失われた空と最初の鍵
毎日一話ずつ更新していきます。
全15話程度の中編小説です。
第一章:失われた空と鍵
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この世界には、昔“空”ってやつがあったらしい。
信じられるか? 上を見上げたら、青くて、果てしなくて――自由ってやつが広がってたらしい。
でも今は、いつだって灰色だ。
まるで世界が呼吸するのをやめちまったみたいに、重たくて、静かで、どこまでも冷たい。
俺はユウト。
昔はただの流れ者で、できることもなくて、人の役にも立てないやつだった。
銃だけは持ってたけど、それをどう使うかも分からなくてさ。
でも、今は違う。少しだけ、俺は変わった。
隣に――こいつがいるから。
「前方、音。振動も少し。反応、ある」
カナメが呟くように言った。
年はまだ若い。でも、妙に大人びてて、何を考えてるのか分からない。
でも、言うことに無駄はない。必要なことだけ、的確に伝えてくる。
それが――カナメってやつだ。
「おう。んじゃ、頼りにしてるぜ」
俺はアサルトライフルを手にして、安全装置を外す。
場所は西の工業区跡地。崩れた鉄骨と錆びたパイプが入り組んだ、死んだ街の残骸。
そして、そいつは――煙の向こうから現れた。
ガシン、と金属の足音。
見るからにボロボロな装甲、熱で焼けただれたような背中のフィン。
でも、赤く光るセンサーだけはぎらぎらと生きていて、こっちを確実に狙っている。
「お出ましかよ……」
俺が唾を飲み込むと同時に、そいつは爆音を上げて突っ込んできた。
「来る!」
カナメが即座に跳んでかわす。
その動きがあまりに自然で、俺は一瞬見惚れた。
が、そんな余裕はなかった。俺も横に飛び、地面が爆ぜる音を背中で聞く。
「マジで突進型かよ……っ!」
息を整えながら銃を構える。
フルオートで撃つが、弾は装甲に弾かれて火花が散るだけ。
カナメが横から斬りかかる。だが刃がかすった程度では、こいつは止まらない。
「装甲、思ったより厚いな。正面は無理だ」
カナメの言葉は落ち着いてるけど、少し息が上がってる。
少年らしい声に、ほんのかすかな疲労がにじむ。
「じゃあどこ狙う!?」
「右肩の排熱口、開いてる。あとは背中」
「やってやんよ!」
俺は物陰に飛び込み、そこから排熱口に向けて一気に三点バースト。
銃声が響き、肩の装甲が火花を散らして裂けた。煙が噴き出す。
「よし、やったか……?」
「まだだ」
カナメが跳躍する。
細身の体で空を切り、右肩へと回り込むと――剣が風を裂いた。
一撃、二撃、正確に裂け目をなぞるように切り込む。
だが、機体は反撃に出た。
肩の砲口がギュンと回転し、カナメの背中を捉える。
「伏せろッ!」
俺は叫びながら連射を叩き込む。
銃弾がセンサーに命中し、狂ったように火花を吹き上げる。
カナメが身を引き、砲口が外を向いた。爆音。鉄骨が吹き飛んだ。
「今だッ!」
カナメは即座に踏み込んだ。
その目は冷静だった。年齢を感じさせないほどに研ぎ澄まされていて――だけど、どこか幼さも残ってる。
「沈め」
たった一言。
そして剣が胸部に突き刺さる。
爆発音。光。震えるほどの衝撃。
巨大な暴走ロボットは、バランスを崩しながら、ゆっくりと倒れ込んだ。
しばらく、俺は動けなかった。
呼吸が乱れて、足が震えて、それでも俺は生きてた。
「……やった、のか?」
「止まった。反応もない」
カナメが倒れた機体の胸部を剣でこじ開けた。
中には、なぜか、ほんのり光るパーツが収まっていた。
「これ、何だ……?」
カナメはそれを手に取って、じっと見つめた。
「……鍵。空を取り戻すためのもの。そう聞いた」
「はあ!?」
「これがそうなのか確信はない。でも、これはただの部品じゃない」
その声には、少年らしい不安が一瞬だけ混じっていた。
でもすぐに、またいつもの無表情に戻る。
「この先、まだある。いくつか――こういう“鍵”が」
「おいおい……話がでかくなってきたな」
俺はそう言いつつ、笑った。
だって、こんな灰色の世界で、“空を取り戻す”なんて話が出てくるとは思わなかったからさ。
「……でも、悪くねぇな。そういう夢物語。こいつを集めたら、ほんとに青空が見えるかもしれないってんなら――」
「行く?」
「当然」
まだ信じられないことばっかだ。
でも、この旅は、もう止まらない。
ひとつ目の鍵を手にして、俺たちはまた歩き出す。
灰色の空の下で、少しだけまぶしい光を感じながら。
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駄作ですが楽しんでいただければ幸いです。