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水に、うつる

作者: 東雲夕夏
掲載日:2025/08/13

夢想、絶望、希望、諦念、挑戦、成功、失敗…

人は多くのものを経て移ろい変わりゆくものである。


それは自分とて、家族とて、友人とて…

誰しも例外ではない。


あなたは自分が、友人が変わってしまった時、それを受け入れられるのだろうか。


あなたも覚悟しておくといい。

「変化」はいつでも起こりうるのだから…

どれくらい経っただろう。

呼び鈴を鳴らしてから、かれこれ4、5分は待っている。


今日は(みなと)と海で遊ぶ約束をしていたのだが…


「おーい、みなとー?いるかー?」


不意にドアが開き、湊が顔だけを覗かせる。


「あぁ、悪い。さっきまで昼寝をしててな。申し訳ないが、もう少しだけ待ってくれないか。」


「昼寝ってお前、寝不足か?」


「…まぁな。」


それだけ言うと湊はまた奥へ消えていった。

今日は非常に乾いた夏日である。

まさしく、海にはうってつけの日である。

太陽と向日葵が相照らす。少し風がざわめいて、焼けるようなアスファルトに蝉が落っこちた。


ドアの奥からドタドタと足音が響いたかと思えば、


「悪い。またせた。」


「ほんとにな。だいぶ待たされたわ。」


湊は寝起きだからか、テンションがいつもより低いようだ。


「さ、早く行こうぜ」


海に入れば、湊だって目が覚めるだろう。

それまでは俺が気を使って、盛り上げて行かなきゃな。


「そういやぁお前さ、課題終わったか?」


「え、あぁ、まだいくつか残ってるよ」


「おい、そろそろまずいんじゃねぇの?何を残してるんだ?」


「あ、あ〜、数学のやつだ。悪い、寝起きで頭回らなくてな。」


「数学?あ、基礎演習だろ?あれ、最後の方なかなか難しいぜ?早くやれよな」


「そうだな、急がなきゃ。」


焼けるような暑さの中、他愛もない話を盛り上げる。


そろそろ話題も尽きた頃だったが、

「あ、おい見ろよ、海が見えてきたぜ!」


砂が混じった潮風が熱風を運んでくる。


「おい、早く行こうぜ!」


湊の事も考えずに駆け出してしまったが、案外湊もついてきた。


海水浴場について早々に更衣室で水着に着替えた。


「おーい、みなとー?」


「ん、おまたせ。」


湊の姿を見るなり、海を目掛けて進み出した。

目の前に冷たい海があるというのに、我慢する方が無理である。


早速海に入り、湊を待つ。

湊は少し躊躇しているようだったから、おもむろに水をかけてやった。


「…おい!やめろよ!冷てぇ!」


「へへ、お前が(しお)らしかったからな!潮水のお見舞いだ!」


「くそっ!待ってろ!今行ってやる!」


案の定、湊も急に元気を取り戻した。


爽やかな潮風が僕らの髪をなびかせた。

蝉の音が遠くから響いてくる。

二人は陽気に当てられて、今までとは打って変わってはしゃぎ続けた。


流石に疲れた。ずっと泳ぎ続け、何度も水をかけあった。日焼け止めを塗ったのに、顔は焼けてしまったようだ。日も落ちてきた。


「そろそろ上がろーぜ!流石に疲れてきた。」


「そうだな、俺も疲れたわ。」


そう言い、海から上がると、後ろから冷たい水をかけられた。


「うわ、」


「へへ、最初のお返しだよ」


「くそ!」


二人は笑いあった。


湊を誘って良かったなと思う。朝は元気がなかったが、今ではこんなにはしゃいでる。楽しい一時だった。


シャワーを浴びて、帰ることにした。

汗や潮水を洗い流す。

シャワー室から出ると、今度は湊が既に待っていた。


「お、待たせたな」


「ん、帰ろう。」


あれ?またしても湊の元気がない。少しくたびれて見える。寝不足が(たた)ったのだろうか。


錆び付いたような太陽が二人を刺す。

だんだんと陽が落ちてきて、世界が色味を無くす。風は温もりを失った。


「なぁ、大丈夫か?」


「何がだ?」


