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「ついに村を出るのね……」
ナイアは目に涙を浮かべながら言った。長老、グラット、ネレウス、他の兵士のみんな、村の入り口には、何人かのトリトニアンが僕らを見送りに来てくれていた。
「みんなには本当にお世話になった。大した恩返しも出来なくて、すまないね」
師匠がお辞儀をしながら言う。
「そんなことないわ! あなたたちが来てから、本当に楽しかったもの。……辛い思いもさせてしまったけど……」
「ナイアが気にすることじゃないさ。私はこの通り元気ハツラツだし、それに……」
師匠は僕に目をやった。
「うん。僕も気にしていないよ。背景があるのは理解できるし、人間を恨む魔族がいるのは至極まっとうなことだ。事実、今まで訪れた国でもいい顔1つされたことないしね」
「そっか……。みんなすごいね。度胸があるっていうか」
「ふふ、そうかな。ナイアの度胸もすごいけどね」
師匠はナイアの胸に軽く手を触れた。
「私も……私もいつかニンゲン界を旅してみたい。あなたたちみたいに……」
「本当!? もしまた会ったら感想を聞かせてくれ」
「それじゃあ、お別れだ。またね、みんな」
師匠がそう言うと、エルヴィアはナイアと抱擁を交わした。
僕たちは大きく手を振った。見送りに来てくれた彼らが見えなくなるまで。
その時だった。
「ラ、ライリー……!!」
村の方から、大きな声で呼び止めてくる者が2人。……忘れるはずもない、ヴォルクとリュオだ。
「お前たち……北へ向かうんだろう。長老から聞いた。北は寒い……だから、コレを……」
彼らは3着の雪蓑を差し出した。麻縄で編まれた蓑の外側に、動物の毛皮が縫われている。そして首元には頭の全部を覆えるようなフードがついてた。
「……取り返しのつかねぇことをしたってのは分かってる。だから、突き返してくれても構わねぇ」
「……いいや。ありがとう。恩に着るよ」
僕は彼らから蓑を受け取ると、その場で羽織って見せた。それは見た目以上に暖かく、寒空の風すらも防いでくれるようだった。
彼らは僕らが見えなくなるまで、ずっと頭を下げたままだった。




