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魔界旅行記  作者: ひろたかずや
4章
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31ページ目

 始めの3日間は救命、そこから先は同時並行で村の復旧活動が行われた。師匠たちが目覚めたのは、その救命活動の初日である。


 丸1日も眠っていた直後だというのに、師匠は自分の治療をそっちのけで住民たちに治癒魔法をかけに行こうとした。しかし体調が万全でない内の魔法は、てんで役に立つものではなかったため、師匠は自分の容態に気を使うことを強要された。エルヴィアも体調は全く優れないようで、起きては眠りを繰り返していた。


 幸い、倉庫に備蓄していた魚が沢山残っているようだったし、漁の設備も無事だったため、住民たちの食料に関しては深刻な問題にはならなかった。住居についても、力のあるトリトニアンの大工が仮住居を次から次へと建築していった。


 丸太を組んだだけの簡素な建物で、本人たちはハリボテ小屋だと言っていたが、ちょっとやそっとのことじゃ崩れそうにないほど頑丈だった。僕と師匠、エルヴィアの3人はナイア、長老と共に一つの仮小屋を割り当ててもらった。




 僕はそれからしばらくの間、彼らの復興作業を手伝っていた。今日は海岸付近の瓦礫撤去作業であった。


「助かったよぉ、ライリー君。なにせ今はどこもかしこも人手が足りなくてねぇ」


 海岸に残った瓦礫を一カ所に集め終わった後、共に作業していたトリトニアンのおばさんが口元に手を当てながら言った。


「構いませんよ。他に手伝うことがあったら、また遠慮なく言ってください」


 実際、僕は治療も建築もできないので、瓦礫を集めるぐらいしかやれることはない。ただそんな僕もこの状況では重宝された。


「あ、そうそう。コレ持って帰る? うちの分は足りてるし、置いてても腐らすだけだから」


 そう言っておばさんは麻袋を手渡した。中には丸々と肥えた2匹の魚が入っている。村には食料の備蓄があるとは言え、それでも貴重であることに変わりはない。僕はそれを受け取り、お礼を言ってから帰路についた。


 波の押し寄せる音が静かに響く。何かの鳥が、カァカァと鳴いている。この村はたった数週間前に、大災害が起こったとは思えないほど、情緒的だった。夕暮れ時になって、それまで休まず仕事をしていたトリトニアンたちも、夕食を取るために帰路につく。彼らはそんな帰る家があることも、幸せなことだと実感していた。


 そんな時、人通りが少ない裏路地に、子供のトリトニアンが小さく丸まっているのを見つけた。近づいてみると、どうやら泣いているようである。静かに鼻水をすすっている。怯えさせないよう、優しく声をかける。


「どうしたんだい。こんな所で……」


「うっ、うっ……道……わがんなぐなっちゃった……」


 幼い彼女は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていた。村の様相がこれだけ変わったのだから、道に迷うのも無理はない。


「案内するよ。見覚えのある建物か道を見つけたら教えてくれ」


 そっと右手を差し伸べると、彼女はそれをむんずと掴んだ。温かな体温が、柔らかな鱗を通して伝わってくる。


 幸いなことに、彼女の自宅はここからそんなに離れていなかった。とある仮小屋の前で、母親と思しきトリトニアンが彼女の帰りを心配そうに待っているのを見つけた。母親は僕たちに気が付くと、一目散に駆け寄って、わが子を抱いた。そうして、何度も僕に頭を下げた。


「……良かったら、コレ、どうぞ」


 僕はさっきおばさんからもらった、魚入りの麻袋を差し出した。彼女の母親があんまりにも痩せこけていたので、あまり満足に食事を取っていないのだと思ったからだ。魚は全ての家庭に平等に割り振られているから、食料が足りないということはないはずだが。


 だから母親が食事を食べられていないのは、別の精神的な要因があるのだろう。


「娘を送っていただいただけでなく……。本当にありがとうございます……」


 母親はそう言って、麻袋を受け取った。ほっと安堵しているような、そんな表情だった。僕もそれ以上深入りするつもりはなかった。


 自分の仮小屋に帰ると、腕に包帯を巻いた師匠が元気よく出迎えた。


「お帰り、ライリー! 見てくれこの料理を。グラットに教えてもらったんだ。彼ほど上手くは作れなかったけどね」


「カサンドラってごいのよ! みるみる上達してって、あっという間に完成させちゃうんだから」


 横から飛び出したナイアが口をはさむ。


「私も、私も結構手伝ったのよ!」


 エルヴィアがナイアの言葉にかぶせる様に言った。


 2人の体調は順調に回復しているようだった。彼女たちの騒ぎ合いを、長老が静かに諫める。


「ほほ、落ち着いて。はよ座りなさんか。みんなそろったことだし、食べようやないけ」


 燭台に火が灯される。


 1つの大皿に盛りつけられた料理を、5人が囲む。団らんと言うのはこういうことを指すのだろう。夜のとばりの下で僕はそう思った。


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