「いや、元気ねーからさ」


「え、そうかな?あんまり自覚は無いのだが。」


「いや、元気ねーよ。夏バテでもしてるんじゃねーの?」


「いや、大丈夫だよ」


「ほんとか?…ほら、これ飲めよ。スポドリだ。塩分が採れて体にいいぜ?」


「いいよ。流石に悪いし。」


「いいって、ほら、飲めよ。熱中症になるぞ?」


「いや…」


湊に無理やりスポーツ飲料を渡した。

湊は少し怪訝な顔になりながらも、それを飲み干した。


「ほら、やっぱり喉乾いてたんだって!」


「そうかもな、お陰で元気になった!」


「おぉ、急に元気だな」


「そんなにか?さっきと変わらん気するけど?」


「いや、全然ちげえ」


日はほとんど暮れてしまった。

月が微笑むようにこちらを覗いている。

湊の家まで着いた時、彼の顔には幸せが滲んでいた。


「またな!」


「おう、またな」




…その夜。湊はベッドの上で一人考える。

昨日からどうも様子がおかしい。ぼうっとしてしまう事が多く、気力も無くなっているような気がする。

寝不足か?いや、昨日もいつも通り11時には寝たはずだ。

ただいつもと違ったのは、やけに喉が渇いたことと…


探してみても、もっともらしい原因は思いつかない。

言われた通り、夏バテなのだろうか…

思い悩み続けてみたが、これ以上は無駄だった。

考えても仕方ないこともある。今日は寝よう。


変な事ばかり考えていたからだろうか、嫌な汗をかいてきた…ごくりと()()()()

以前はこれ程に疑り深い人ではなかったのだがな…


翌日。

ベッドの上で目が覚める。

湊は起きて早々、洗面台へ向かう。

顔を()()

濡れた自分の顔が鏡に写る。

水滴が隈を伝う。頬を滴る。口角を下になぞる。

気だるさが増してきた。


朝食も取らずに、机に向かう。

今日こそ数学の課題を終わらせなければ…


午前11時。

どうもやる気が出ない。

エアコンを付けた涼しい部屋で、かれこれ2時間はノートを見つめている。

気が滅入ってきた…

少し()()()()()

冷たい水が喉を通って、体内へ…なが…れて…


午後3時。

傾いた日に照らされて、ようやく目が覚めた。

どうやら寝てしまっていたようだ。

ノートに()()が染みていることに気がついて、はっとする。

急いで拭いてみたが、明らかなシミが残ってしまった。

しかし、寝たおかげか、気力が回復した。

このまま一気に課題を片付けてしまおう。


午後7時。

課題も残す所あと数ページ。

夕飯を後回しにして、ラストスパートをかける。

難問が続く。

ペンを握る手に力が入る。


あと3ページ。

問いを読む。

解法を考える。

解を書く。


あと2ページ。

問いを読む。

解法を考える。

解を書く。


あと1ページ。

問いを読む。

解法を考える。



()()()()



翌日。

机の上で目が覚める。

重たい頭を持ち上げて、洗面台へ向かう。

顔を…

やつれた顔が鏡にうつる。

涙が隈を伝う。頬を滴る。口角を下になぞる。


驚きを隠せなかった。

完全にやせ細った顔。生気のない血色。輪郭が鮮明な頬骨。目を覆う隈。

驚いて伸ばした手さえも、骨の形が分かるほどにやつれていた。


到底信じられなかった。

鏡に写るのが自分かさえも判別できなかった。

怖かった。

なぜかは分からない。

あれが現実かも知らない。

タチの悪い夢かもしれない。

でも、そんなのどうでもよかった。


逃げた。

現実から。悪夢から。

鏡から。水から。

走った。

自分の部屋へ。

ベッドの上へ。

何も考えなくてもいい場所へ。

夢へ。非現実へ。理想へ。普段へ。日常へ。普通へ。


途中、祖母の自宅墓(じたくぼ)に足をぶつけた。

供え物の塩を巻き散らかした。

腕にも足にも()()()()()

それにすらも恐怖して、逃げ続けた…


目が覚める。

ここはベッドの上だ。

頭痛がする気がするが、体は動く。

恐ろしい悪夢はまだ続いているのか…?

