鋼の誇りと裏切り
第四章「鍵と騎士」
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視界を覆う煙の中、火花が瞬いた。
ユウトの撃った銃弾が鉄の装甲をかすめ、カナメの剣がその合間を縫って斬りかかる。
だが、あの“謎の騎士ロボット”は微動だにしない。
煙幕の中でも、迷いなく正確にカナメの一撃を盾で弾いた。
「遅い」
低く、冷たい声が鉄の響きとともに響く。
ガンッ――!
盾の裏側から繰り出された拳が、カナメの腹を突き上げた。
「ぐっ……!」
少年の身体が軽々と持ち上がり、地面を転がる。
「カナメッ!」
ユウトが叫ぶ間もなく、騎士型ロボットはユウトの方へ向き直った。
「その銃……かつて、私はそれと肩を並べた兵士たちを守った」
ゆっくりと歩く足音に、重みと殺気が滲む。
「だが、連中は私を“役目を終えた兵器”と呼び……廃棄した」
「な、なんでそんな昔話すんだよ、今さら……!」
ユウトは後ずさりながら引き金を引く。
連射された弾丸は、そのうち何発かが膝や肩の関節部に命中するも、効果は薄い。
「……くそ、ちっとも効かねぇ!」
「人間の正義など、上辺にすぎん。貴様らに価値を問う資格はない」
――ズガァン!!
騎士の剣が地面を裂く。
その衝撃波が、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
「っ……強すぎるだろ……!」
ユウトは飛び退きながら手榴弾を投げる。
だが爆風の中から、平然と奴は歩いて出てきた。
「攻撃、全部読まれてる……! こいつ、俺らの動きに完全に慣れてやがる……!」
そのとき――
「ユウト、右斜めから援護しろ」
傷だらけのカナメが、瓦礫の隙間からすっと姿を現した。
息を乱しながらも、目はまだ死んでいない。
「時間を稼ぐ。反応にわずかに遅れがある瞬間がある……おそらく、関節の負荷」
「お前……見えてたのか……?」
カナメは短くうなずいた。
「俺が近づいて剣を囮にする。お前は、その瞬間を撃ち抜け」
「無理だろ……っ。こいつ、普通に俺の攻撃、全部受け止めて――」
「できる。お前の銃は、一発で状況を変える力がある」
その言葉に、ユウトはごくりと唾を飲んだ。
――信じてんだ。こいつは。
自分が斬って、俺が撃つ。その先に、勝てる未来があるって。
「……わかったよ」
ユウトは銃を構え直す。
「やってやろうじゃねぇか」
カナメが剣を振り上げ、一直線に突っ込む――!
「またその剣か」
騎士は盾を構え、迎え撃つ。
ガキィィィン!!
鋼と鋼がぶつかり、閃光が走る。
「今だ、ユウト!」
「いけええええぇぇっ!!」
ユウトの銃口が火を噴いた――
一発、二発、三発……そして四発目――
“キンッ!!”
関節部、左肩の装甲が砕けた。
弾が中の制御軸を撃ち抜いたのだ。
「……なにっ」
初めて、騎士の声に動揺が混じる。
カナメの剣が、一瞬の隙を逃さず、シールドと腕の継ぎ目を斬り裂く!
「これで……終わりだぁッ!!」
斬撃と銃弾が、騎士の胴体中央に重なる――!
機械の目が赤から淡く揺らぎ、火花が散った。
装甲の隙間から、蒸気と煙が噴き出す。
ガガ……ッ、ジジジ……
その場に膝をついた騎士が、ようやく動きを止めた。
――倒した。
ついに、俺たちは“ラスボス”を仕留めた。
……そう、思ってたんだ。そのときは。