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12ページ目

 ──迷宮内。


 グゴゴゴ──。突然の地響きのような音と共に、地面が揺れる。


 曲がり角から姿を現したのは、広い通路をその巨体で埋め尽くした、大きなゴーレムだった。


「ついにお出ましか。いけるね、ライリー?」


「もちろんです、師匠」


 あの時の対オルグでは不甲斐ない結果を残してしまったが、今度はそうはいかない。僕だって何の戦闘技術も身につけないで、のこのこと魔界にやってきたわけじゃない。


 ゴーレムに向かって勢いよく走り出す。僕を認知したゴーレムはその巨体に見合った大きなこぶしを握りこみ、振りかぶる。その際、拳が壁面とこすれてガリガリと削れていくが、そんなのはお構いなしのようだ。


 恐らくコレに知能は無い。エントの話から察するに、財宝を守るための迎撃装置だろう。それなら話は簡単だ。


 振り下ろされた拳と壁の間を滑り込むようにしてスルリと抜ける。打ち付けられた衝撃が地面を波立たせる。そのまま脇を抜けてヤツの背後に回る。


 こんな地下では、図体の大きなゴーレムは振り返ることすらままならないようだった。ガツガツと石柱に体をぶつけながら身をよじっている。


 見事に大きな隙を晒してくれる。チャンス。きっとどこかに命令信号を出している核があるはずだ。大方、それは頭か胸。


 目を凝らすと、魔力のよどみが見えてくる。分厚い外皮に覆われていてはっきりとしないが……。


 ──ここだ!


 一番魔力の濃い部分、右胸のあたりに背後から拳を突き立てる。岩のような外皮が衝撃を受け止めきれずにボロボロと崩れ落ちる。しかし核まであと数センチの所で拳が止まる。想定よりずっと深い。


 ゴーレムはギアを一段階上げたのか、手足をデタラメに振って暴れまわる。このままじゃ先に迷宮の方が崩れ落ちてしまう。そう思ったのも束の間。


「よくやったライリー!」


 師匠が大きく飛び上がり、ゴーレムの胸に突き刺すような蹴りを叩きこんだ。それは完全に核を打ち抜き、体は大きな岩の塊となってガラガラと崩れ落ちた。


 グゴゴゴゴゴゴ──。


 再びの地響き。コイツの崩壊を合図に、次から次へとゴーレムがあふれ出す。


「そりゃあ一体だけじゃないですよね……!」


「近くのヤツから一体ずつ相手する!頑張ろうな、ライリー!」




 最奥らしい扉を見つけた時には、僕も師匠も満身創痍だった。


「……ついにたどり着いたぞ。ようやく財宝とご対面だ!」


 扉に触れようとした瞬間、突然ペンダントが光を放つ。そういえば、この迷宮に入った時からじわじわと輝きが増していた。


「もしかしたら、財宝の中に本が紛れてるのかも……?」


 師匠は扉に体重をかけながら、ゆっくりと動かした。


 小さな部屋の中心に、祭壇が一つ。そこに祀られるようにして、一冊の本が置いてあった。光り輝く財宝は、どこにも見当たらない。その代わり胸のペンダントは、その本に激しく反応を示している


「あれ、相当溜め込んでるってはずじゃ……」


 僕は少し呆気に取られて言った。


「それじゃあ、まさかあの本が……?」


 師匠は祭壇に駆け寄って本をそっと取り上げると、パラパラとめくった。


「ふふふふ、なるほどな……。これは確かに財宝だな」


「何が書いてあるんですか?」


「農業の指南書だよ、この本は。しかも書いてあることは、今となっては誰でも知っているようなことばかりだ」


 師匠は本をパタパタとさせる。


「でも当時見つけた本人にとっては、新しい発見の連続だっただろう。魔界で農作物を育てる物好きなんて、他にいないからな」


「……なるほど、農業に精通した爺さんってのは、その本を読んで知識を得たんですね」


「もしくは彼自身が書いたか、だね。そして何を思ったか、この本を迷宮を作ってゴーレムに守らせたんだ。彼にとっては絶対に無くせない宝物だ」


 ひとしきり本をめくり終わると、ペンダントはまた急に光を失って、今度はまた別の方角を示し始めた。


「それにしてもこのペンダント……全然目的の本を探知してくれないじゃないですか。師匠、コレどこで手に入れたんですか」


「い、いやあ。ちゃんと信頼できる人から譲り受けたはずなんだけど……。なんでだろう、聞いてた話と違うなぁ……」


 今のところコイツが反応したのは、白紙の本とこの農業指南書か。どちらも本の体裁をしていて、当時の種族にとっては貴重な物だったのだろう。だが僕らが目的としている本ではない。


 ……考えても仕方ない。もう魔界に来てしまってるんだ。これに頼って、1つ1つ見定めるしかあるまい。


「……帰ろうか、ライリー」


 師匠も同じ結論に至ったようだった。


「そうですね、師匠」


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