恐る恐る手を見る…

麗しく肉の着いた指が5本揃っている。

塩が付着している腕も、肉厚に戻っている。


目に付いた涙の跡を拭う。

一体、なんだったのだろう。

…最近、調子が悪いのって…


スマホが鳴る。

電話が来ているみたいだ。


「うぃっす、一昨日ぶりだな、元気してる?」


「元気じゃない。最近、体調が変なんだよ。」


「おいまたか?ちゃんと栄養取ってるか?ビタミンとか、鉄分とか、()()とか」


「あ〜…」


そういえば昨日は一度も食事をしていなかったな…

そりゃ不健康にもなるか…


「そういえば昨日、食欲が湧かなくてさ。何も食べてないわ。」


「はぁ?お前、マジか」


「いやぁ、ついね。」


「んじゃあさ、今日、昼メシ行こう!予定はない?」


「あ〜、ないよ。行こう。」


「んじゃ、12時に駅な」


「分かった…悪いな。心配かけて。」


「ほんとにな!健康には気をつけろよ!昼寝も程々にな!」


「わかってるよ。」


12時に駅か…

30分後に家を出れば余裕をもって間に合う。


とりあえず外出の準備をしよう。

バッグもって、スマホ入れて、財布入れて…

飲み物も持っていこう…天然水を…

いや、スポーツドリンクにしよう。

塩分も大事らしいからな…


…よし、行こう。

少し遅くなってしまった。

だがまぁ、決して間に合わない時間ではない。

駆け足で駅へ向かう。

()が滲み出てきたが、足は軽い。

()()()()()()()()()()()()()と、体は更に軽くなった。

家を出て20分。

今までの不調が嘘のように、軽快な足取りで駅までたどり着く。




11時50分。

約束の10分前。

俺は駅に向かって歩いていた。

湊が心配だ。昨日から何も食べてないらしい。

今日は栄養満点の料理を食べさせるしかない。

確か駅の構内に、夏バテ予防料理を提供している店があったはずだ。


おや、あの人影は湊だ。

もう着いていたなんて。


「おーい、みなとー、おまたせー」


「お、うぃっす、おつかれ」


「よし、早速メシ屋行こうぜ」


「どこ行くとか決めてるん?」


「お前にピッタリの所知っててさ!夏バテ予防のメニューが沢山ある所なんだけどさ、ここがマジで美味いらしいの」


そう言い、スマホの画面を見せた。


「中華?」


「いや、イタリアン。ここのパスタが人気らしい。」


「パスタか、いいね、お腹空いてきたわ」


「そりゃそうだろお前!昨日から何も食ってねーなら腹も減るわ!」


からかいながら、イタリア料理店「angelo di sale」に入る。


レンガ模様の壁と、ほのかな温もりを灯すライト。

店内は静かでありながら、活気が伺えた。


ウェイターが席まで案内してくれた。


「うわ、おしゃれ〜」


「俺ら場違いじゃないか?」


「大丈夫だよ、学生にも人気な店なんだから。」


ウェイターが水を持ってきてくれた。


「それより、ほら、これ見ろ」


そう言ってメニューを指す。


「これが夏バテ予防として人気なやつだよ!」


「サーモンと菜の花の塩オリーブパスタ?」


「そそ!美味そうだろ?酸味と苦味が絶妙で美味しいんだってよ!」


「確かに美味そうだな。じゃあ、これと…このハムも食べようかな。」


「んじゃ、俺も同じパスタと、モッツァレラのサラダにしよ!」


注文を終えると、他愛のない話を始める。


「そういやぁ、お前、基礎演習終わったか?」


「数学のやつだろ?昨日一日通して終わらせ…いや、まだ1ページ残してたっけな。」


「あー、最後の難問な。あれだけ急に難しくなるよな。」


湊が課題を進めていたのを知って安心した。

どうやら少しは夏バテが解消されたようだ。

なら、このパスタを食べれば完全回復間違いないだろう。


非常に楽観的な考えだが、そう信じるのが楽だった。

それに、湊が夏バテにやられる姿を想像できない。




湊は素直に楽しんでいた。

友人が近くにいるというだけで安心感がある。

まして、今は快調だし、今から美味しい料理を食べる。

友人が自分の身を案じて紹介してくれた料理をだ。

幸せと言う他ないだろう。


その気持ちに相槌を打つように、食器が鳴る。

ちょうど料理が届いたようだ。


赤、黄色、緑のコントラストが美しい。

視覚からでも酸味が伝わるような、新鮮な輝きを放っている。

菜の花はあたかも、まだ生き生きとしているようだ。


喉がごくりと鳴る。

ふと水に手を伸ばす。

()()()()()()()とたん、目眩がした。

体が焼けるように熱くなり、腕が見る見るほそくなっていく。呼吸が荒くなる。


慌てて()()()()()()

