子供たちの犠牲は仕方ないのかも、と思ってしまったことへの罰なのか。


 抜け出せない。手足をばたつかせても、風船を殴っているかのような手ごたえの無い感触しか返ってこない。


 コアが一層輝きを増す。傍の無垢な魂を渇望しているように、激しく炎が躍る。子供たちの胸のあたりからは白煙が上り、コアに吸い込まれるように渦を巻く。


 ──ヒュウ。


 灼熱に包まれたこの空間に、冷たい風が一筋入り込む。バサバサと音を立てながら、男に向かって一羽の大きな白鳥が突進する。


 突然の空からの邪魔者に驚いた男は腕を大きく振り回す。一瞬の攻防の後、鳥は塔の外へと弾き飛ばされ、男が放った追撃の光弾が直撃する。そうしてなすすべなく落下していった。


 ──黒人形の力がわずかに弱まる。


「エルヴィア……!」


 黒人形の腕を力づくで押しのけ、拘束を抜け出し走りだす。


「っ……! もう何をやっても儀式は止まらんぞ!」


 男は僕に杖の先を向けた。


 魔法が放たれるまでのほんの数舜。セラの元までは到底たどり着けない。たどり着けても、抱きかかえて逃げるなんて不可能だ。男にも敵わない。


 何か、この場を打開する策を思いつかなければ……。それも一瞬で儀式を崩壊させることのできる策を。


 この状況、彼の言動、全てを稲妻のように脳内で巡らせる。コア、儀式、子供、白煙。


 一か八か……!


 僕は一目散にコアへと駆け寄り、踊り狂う炎に向かって身を投げた。


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