フォークを持つ手が震えているのが分かった。

2、3口食べたところで、ようやく落ち着いた。


「やっぱりお前、むっちゃ腹減ってたんじゃん。どう?美味い?」


「あ、あぁ、むちゃくちゃいい。酸味が…()()()…落ち着く…レモンか?オリーブか?分からんがめちゃくちゃ落ち着く…」


「落ち着く?独特な表現だな。お前食レポとか向いてるんじゃね?」


「そ、そうかな…」


忘れかけていた今朝の記憶が蘇る。

コップの中で揺れる水面が、悪魔的に微笑みかけている気がする。


水を飲むと…

腕が…指が細くなって…肉と皮だけになって…

自分が内側から壊されているような…

少しずつ消えていくような…

そんな感覚に侵されていく…


「この店、また来たいな!」


「あ、あぁ、そうだな」


あいつは気づいていない?

ならばただの気のせいなのだろうか…

幻覚なのだろうか…


そういえば以前、誰かが言っていたな…

「人間は思いもよらぬ事で『変化』を得る」と

特に、僕らみたいな受験生は、ストレスによる「変化」が起きやすいとか…

「もしかして僕も…」と考えが頭を通り過ぎた。


しかし今は、そんな事はどうでもいい。

とりあえず目の前のパスタを食べなければ。

一口一口に溢れんばかりのパスタを口に入れ込む。

…まだ足りない気がする。

ハムにも手をつけて、あっという間に完食してしまった。


食べきってからようやく冷静になれた。

目の前の友人が少し困惑しているようだった。


「はは…すまん、腹減ってたから…つい…」


友人の前ではしたない姿を見せてしまったと恥じらった。


「んま、そりゃそうよな。いいぜ、気にすんな」


良い友人を持ったものだ。

彼が食べ終わるのを待って、会計をした。

会計は1,500円と学生には少し高い金額だったが、彼が言う通り、また来たいと思える店だった。


店のドアを抜けると、少し遠くから轟音が響いていた。


「うそ、雨の予報じゃなかったのに…」


慌ててスマホを見ると、ニュースサイトがゲリラ豪雨の報道をしていた。


「これじゃあ、しばらくは雨宿りだな。」


そういい、近くのベンチに並んで座る。

少し頭が痛くなってきた。

昔から偏頭痛が酷いのだ。

せっかく元気を取り戻したばかりなのに、残念なものである。


気紛らわしにスポーツドリンクを飲むと、頭痛が治まった気がする。

この豪雨はあと20分ほど続くそうだ。


風向きが変わり、雨が振り込んできた。

スポーツドリンクはもう無い。


雨で煩くなった景色を遠く眺める。

雷鳴が響く。

木々が嘆く。

電線が揺れる。


少しづつ雨足が弱まって、ようやく友人の声が聞こえてきた。


「…おい、大丈夫か?」


「あ、あぁ、偏頭痛がしてぼうっとしてたわ…」


「偏頭痛か…頭痛薬持ってるか?」


「あぁ、あるよ…それより、帰ろうか…今帰らないと、また雨が降るぞ」


「そうだな…ほんとに大丈夫か?一人で帰れる?」


「心配しすぎだ。」


「そうか…またな」


「…じゃあな」


振り向きもせず駅から歩き出した。

濡れた地面が足跡を遺す。

泥が僕の足を掴む。

葉から滴る雨が前髪を濡らした。


雲はまだ黒ずんでいる。

傘は持っていない。


ぽつりぽつりと

また雨が降り出した。

やがて泥がどよめきだし

木がざわめきだし


地面を叩きつけるように

頭を殴りつけるように

鋭い雨が

髪を

隈を

頬を

唇を

胸を

体を濡らす。


世界が音を失う。

風が温もりを失う。

街が色味を失う。


少女の泣く声がする。

親をひたすらに呼んでいる。

季節外れのカナリアが鳴いている。

早咲きの彼岸花が華麗に座っている。

目の奥が藍に染まる。


ほとほとと歩く。

宛も分からず

惰性だけで。


水たまりに足を踏み入れる。

水面に自分がうつる。


水面が「湊」に問う。


「お前は何者か」


「俺は…」




未完です。

まだまだ書き足して行きたい。






…ホラーとは?

オチもしっくりこないし、

よくわかんないホラー(?)に仕上がりましたね、

なんだこれ。


ホラーって、書くの難しいんですね…

人に怖がって貰う方法も分からないし、

怖くなるように書くための表現も上手く見つからない…

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